「いいね、兄妹仲良く墓参り」
明らかな敵意を含んだ視線を向けてくる本物の兄とキョトンとした顔でこちらを見る妹は、若干色味は違えど同じ金色の髪を風に靡かせている。
確かにそっくりだな。
あんなに小さくて、俺が手を引かないと泣いてしまうような子だったのに、今は兄の手を握って引き留めているんだな。
母さんにそっくりだけどどこか違うのは、真一郎と万次郎と同じ血が半分流れているからだろうか。
「タケミっち、エマ連れて行け」
「待てよマイキー」
ストップをかけられるとは思っていなかったのか、万次郎は先ほどよりも鋭い視線をこちらに向けてエマを後ろに隠した。
何が起きているのか気になってこっそりこちらを覗いているエマと視線がかち合って、目を細めると万次郎の背中に隠れてしまった。
「お前との用事は今日終わらせるからどうでもいいんだよ」
「どうでもいい?」
「今俺が用あるのは」
後ろ手に庇ってちゃ動けないだろう。
ずいと近づいて、万次郎の服の袖を掴んでいた華奢な手を取る。
「おい!」
「エマ、迎えに来たよ」
「え?」
俺の突然の行動に驚いている内に思い切り手を引けば、高いヒールを履いているエマはバランスを崩して俺の腕の中に飛び込んでくる。
少し目線を下げれば見える、不安げに揺れる瞳に頬が緩んでしまった。
「ニィが迎えに行くって約束しただろ。帰ろう、天竺に」
「ま、待って!どういうこと?迎えに行くって何?」
見上げる蜂蜜色の瞳に俺が映っていることがこんなにも幸せだなんて俺は知らなかった。
離れていた期間があったから知れた。
うん、一時的に離れるのも悪いことばかりではないな。
けれど、忘れられているのはいただけない。
「一緒に住んでた時はまだ小さかったから覚えてないのも仕方ねえよ。黒川イザナ、お前だけのニィ」
真一郎とは違う。
万次郎とも違う。
俺に生きてく意味をちょうだい。
「おいイザナ、その手離せよ」
「エマが唯一じゃねえくせにうるせえな」
お前にはオニイチャンがいただろう。
真の愛を注いでくれたオニイチャンが。