階−きざはし− ①卯の刻。起床の時間だ。
掟通りに目覚めようとして、魏無羨は違和感を覚える。
妙に身体が重い。頭はすっきりしないし、瞼もくっついてしまったかのように開かない。それに、微かに鼻腔をくすぐる馴染みのないこの香り。
(……酒?)
そうだ。昨晩、雲深不知処に酒を持ち込もうとしている藍忘機を見咎めて口論になった。売り言葉に買い言葉で、うっかり酒をひとくち口に含んでしまい、その後の記憶がない。
(家規を破ってしまった……)
しでかした失態に青褪めながら、魏無羨は重たい瞼をどうにか押し上げた。押し上げて、視界に飛び込んできたものに息が止まる。
家規を破る原因となった男が至近距離で微笑んでいた。いや、微笑みといえるほど明確なものではなく、表情だけ見るならば無表情に近い。しかし、明らかに歓喜の笑みを含んだ気配を纏った男がすぐそばに横たわり、自分を見つめていたのだ。
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