すりよる Ver.1 甘い方 【フェヒュ】 息苦しさを感じて目を開ければ、己の口がフェルディナントの胸板で塞がれていた。
はふりと口を開けて息を取り込めば、唇の先から伴侶の鼓動が響いてくる。
窓から差し込む光で、起きるには早い時間だと理解できたが目が覚めてしまった。
一度覚醒すると二度寝が難しい体質である。ならばと眠りの中にいる相手を観察することにした。
フェルディナントに近づくと、彼は眠ってもなおヒューベルトを抱きしめてきた。暑苦しいが確かに高鳴った胸の弾みに気をよくして、悪戯をひとつ思いつく。
盛り上がった立派な胸筋に唇を落とし、痕をつけようと試みる。
いつもは情事の折、いつの間にかフェルディナントによって体のいたるところにつけられる痕。こんなところにもと姿見を見て驚く朝を思えば、自身がする悪戯は可愛らしいものだろうと肌を吸うが、濃く色づかない。足りなかったかと次は若干強めにしても、はやり淡い色が残るだけで、自身の体に付くような赤い花が咲かない。
すりすりと肌を指先で撫でるが変わったところはなく、いたって普通の皮膚だ。
もしや彼は皮膚まで頑丈なのかとムキになって痕をつけようと再挑戦し、幾度かの試みの上、ようやく満足のいく赤い花をつけることができた。
唇が疲れたとシーツに頬を戻せば、斜め上に見えたはちみつ色の瞳。
朝の光の中でキラキラと輝くそれは美しく、目を細めていると、はちみつが近づいた。
甘い香りがした気がして、一瞬目を閉じれば、頬を両手で取られ、首を傾けられると唇を奪われる。
「んう!?」
取られている頬を掴んでいる腕に手をやるが、思ったよりも力強く剥がせない。
朝に感じるには色気づき過ぎた刺激が腰から背にかけて這い上り、ヒューベルトはいけないと暴れた。今日も執務があるのだ。このまま行為を続けられては、椅子に座れなくなってしまう。
「ふぇ……るでぃ、…っ、いけませ――んンっ! フェルディナント殿」
胸板を叩いて止めると、息が切れていた。
急に始まった行為に、ヒューベルトはなにをしてくれるのだと相手を睨んだが、こちらを見つめる瞳に揺れる感情が、情欲に染まっていることを理解すると喉奥で声を止めた。
ずるりと近寄る相手から身を離すべく下がるが、腕をシーツに縫い止められる。
フェルディナントが彼の髪でオレンジのカーテンを作りながらヒューベルトに伸し掛ると、陽光に照らされ黄金のように煌く髪にヒューベルトは目を奪われた。
「ヒューベルト」
「……おはようございます」
「すまないが、とまれそうにない」
「今日は昼に外せぬ用事がありますので」
「それまでには解放しよう」
座れる状態で手放してもらえるのか甚だ疑問であったが、悪戯をしたのは自分なので、こちらにも非があるかとヒューベルトは手の力を抜いた。
自身の肌に、新たな赤い花が咲いたのはすぐのことであった。