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    hanakagari_km

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    hanakagari_km

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    ハロウィンの何か 【フェヒュ】未完「で、できましたわ!」
     コンスタンツェ=フォン=ヌーベルは薄暗いガルグ=マクの地下、アビスにて怪しげな魔道式を組み上げていた。
     宙に展開された七色に発光する魔法陣は、その効力を示してしてか滑らかに怪しく光っている。
     栄光あるヌーヴェル家を思い起こさせる神々しさに恍惚と目を細め、さて、誰にに試そうかと考えた。
     つい勇み足で魔法陣を展開させてしまったが、ここはアビス。コンスタンツェの魔法実験の犠牲者――もとい、高尚な魔道の披検体になりたいと挙手する者が少ない場所。
     皆、素晴らしい魔法を体験する栄誉を辞退する慎ましい精神の持ち主なのだ。遠慮しなくてよろしくてよ、と常々思っているが。
     ユーリスとバルタザールには脱兎のごとく逃げられるし、ハピに至っては、もしハピで実験したらため息つくよ、と脅されている。
     本当に皆、謙虚である。
     となれば、実験に協力してくれると言った先生で試すのがいいだろう。ちょうど彼女とはこの後、会う約束がある。
     きっと泣いて喜ぶに違いないと、実験室の扉を開いて実験室に入り込んだベレスに向け、コンスタンツェは高笑いを響かせ魔道を浴びせた。


    「コニー、反省してる?」
    「していますわ」
    「お前な、先生で実験すんのはいいけど、せめて相手を確認してから魔法ぶっ放せよ」
    「彼女とは会う約束があったものですから、扉を開いたのはきっと先生だろうと」
    「先生にしちゃぁ、胸板が逞しくて抱き心地の悪そうな色男だぜ。お? 起きたか」
     頭上から降り下りてくる声に覚醒を促され、フェルディナントは首を振って体を上体を持ち上げた。己はどうも地に伏していたようだが、地べたに寝た記憶は無い。
     アビスにいるコンスタンツェに、今日会う約束は無理になったとの伝言をベレスより託され、指定場所であった実験室の扉を開いたところまでは覚えているのだが。
     扉を開いて、高笑いが聞こえ。
    「おーい、フェルディナントさんよ、生きてるか?」
     ユーリスが目の前で手のひらを振る。
    「生きているが、私は一体」
    「きみ、コニーに魔法をぶつけられんだよ。どこか体、変なとことかない?」
     しゃがんで、ちょいちょいとフェルディナントの前髪を戯れるように引くハピ。
     魔法をと呟いてフェルディナントは体を確かめたが、欠損や痛む場所は無かった。立ち上がっても問題なく、大事ないと頷きを返す。
    「大丈夫のようだ。体に支障はない」
    「お待ちになって! 今回の魔法は身体の一部を獣にするものですの。きっとどこかに変化があるはず」
     コンスタンツェの企みは、人の一部、例えば耳や尻尾などが生やせないかというものであった。
     というのも前節に開催された降霊際にコンスタンツェは参加が出来なかったのだ。聞けば降霊際では人が異形を模して練り歩き、菓子を頂けるものだと言う。菓子はもちろんだが、ハピが猫耳を付けて楽し気であったと聞けば、友人としてそんな貴重な姿を目に焼き付けられなかった悔しさにハンカチを噛んでしまった。
     過ぎてしまったものは仕方がない。その時期に帝都に居なかった己が悪い。
     ですが、見られなかったからと諦めるわたくしではありませんことよ! とコンスタンツェは独自に人の身の一部を変化させる魔法に身骨を砕いて編み出していた。
     つい先ほど、完成魔法をベレスだと思った相手に試し打ちしてみたのだが。
     何の魔法を作っているのだとあきれ顔をするアビスの面子を見ながら、フェルディナントは今一度、自分の体を確かめた。指を握り、足を上げ、首をひねるが獣に変化している箇所などない。と、ユーリスが無遠慮に尻をなでた。
    「尻尾が生えたってわけでもないのか」
    「っぃ!?」
     なでり、なでりと尻を撫でられる感覚に腰から背中にかけてしびれが走るとフェルディナントのは飛んで後退した。
     おっと逃げられた、と悪戯気に笑ってユーリスが近づくので、尻を防御しながら扉の方へ移動する。じとーっとフェルディナントを見る四人の、計八つの瞳は玩具を見つけた子供の様に楽し気に光っている。
     恩師に、地下に行くならは厄介毎に巻き込まれないよう注意してと助言を受けたが、これは早々に巻き込まれたのではないだろうかとフェルディナントは胸中で警鐘を鳴らしていた。ここは敵地ではないが、自陣とも言えない。
     脳内に住まわせた幻想のヒューベルトがやれやれと首を振れば、バルタザールが腰に手を当てて笑った。
    「ま、脱いでみればわかるよな」
     大胆な言葉を合図に飛び掛かってきたハピを避け、部屋の外に出ると扉を閉める。ここにいては危険だと本能が告げた。
     早く逃げなくてはと焦るフェルディナントだが、ただ閉めただけの扉は簡単に開かれ、我先に出ようとしてつっかえている四体。それらの口角がにたりと吊り上がるのを見れば、得体のしれない恐怖を覚え、勢いよく走りだす。
     アビスは走ってはいけません、とどこからか声が聞こえたが、捕まれば色んなことをされて、おそらく憤死するとフェルディナントは地上へ急いだ。


