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    harukakiryu

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    harukakiryu

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    Δロナドラ
    8月合わせ新刊の冒頭部分のみ
    まだまったくイチャイチャしてませんが、R18部分を加えて出す予定です。

    8月新刊Δ本用サンプル 宵闇に浮かぶ赤い月が、辺りを照らす夜。人は不安に駆られて、吸血鬼は狂乱に酔う。
     帰りを急ぐ人々の姿もだんだんと疎になってくる時刻。
     街灯の少ない道は、どうしても不安と僅かな恐怖がある。その闇の中に何か潜んでいるのではないかと、想像を走らせてしまう。
     制服姿の少女は一人、鞄をぎゅっと抱きしめながら不安そうに夜道を歩く。部活ですっかり遅くなってしまった帰り道、仲間と別れた道は暗く静かだ。先程までは、あんなに賑やかだったというのに。
     一人になると、心細さや不安が押し寄せてくる。万が一の時に防犯ブザーは持っているけれども、コレで逃げてくれる相手ならば良いけれども、もしもそうでなかったのなら。
     不意に背後から聞こえてくる足音に、びくりと少女は身を震わせた。
     帰り道が偶然同じ方向の人がいるのだろう。そう思っても、コツコツと少女の歩幅に合わせたような、等間隔で響く足音が気になってしまう。
     空に浮かぶ月がやけに赤いからだろうか。まるで、血の、ような。
     不意に聞こえていた筈の足音が、ぴたりと止まる。
     急に、どうして。
     恐れを抱いている筈なのに、確認をしなければ尚恐ろしい。震えながら、少女はそっと後ろを振り返る。
     少女のすぐ真後ろに、何者かが立っていた。
     赤い。ただ、赤い瞳。
     それしか分からなかった。
     性別も、体格も、顔も。
     上げようとした悲鳴は、不意に胸に込み上げて来た安堵感に飲み込まれた。
     なんだ、きみだったの。
     少女の口から溢れるのは、親しみの籠もった声。その声に、背後に立っていた影が、少女の影に重なる。
     安心しきったように身を任せる少女の首筋に、深く深く牙が突き立てられた。




