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    hanakagari_km

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    hanakagari_km

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    ロナルドくんが死んだのを目の前で見たドラルクさんの話。
    94をちょっと書いてた時のやつ
    ※死にネタ注意

    ロナルドくんが死んだロナルドくんが死んだ。
    それは呆気ないほど簡単に、私の目の前で彼は胴体にいくつもの穴をあけた。
    ぽっかりと開いた空洞からは適性吸血鬼、危険度Aクラスの醜悪な肢体が覗いている。うねうねと不規則にうねる蛇腹状の体は鈍く光ると興が乗って愉快に踊り、若造の穴を通して言葉を失った私を嘲笑っている。人間などという下等生物に情をくれてやるからだ、馬鹿めと。
    ぱしゃりだっか、ぷしゅーだったか、そんなちんけな効果音が付きそうな勢いであけられた空洞から真っ赤な血が溢れていく。逞しい彼の腕が腹部を庇うが、血が止まることはない。よたついて膝をつき、後ろに倒れ込む若造の背中を慌てて抱きとめると、抉られた質量が知れた。あんなにも重たい筋肉を蓄えていたというのに、脆弱の申し子たる私が抱きとめられる軽さなのだ。助からない。もはや手遅れだと理解しつつ、芳醇に香る新鮮な血液に酔ってしまいそうで。
    即死ではなかったが、辞世の句はなかった。青空を灯す瞳が最期に私を映して暗く濁ってしまった。何事かを口にしたがっていたようにも見えたが、喧騒の最中で私に届く声はなかった。
    人間の命の短さは、長命種たる私にしてみれば数度の瞬きや欠伸、それこそふと目を離した瞬間失せて消える短さだというのに、ロナルドくんは加速して駆け上り、打ちあげ花火のように激しく燃えて消えた。
    助けた少女が絶叫に相応しい声で泣き叫んでいる。耳をつんざく咆哮に危うく塵になりかけるのを気合で止める。いけない。呆けている場合ではない。
    他の退治人たちは急に突き付けられた凶報を受け止められないのか動きが鈍っている。渦中において私は、腕の中で冷たくなった同居人に対して悲観を抱くことはなかった。
    ただ、ああもったいないと。こんなにも一瞬で散ってしまうと知っていたなら、夜ごと繰り返される喧嘩の末、もう寝ると無防備に晒されるうなじを噛んでしまえばよかったのに。なんてもったいないことをしていたのだろう。口惜しい。私が手ずから愛した昼の子だというのに。
    なぜ人間は一度の死で世から離脱してしまうのか。もう少しガッツを見せてほしいものだ。そうともガッツ。ウッカリ死んでしまったロナルドくんが幽霊などという存在、例えば地縛霊や悪霊に転じたなら、この高等吸血鬼ドラルクさまが再び飼育してやるというのに。あのクソガキ、霊にもならずに消えやがった。
    許すまじ。
    貴様のリクエストした大量の唐揚げを誰が処理するというのだね。誰が私の満足感をフルチャージできるほどに「美味い」と声をあげ、噛んでいるのか飲み込んだのか心配になる速度で食事を平らげて口周りを汚すというのか。
    絶対に許せない。
    この私の寵愛を受けておきながら許しもなく世を去るなど、ふざけやがって! 母なる神やら釈迦といった人を超越した存在が彼の死を是としたとしてもだ! 
    この私が許さないのだから許されるべきではない、そうだろう。若造についての全権はドラドラちゃんにある。異論は認めない。断じてだ。貴様の口から満足のいく謝罪を聞くまで私は断固として抗議する。
    だからロナルドくん、蘇ってくれ。
    綺麗に土下座して「パーフェクティブドラルクさまに飼育される卑しき身分でありながら許可なく御前より失した不敬をひらに詫びて~」なんとかどうとかは、まあ省いてもいいよ。殴り殺したとしても見逃してやろう。なんといっても私は寛大だからな。
    許してあげるから。今ならまだ、許してやる小僧。
    さっさと甦れ。蘇って土下座して詫びて――声を。
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