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    harukakiryu

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    harukakiryu

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    ソファ棺9展示
    夏のロナドラ、事後の一幕。
    パスワードはプロフカードに。

    きみの雨 自然と視線が吸い寄せられた。健康的な証と言わんばかりに上下する喉仏。
     代謝が良いこの男は、えぐいほどに汗をかく。そりゃあもう、雨かと思うくらいに。

     初めてそういう関係になり、まあ、なんやかんやで、びしゃびしゃと想定以上の汗を降らされ、驚いたのはもう随分前のこと。
     健康的な男だな、と何もかも自分とは違うこの男のことを思う。

     汗としてばしゃばしゃ水分を飛ばしているからか、良くこの男は飲む。たとえば、私が常に用意している麦茶だったり、原稿の合間のコーヒーだったり。
     そして、枕元に用意してあるミネラルウォーターだったり、だ。
    「……飲むか?」
     こちらの視線に気付いての問いかけに首を横に振る。
    「あとで牛乳をいただくよ」
    「……ん、持ってくる」
     その頃には起き上がる体力もなくなっているだろう。それを見越しての言葉に、思わず私は笑う。いつのまにかこんな気遣いが出来る様になってしまって、この男は。いや、もともと私以外の他人には物腰柔らかく、気遣いができていたのかもしれないが。
    「……なんだよ」
    「いや、私の男はいい男だと思っただけ」
    「…………そうかよ」
    照れたのか、上気し始める頬に代謝の良さを見せつけられる。どこまでも健康的だ。もっとも、私と出会う前はここまでではなかったと記憶しているが。

     ともすればワーカホリックと思しき生活習慣を繰り返していた人間だ。若さでどうにか保たせていたようなものだろうが、肌はカサついていたし、髪だって今よりもゴワついていた。あの運動量ならもっと筋肉もついていても良いだろうに、今よりずっと肉付きが悪かったのは、ひとえに不摂生の所為だろう。その上で煙草まで吸うのだ。不健康になっても仕方がない。
     その生き急いでいるような様が心配になり、つい世話を焼いてしまった。その結果が今の姿だ。素材の良さを殺すような有様が許せなかったのもあるだろうが、今の彼の肌艶や筋肉は私が育てたと言っても過言ではないだろう。

     美しい肉体だ。生命力に満ち、芸術品のように形良く整ったバランス。肌は若々しく水を弾き、肌理細かく艶を放っている。
     積み重ねた生活が肉体を、肌を、髪を構成するのだ。自分の育成の成果が表れていると思えば、なんとも誇らしい。あとは、これをどれだけ維持できるか、ではあるのだが。私が側にいる限りは問題はないだろう。
    「あんまり見られると、やっぱ照れるな」
    「今更?」
     頬を上気させて視線を外す男に、思わず笑いが溢れた。先程まで私の上で、私を思う様蹂躙していたというのに、視線だけで照れるとは、なんと初心なことか!

     恋人への愛しさを滲ませた瞳の中に、隠しきれない獣のような狩る者特有のギラつきを見せて、何度も何度も私を穿ち、果てるまでの表情の変化をまざまざと思い出してしまう。
     整った鼻先にまで汗を垂らし、必死に私を求めてくる余裕のない顔。牡としての本能に抗えずに、がつがつと突き上げてくるあの瞬間の顔は、私しか知らないものだ。

     童貞だ童貞だと揶揄っていた頃が嘘のような、男の色気に満ちた顔を見せてくるようになったというのに、こんな視線一つで照れ恥じらうなんて、やはりこの男は可愛らしい。
     このギャップが、あまりにも愛らしいのだが、世間一般の婦女子達にはこの良さが分からないらしい。見る目のないことだ。だが、そのおかげで私はこの可愛い男を、この素敵な男を私のものにしてしまえる。見る目のない女子達に乾杯だ!
    「好きなヤツから見られるのは、特別なんだよ」
    「君、そんな甘い事言えるようになったの」
    「素直な言葉の方が、お前好きだろ。ちゃんと伝えないと面倒な事になるのは覚えたし。お前、自己肯定感強い癖にヘタレな所あるよな。勝手に決めて逃げ出すの。だから、その前にちゃんと伝えて捕まえておかなきゃダメだって、偉大なる先輩から聞いてるんだよ」
     真顔で伝えられる言葉に私は目を瞬かせる。
    一体誰がそんな入れ知恵を、と考えて、ただ一人しかいない事に気付く。一人と言おうか、一玉と言おうか。
     偉大なる愛を私に与え、誓ってくれた半身、ジョン。私を地球の裏側から追いかけ、愛を全身で伝えてくれた愛しい丸。
    「それでさ」
     向けられた視線と、甘えるような声にふと視線を戻す。
     ぎしりと、ソファベッドが乗り上げる男の重みを受けて悲鳴を上げる。
     綺麗な蒼が近付いて、柔らかく降る口唇が額に、頬に触れ、私を殺す事のない優しい仕草が、いつの間にか身に付いていて悔しいような、成長が嬉しいような。どんどんと良い男になりつつあるその変化を見逃してなるものかと思う。
    「あとで、牛乳持ってくるし、責任もって風呂にも入れるからさ。……もう一回、ダメ?」
     滑る指先が頬に触れて、そのまま包み込むように大きな掌が押し当てられる。大事なものに触れるような優しさを持った指先に、抗う術なんてあろうものか。

     綺麗な蒼は、もう私の返答を見透かしたように捕食者のソレのような欲望を隠そうとはしていない。
    「……いいよ。ちゃんと優しくして」
     だから、私もその蒼の熱に浮かされてしまうのだ。
     再び、彼から降る雨に濡らされて、境目が分からなくなるくらいに、熱を混ぜ合うために。
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