    「愛を語る吸血鬼?」
     随分気障ったらしそうだな、と秀麗な眉目を顰めて呟くロナルドに、違う違う、と首を横に振るのは吸血鬼対策課隊長ドラルク。
     眉間に深く刻まれた皺は、彼のストレスや苦労を表しているようで、時折頭痛を抑えるようにドラルクは眉間に指先を押し当てて揉み込む仕草をする。
    「愛を騙る、だな。情報によれば、催眠を得意とする吸血鬼のようだ。被害者は一様に自分の親しい者、たとえば恋人や伴侶、親友や両親の姿を見たと訴えている」
    「親しい者と認識している所為か、ほぼほぼ抵抗の痕なく吸血されているらしいな。しかし、中には瀕死寸前まで吸血された者もいるようで、被害は深刻だぞ。ドラルク、クッキーおかわりだ!」
    「今日もクッキーモンスターは絶好調だねえ」
    「ち、違うぞ! パトロールでカロリーを消費したんだ!」
     赤い退治人衣装の少女、ヒナイチは頬いっぱいに詰め込んだクッキーを飲み込んで、真っ赤になりながら弁明する。
     はいはい、と笑いながらドラルクはクッキーの入ったカゴを差し出しながら手元の書類を覗き込む。
     昨今、この近隣を騒がせている吸血事件。退治人ギルドと新横浜警察署吸血鬼対策課それぞれに入った情報の擦り合わせと協力要請にと、ドラルクはミカエラとロナルドを伴い吸血鬼退治人ギルドを訪れていた。手土産とばかりにサッと手作りクッキーのカゴが出てくる辺り流石である。完全に胃袋を掴まれているヒナイチを筆頭に、大抵の相手はコレで絆される。
     例外的に全く通用しない相手もいるが。その筆頭である退治人半田は、ドラルクの連れてきた吸血鬼ロナルドに嬉々として執拗に絡み、セロリを見せては恐慌状態にさせている。ロナルドさえ絡まなければ優秀な退治人であるというのに、この世はどうにもままならない。
    「親しい者の姿ねェ……可愛い可愛い弟の姿で現れられたら、ウッカリお前サンも油断しちまうかもなァ?」
     ドラルクの横に控えるミカエラへと絡むのは、バンダナ姿の退治人。その姿に不機嫌そうにミカエラは秀麗な眉目を歪めた。
    「それは貴様にも言えるだろう」
     ミカエラから、ぼそりと吐き出された言葉に愉快そうに退治人、拳は笑い声を上げた。
    「そうねェ、オニーチャンだから、弟の姿で来られたら弱いわなァ」
    「愚兄め。敵性吸血鬼に遅れを取るなよ」
    「そォんな危険な吸血鬼、家族の為にも放置とかしておけないでしょーよ。ま、いつでも協力するから、隊長サンも遠慮なく声掛けてちょーだい」
     笑いながら、弟の肩をバシバシ叩く拳に、ミカエラは尚も不機嫌そうに眉目を歪めたままである。信頼関係はあるのであろうが、それはそれとしてやはり複雑な感情を隠し得ない。
     その辺りはドラルクもある程度汲んではいるが、清濁合わせ呑む気概の持ち主だ。利用すべき所は利用するし、それに対する躊躇いはない。優先すべきは自尊心ではなく、結果であるという信念の元に行動するのだ。
    「助かるよ、拳君。こちらからも、新しい情報が入り次第連絡をする」
    「おう! 頼んだぜ、隊長サンよ!」
     ニカッと爽やかに笑う拳に笑みを返してから、半田に弄られているロナルドへと視線を向ける。セロリに怯えていた状態から、ギャンギャン子供じみた口喧嘩の状態へと移行して戯れあっている。
     ロナルドの年相応な姿を見るのは久し振りな気がすると、ドラルクは頬を緩めた。
    「不死の王を、随分気に入ってるようだな」
     ニマニマと口許に笑みを浮かべて揶揄ってくる退治人ギルドマスター、カズサにひらりと手を振ってドラルクは笑う。
    「素直な子は可愛いね」
    「ま、飼い慣らしてくれる分にゃ、コッチには文句もないけどな。しっかり手綱は離しなさんなよ」
    「言われるまでもないな」
    「はは、余計な世話だったな」
     揶揄い混じりの言葉にさらりと惚気じみたものを返したドラルクは、半田と戯れるロナルドへ手を振る。気配を察知したのか、すぐにドラルクの元へと戻るロナルドの姿に、カズサはドラルクの手腕を見る。不死の王はすっかりと貧弱な炭鉱のカナリアの元にいるらしい。それこそ仕草一つで言う事を聞く程に。
    「終わったのか?」
    「ああ、署に戻るよ」
    「分かった」
     カナリアの番犬。近頃聞かれるようになった不死の王の新しき呼称だ。
     恐ろしいことだ、と付き従うロナルドの様を見てカズサは思う。人誑しだとは思っていたが、吸血鬼すら手玉に取るドラルクの手腕。かの大侵寇の吸血鬼達にすら、協力体制を取らせていると聞く。味方のままであれば、さぞ頼もしいことだが。
     抑止力たれと、ロナルドに命じるドラルクの言葉は正しく刻まれているようで、近頃は力の加減も上手くなってきたらしい。
     どこまで掌握するつもりなのやら、とカズサはひとりごち、クッキーに夢中になっている自身の妹へと視線を向ける。吸対の部下、退治人、吸血鬼の区別なく誑し込んでいる。
     当のヒナイチは、兄の視線に気付くと抱え込んでいるクッキーの籠を渡すまいとするようにがっちりと抱き締める。
    「何だ、兄さん。コレは絶対渡さないぞ。奪うつもりなら、ヒザの心配をするんだな」
     確実に狩る、と言わんばかりの狩人の瞳をされて、他の場所で発揮してくれ、と半ば呆れながらカズサは妹の頭をくしゃりと撫でた。



