腹減りヒュ 腹が減ったとヒューベルトは宮城の螺旋階段を降りていた。
今日は可及的速やかに処すべき案件があったため早朝に城を出立し、ろくな食事をせずに過ごしていた。昼飯は食べた記憶がないので食べていないだろう。夕方に空腹感を感じ、では何か食べに出るかと席を立つのを見計らってか、更なる仕事が舞い込んでくる。
目の前に仕事の束を置かれると、まずはそれを片付けたくなる性分らしく、感じていた空腹感は仕事欲に取って代わられた。星と月が顔を出し、親が子を寝かしつける時刻に食堂が空いているはずもない。だがヒューベルトは食堂に向かう足を止めない。
食事時間に来られない人のため、食堂には自由に調理できる食材やら機材やらが置かれているのだ。それらを使って何か、腹に溜まるものを食べたい。できれば味が濃いものがいい。温かければなおよい。
食堂の扉を開けば予想していた人物が予想通りの行動をしており、ヒューベルトは手抜きができると音なく近づいた。調理場にいたのはフェルディナントで、彼は上着を椅子に掛け、伸びた髪を後ろで一括りにして鍋を覗き込んでいる。
「私にもください」
「うわぁああ! あ、ああ、ヒューベルト」
猫がウリ科の野菜を見て飛び跳ねるように肩をびくつかせ、くるりと振り向くと持っていたお玉と鍋蓋で攻撃態勢をとるフェルディナント。ヒューベルトは突き付けられるお玉から滴る汁が床につかぬよう、フェルディナントの腕を押して鍋上まで移動させた。
フェルディナントは戦続きで腹が減るのか、この頃は自身で夜食を作っていた。曰く「栄養に偏りが出ても、味が濃いものが食べたくなる時があるのだよ!」だそうだ。
彼は前線に活躍の場を置くため、万が一の体調不良も許されない。ゆえに体調管理と食事制限を先生およびマヌエラ殿によってされている。つまり、好きな物を好きなように食べられないというわけである。
「肉団子汁ですか」
「内密に頼むぞ」
「腹が減るなら相談されてはどうなのです」
食べすぎはよくないが、こうも頻繁に腹が減るとなると総摂取量が足りていないに違いない。なにせこの診断をしたのは数年前だ。目覚ましく発達を遂げた男子の成長率に見合っていない可能性は十分とある。
「進言してみたところ、蒸かした芋を散々食べさせられたのだ。せめて、せめて塩をつけさせてほしかった!!」
「ご愁傷様ですな」