    「それで、おめおめ逃げ帰ってきたのですか」
     言伝一つ満足にできないのかと、暗に含められた言葉を感じてフェルディナントは不貞腐れ、用意されたクッキーを口に放りこんだ。
    「そうは言っても、あれは狩人の目つきだった」
     君も居合わせれば若わかったさと、茶を入れるヒューベルトを見ながら息をつく。今度アビスに行くときは、絶対に先生と一緒の時にしよう。
     香り高い紅茶が差し出されるのでありがとうとほほ笑めば、どういたしましてと返され、ヒューベルトも着席した。
     今日の話題は今節にある、恋人の日についてであった。恋人の日というのは、どうしても年が明けるまでにベレスに告白がしたいエーデルガルトが悩みに悩み、相談を受けたドロテアがヒューベルトを介して商人らに行わせた企画である。
     恋人の日には、恋人、もしくは意中の人に愛の贈り物を! と喧伝して触れ回り、家具や雑貨品を売りさばくのだ。恋人がほしい人にはきっかけを、商人には売れ残り品の販売機会を、そして帝国には金の巡りをよくするという利点がある企画は、誰の非難を浴びることなく着実に進められた。
     聞けば巷では店頭に派手な飾り付けをし、客を呼び込む店が増えているとか。城下が華やぎ、活気にあふるのは良い事だ。これならば恋人の日当日も、大盛況間違いないだろう。だが、人が集まれば悪事を働く者が出てくるのも事実。
     集う民衆の内に窃盗被害が相次いでいる。これへの警邏編成をどうするのかというのが今回の茶会の議題で合った。茶会くらい、仕事以外の話をしたらとリンハルトが欠伸をしながら言っていたが、仕事の話でも十分に楽しんでいる。
    「警邏の者たちだが、騎士団を使うといささか武骨すぎはしないだろうか」
     恋人の日には、愛する人の事で脳がふやけた人たちが大勢いるだろう。そんな中を武骨な甲冑を纏う騎士が徘徊しては、雰囲気が台無しだ。
    「平服で見回りをするというのも手ではありますが、有事の際、見分けがつかなければ意味がありません」
    「家族を持つ者や恋人がいる者の中には、その日を休みたいと申し出る者も多いと聞くぞ」
     皇帝がひそかに、綿密に計画しているベレスとのラブラブ逢瀬計画を思い出し、皇帝が休むのであれば配下の者も休ませてやりたい気持を抱くが、宮城の者全員が休んでしまっては仕事が滞ってしまう。
     結局は恋人の日の勤務時間を短時間に変え、各自が4時間程度で仕事を交代する事に決まった。これを明日の会議で可決させてしまえばいい。
     温くなったテフを飲み込んでヒューベルトはフェルディナントを見た。恋人の日、意中の人に告白するまたとない機会。この日に彼は、何をするのか。
     ヒューベルトの予定は朝から晩まで執務の予定だ。
    「ところで、君の恋人の日の予定は――む?」
     こちらが聞こうと思っていたことをフェルディナントが訊ねたが、彼は言葉の途中で口元を押さえた。クッキーが歯につまりでもしたのか、思案顔を数秒晒し、短く唸るとヒューベルトを見つめる。
     ヒューベルト、と若干戸惑いを含んだ声色が耳朶を震わせるとフェルディナントが口を開いた。何だと目を瞬かせたヒューベルトに、彼は己の口内、八重歯付近を指さし、
    「ここの歯に違和感があるのだが、何かないだろうか」
     きらりと光った八重歯は見事に太く、そして人が携えるには鋭すぎた。

