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    omoti_022

    ☆quiet follow
    POIPOI 19

    omoti_022

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    七つまでは神のうち。後日談のような続きのような。
    尻切れトンボです。

    「そんな思い出があんのか、それ」
    「そうなんです」
    緩んだ表情を隠さず、暁人は肯定した。それから、酒の入ったグラスを一口。
    「友達に話すと夢じゃないかって言われちゃうんですけど、僕はそう思わなくて」
    「ほぉ…」
    「またあの人と会えるって思うんです」
    「会ったらどうするんだ?」
    「う〜ん……また、お喋りしたいなぁっては思います。僕もお酒飲めるようになったんで、お酒でも飲みながら」
    酒の力があってか、良く口が回る。
    サークルの飲み会で来たどこにでもあるチェーン店の居酒屋。酔いを覚ますために集団から外れていた所に、客のひとりが近付いてきたのだ。全くの初対面であったが、ベラベラと自分の事について話している。酒が入っていなければ、話はしなかっただろう。男も男で、暁人の話を興味津々に聞くのだから、気分の良くなった暁人は思ったことをそのまま口にする。
    「会いたいなぁ…」
    少し不思議な年上の友達。ぶっきらぼうで優しい人だった。あれから二十年程経ったから、もうお爺さんだろうなぁと思いを馳せる彼に、男が問いかける。
    「そんなに会いたいか?」
    「勿論」
    暁人は迷いなく頷いた。
    「そうか」
    返された言葉は喧騒に紛れていった。暁人も地に足がついていないフワフワとした感覚に、男の声はよく耳に入っていなかった。
    「あ、僕の話ばっかりですみません」
    だから、男にとっては興味のない話をしただろうと案じた。しかし、男は笑いながら酒を煽った。
    「いや、いい事が聞けてよかった」
    「え?」
    暁人は言葉の意図が分からず、思わず隣を向いた。


    男は笑っていた。周囲の熱気の含んだ喧騒と対象的な、冷涼な美しい笑みが自身に向けられていた。
    その笑みに見覚えがあった。途端、ぶわりと幼い頃の記憶が鮮明に鮮烈に、頭の中に広がった。いつまでも思い出すことの出来なかったパーツが揃っていく。


    あの、茹だるような夏の日。小鳥の囀りがこだまする森の中。真っ赤な鳥居と少し朽ちかけた社。出会ったのは歳上の不思議な友人。
    「け、KK…?」
    揃った記憶の中で、今も左腕に輝く真っ赤な数珠をくれた友人の顔が、隣の男と合致した。
    「な、何で」
    なにも分からない。何も分からなかったから、思わず後ずさる。
    そんな暁人を見て、男の、KKの表情に喜が乗った。
    「久しぶりだなぁ、お暁人くん」
    「お、あ?え、えぇぇ!!!???」
    「そんな喜ぶなよ」
    「だって、KK、え!!???」
    未だに混乱して、明確な文章を口にできない暁人。KKは落ち着けと暁人のグラスに酒を注いだ。
    「お前があの時、『離れたくなぁい』ってビービー泣いたからそれやったんだぞ」
    KKは暁人の左腕の数珠を指さし、茶化すように暁人の声真似を披露した。余り似ていない真似に、憤慨したと暁人は反論する。
    「ぼ、僕、そんな事言ってないよ!?」
    「いいや、言ったね。記憶力はいい方なんでな」
    自らのグラスにも酒を注ぎ、一口煽る。
    「で、これも言っただろ」
    「え?」
    それから、徐に煙草を取り出し火をつけ、一呼吸置いた後、ふーー…と白煙を吐き出した。

    「迎えに行くってよ」

    何処かで、水滴が落ちた音がした。
    KKに気を取られていた暁人の耳にも届いたが、周囲を確認する前に、目の前いっぱいにKKの端正な顔が近付いていて。

    「迎えに来たぞ、俺の嫁さん」

    腰にガッシリとした腕が添えられ、唇には少しざらついた柔らかいものが触れた。
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    32honeymoon

    TRAINING・先日アップした画像版に修正を加えて、今までとおなじ横書きにしました。前回読みにくかった皆様はよければこちらで。
    ・修正したのは暁人くんの心情描写が主です。まだKのことを好きになりかけてきたところで、信じる心と無くしてしまう不安の板挟みになっている雰囲気がちょっと出てないかなと感じたので、台詞回しを少し変えてみました。まあ内容は同じなので、再読頂かなくとも問題ないと思います…単なる自己満足。
    【明時の約束】「ねえ、KK。たとえば今、僕がこの右手を切り落としたとして、ーあんたの宿っているこの魂は、何処に宿るのかな」

    ー突然。自らの右手に在る、そのあたたかな光と靄のかかる手のひらに向かって、突拍子もないことを言い出したその体の持ち主に、KKは呆れたように何いってんだ、と返した。

    『ーオレの魂が宿る場所は、ココ、だろ。手を失ったとて、消えるわけがねえ。ああ、ただー大切なものが欠けちまったって言う事実に対して、クソみてえな後悔だけは、一生残るだろうな』

    気を抜いたままで容易に操れるその右手。ぶわりと深くなった靄を握り込むようにぐっと力を込めると、とんとん、と胸を軽くたたく。

    「後悔、?」
    『ああ、後悔だ』
    「どうして?これは、僕の体だ。例え使えなくなったとしても、あんたには何の影響も無い筈だよね。それとも、使い心地が悪くなったとでも文句を言う気?ーああごめん、言い過ぎたかも。…でも、そうだろ」
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