if時空で旅に出るはなし幼い頃の可愛げはどこへ行ったのやら。テーブルの向かいで酔い潰れてるこの男は、夜中に突然呼びつけてきた私の仕える主人だ。
日付を超えた瞬間にリンクパールで呑みに行くぞ、なんて一方的に告げて、私が来なかったらどうするつもりだったんだ。
...しかし、こうして見ればまだまだ子供じゃないか。いや見てくれは立派な成人ミコッテなのだが。
ご機嫌になると側のものを叩く尻尾も、好きなものを抱き抱える癖も、小さい頃となんら変わっちゃいない。
ま、互いに思春期にはスレまくった結果消えない傷を作る程度には世間を知ってはいるが。先に夜遊びに出たのは私だった。まさか彼が真似するだなんて、というか気づかれてるだなんて思いもしなかった。ミコッテの耳と鼻の良さを完全にナメてた結果だから自業自得だ。
「...ほらゼル様、明日も早いんですから帰らないと。またメイド長に小言を言われますよ。」
抱いてるウイスキーのボトルを取り上げて揺さぶると、耳がぶるぶるっと動いて、とろんとした目がこちらを射抜く。
「ルイ、なぁルイ。一緒に世界を見に行かないか。」
この人はいつもこうだ。屋敷だろうが外だろうが変わらず、私とサシで飲むときはベロベロに酔っ払っては同じ話をする。
それはかつて私が口にした夢の話。固く閉ざされた、あの聖門の外を見てみたいと言った幼い時の会話を覚えているのか、耳をぴんとこちらに向けてふにゃふにゃ笑いながら語り出す。
だが、私はその提案に頷けない。
「またその話ですか。旦那様が許す訳が無いと...」
「いや、義父さんは賛成してくれたよ。ルイを連れていきたいって行ったら、執事長も」
び........っくりした。アクアヴィッテが注がれたグラスを落とすところだった。まさか父様まで反対しないとは。...いいや、私が下層でナニをしようと言及しなかった人だ、あり得ない話じゃない。
「海都で海を見よう。遥かひんがしの国にも、知の都にだって行こう。危険な場所だって、私がルイを守るから。」
「...いえ、貴方を守るのは私の役目です。主人に守られる執事なんて、そんな、」
「私にはガンブレーカーの素質があるらしい。たまたま森都で話した人が、後継者を探していたらしくてね。現にほら、ソウルクリスタルだって私に応えてくれている」
そう言った彼の手には、淡く輝く黄色いクリスタルがあった。ガンブレーカー、聞いたことがある。近年傭兵...いや、冒険者だったか。の中で数の増えてきた、銃と片手剣を合わせた不思議な剣を持って護り手をつとめる者だと。
素人目だが、確かに彼のエーテルに呼応しているように見える。まるで産まれたその日から持っていたって言われたって納得してしまうぐらい、違和感なくその手に収まっていた。
「...参ったな、これじゃ私は言い逃れできないじゃないか」
家の事を思ってこそ断っていたのだ。旦那様が、ましてや父様が許すなら、もう諦める理由が無くなってしまう。
「って、ことは!?」
「イシュガルドを出たらウルダハに行く。あそこの挌闘士ギルドには前々から興味があるからな」
「っその次は?」
「...ゼルの行きたいところへ」
明日から忙しくなるな。準備も引き継ぎも早く済ませなくてはいけない。イシュガルドを出られるのはいつになるだろうか?1週間後、いやもう少し時間が掛かるか?
まぁ、夢に見続けた時間よりはずっと短いんだ。さっさと終わらせてしまえばいい。
.......嬉しいからもう一本!と行きたいところだが、残念ながらゼルは明日早くから予定がある。つまり仕える私はもっと早いという事だ。
「とにかく帰るぞ。明日は朝から宝杖通りの視察に海都の商会と会食、それに...」
「ホワイトブリム前哨地に送る物資の選定会議だろう?」
「わかってるなら酒を注ぐ手を止めてくれないか...」
「大丈夫。これくらいなら明日に響かないって」
「...少しだけだからな。」
あぁ、ゼルと旅に出られるの、楽しみだな。