     
    「申し開きはありますかな」
    「やはり成功していましたのね!」
     申し開きは無いかと聞いたのだと畏怖を籠めてにらみつけたが、コンスタンツェは魔道の完成に喜んでおり、ヒューベルトの放った殺気を簡単にはじき返した。
     茶会で見つけたフェルディナントの牙。人の口に似合わない鋭さを持つそれは、口内に忍ばせるには鋭利で危険である。好奇心で牙の先に指を伸ばしたヒューベルトが、切っ先に触れて血をにじませるのを見ると、フェルディ何とは猛烈に謝罪をした。
     貴殿のせいではない、自分が迂闊だったと慰め、うっかり牙で舌を刺さぬよう、フェルディナントには黙るよう指示している。
     ので、彼はおとなしく黙して椅子に座っていた。
    「尻尾や耳でなくて残念ですが」
    「どうすれば戻るのです」
     問われた言葉にコロコロと笑ってコンスタンツェが肩をすくめる。
    「吸血すれば取れますわ」
    「吸血?」
     なぜ、と双璧が同じように困惑顔をする。コンスタンツェは嬉々として自分が魔道に込めた効果を語りだした。
     今回入れ込んだのは体の一部を獣にする魔法。予想では尻尾か耳が生えるはずだったが、牙が現れたという事は。
    「発言した獣は蝙蝠ですのよ。方々は知っているかしら、吸血鬼という架空の存在を」
     それは、人の生き血をすする化け物で、蝙蝠の化身だとか。
     乙女の生き血をすする謎の吸血鬼、魅惑的ではありませんこと? と高笑いをし、これはやはりハピに魔法を試さなくては、とうきうきしている。
    「吸血しないと牙は取れないのか?」
    「時間経過で魔法の効果は薄まりますが、絶対ではありません」
     急いで取りたいのであれば吸血してください、と優雅にお辞儀をするとコンスタンツェは退出していった。
     椅子に深く腰掛け、頭を抱えるフェルディナントが、豊かな長髪を揺らして悩む。
    「誰を吸血すればいいというのだ。そも、吸血とはどの様にすればよいのだ? 牙を立てるだけでいいのか? いや、この牙はひどく鋭いのだろう。そんなものを人の肌に突き刺せというのか?」
     あれやこれやと悩み唸っていたが、無理だ、と力なく脱力すると、ついにフェルディナントは置物の様に動かなくなってしまった。
     ヒューベルトはぴんと閃きフェルディナントの肩を揺する。
    「己の腕を噛めばよいのでは?」
    「なるほどその手があったか!」
     さすがはヒューベルト、と嬉々として笑顔を見せたフェルディナントが自分の腕に牙を立て、口を赤く染めたのはすぐのことであった。
     
     
    「どうしてそんなことになってるか知らないし聴きたくも無いんだけどさ、自分の腕を噛むとか猟奇的すぎるよ」
    「面目ない」
    「ヒューベルト、君が見ててどうしてこうなるの」
    「思い切りが良いとは思っていましたが、こうも迷いなく己の腕に噛みつくとは思っておらず」
     ヒューベルトに助言を受けたフェルディナントは喜んで、全力で自分の腕を噛んだ。このため大量出血する惨事になってしまった。
     ちょうど医務室に寝に来ていたリンハルトがライブをかけていなければ、今頃白い寝台の上に青白いフェルディナントが寝ていただろう。
     包帯を巻かれる腕を見ながらフェルディナントは舌先で牙に触れようとすると、力強く顎がとられた。
    「まだ牙は残っています。迂闊に触れないでください」
    「う、む」
    「で? 吸血できたの?」
    「……噛めはしたが血が吸えたかと聞かれてもな」
     吸い方など知らないと項垂れ、肩を落とすフェルディナント。
     リンハルトは巻き終えた包帯を片付けながら口を開いた。
    「蝙蝠の生態についてなら図書室に本があるんじゃない」
     吸血の仕方について書いているとは限らないけど、と続けるとフェルディナントに手を取られ、強く握られる。
    「ありがとう! 見に行ってみる」
    「はいはい。行ってらっしゃい」
     善は急げと駆けていくフェルディナントに続いて退出したヒューベルトの背を見つつ、ふと思う。
     自分に関係がない騒動に、彼が首を突っ込むのは珍しい。はて興味が引かれる事でもあるだろうかと少し考え、思いつけた正解に呆れが漏れた。
     自分が役に立たないと分かってもついて回る理由など、そう多くない。
    「僕もカスパルどこかに出かけようかな」
     旨い料理の店があると誘えば鍛錬より興味がこちらに向くだろう。
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