    「おかえりなさい、隊長」
     退治人ギルドから戻った上司を、にこやかな笑顔で出迎えるのは月光院希美だ。戦闘時は苛烈な面も見せることがあるが、平時は大抵穏やかな才女である。ドラルク隊の中での良心とも言うべき常識枠だ。
    「ただいま、希美君」
    「ギルドへの協力依頼お疲れ様でした。集めた資料をまとめておきましたので、後で確認をお願いします」
    「ああ、助かるよ、さすが希美君だ。ギルドの方でもまだ対象とは遭遇していないようで、対象の姿形も気配も不明のようだね」
     差し出される書類の束を受け取りながらドラルクは応え、パラパラと捲りながら目線を走らせる。要点を抑えた報告書は流石とも言うべきものである。優秀な部下の仕事ぶりには舌を巻くばかりだ。
    「厄介ですね、今回の対象は。被害者が見たという姿も、噛み痕さえもバラバラなんですから。相当優秀な変身能力も兼ね備えてますよ」
    「複数犯いるという方が納得できそうな位ですね」
     先に書類に目を通していたらしいフォンが、肩を竦めながら首を振り、苦笑しながら希美が返す。
     残された気配臭を辿るのが得意なダンピールの吸対職員がことに当たったが為に、同一犯の仕業であると判明したが、もしも彼がいなければそれぞれ別の事件だと報告が上がっていたかもしれない事態である。
     事態の早期解決を図り、対象をこのシンヨコへと追い立てるように包囲を強めてきたというのが、今回の事件の顛末である。
     シンヨコであれば優秀なカナリアがいる。一度覚えた気配を捉えて流さぬ優秀なレーダーが。
     栃木で発生したソレを、埼玉へ、そして東京へと。更に神奈川へと南下させるように追い立てる。そして、それはとうとうこのシンヨコにまで来た。
     警察の威信にかけても狩らねばならない事態であるが、ドラルクにはそこまでの気負いはない。狩らねばならぬというのは、確かな事ではあるのだが、警察だけの手でやる必要はないという思いだ。市民の安全の為、確実に止めなくてはならない。その為には、使えるものは何でも使う。
     ドラルクというのはそういう男である。
    「催眠に高い変身能力……相当古い血の吸血鬼なのかしら?」
     口元に手を当て考え込むように顔を俯かせるにく美の表情は、長い前髪に隠されて伺えないが、好戦的な表情になっているのだろうとは、覗く口端から伺える。歯応えのある相手を望む辺り、彼女は立派な戦闘狂である。
     頼もしい限りであるが、彼女を活かす為の舞台を整えなくてはならない。それを得意とするのが彼女の上司たる所以なのだ。
    「今のところ、敵性吸血鬼でそれに該当しそうな資料は出てないかなー。じーちゃんにも当たってみたけど、心当たりがなさそうだったし」
    「ベテランのエルダー氏にも見当がつかない対象か」
     マナーギリギリに生きる学は、なんだかんだ言いながらもお祖父ちゃんっ子らしく、吸対として活躍した祖父に憧れて、吸対に入ったクチだ。
     吸血鬼対策課の常識人枠のもう一人、ゼンラの言葉にうんうんと頷く。
    「だから、もしかすると凄い適性を持った新人の可能性もあるんじゃないかって。隊長、お得意の探知能力に何か引っ掛かったりしてないですかぁ?」
    「一度も感知したことのない相手は、見極めるのは難しいな。大侵寇のように群れで来ているような分かりやすい特徴があるわけでもなし。単体で、しかも容姿も性別も年齢も不詳となると、流石に一度対峙しないと判断がつきかねるな」
     学に話を振られ、資料に目を通していたドラルクは、難しそうに眉根を顰めた。眉間の仕業がぐっと深くなり気難しそうな表情が強くなる。吸血鬼対策課が対策を練る中、ロナルドは大人しくドラルクの脇に控えて椅子に腰掛けている。
    「シンヨコは吸血鬼多いですからね。移住して来る人も多いですし」
    「それだけ住みやすいと思って貰えるのは、我々警察としては仕事を評価していただけているのだとは思うが、如何せんそれで仕事が減るわけでもなし」
    「日々下等吸血鬼の駆除に、敵性吸血鬼の対処に、市民の避難ですね」
    「市民の皆様の血税で禄を食んでいるわけだからな。クソッタレな労働労働だ」
     ぽんぽんと小気味良く軽口を叩き、ドラルクは嘆息を一つ。
    「ふむ、差し当たって事に当たるには、不安要素が強いのはミカエラ君と希美君かね」
     親しい者に化けて催眠と変身を掛けてくるという件の吸血鬼との相性は、愛情深い者ほど危険であろう。身内に甘ければ、甘いほど。
     アダムという恋人を持つ希美と、透や拳という兄弟と、妹を持つミカエラ。守るべきだと思っている弟と妹はともかく、なんだかんだ反目しているようで優秀さを認めていて、同じ職場にあればと思ってしまう位には、兄の事も慕っているミカエラだ。
     希美と彼女にベタ惚れのアダムに関しては、言わずもがな。いつまで経っても仲良しカップルで結婚も間近だろうと署内でも評判だ。
    「な……ッ、私は、任務に私情は挟まないつもりですがッ」
    「やー、弟サンの姿で出て来たら、あっさり吸血されそー」
    「血塗れで苦しそうな演技でもされたら、自分から差し出しそうよね」
     ドラルクの言葉に異を唱えようとするミカエラに被せるのは、学とにく美。その姿が容易に想像がつき、苦笑するドラルクに、ミカエラはぐっと言葉に詰まった。
    「ヌン!ミカエラ殿は家族思いの情に厚い御仁であるからな!」
     ゼンラによるフォローに、モニョモニョとなんとも言えない表情で口を動かし、そのままミカエラは口を噤む。何を言っても揶揄われるのは目に見えている。根が真面目なだけに、曲者揃いの吸対メンバーの中でミカエラは弱かった。
     ならば下手に口を挟まない方が被害は少ない。ミカエラがここで学んだ真理である。
     しかしそれでまったく揶揄われなくなるわけではないのは悩みのタネだが。
    「まあまあ。ブラコンは良いとしても、希美さんも動けなくなると痛いよね」
    「フン、リア充は爆発なさい」
    「あらあら、にく美ちゃんったら」
     穏やかな声音で希美はにく美を嗜めつつ、ほわほわと笑う。しかしその瞳の奥にはその穏やかな微笑みの欠片はなく、鋭い刃のような光を宿している。
    「万が一、私のアダムっぴを対象が傷つける事があったら、我慢が効かなくて暴れてしまうかもしれないわ」
    「うーわ……」
     本気にしか聞こえない発言に学は引いた笑みで後ずさる。普段穏やかな人がキレた時の恐ろしさは筆舌にし難い。
    「ウチは誰かなー。じーちゃん真似て来るかなあ。でも、絶対にありえないって思っちゃうから、俺はひっかからないかも」
    「僕は両親の姿ですかね。でも、それで来られたとしても、どうかなって感じです。情がないわけじゃないですけど、吸血迫られても萎えちゃいますからね!」
     それなら綺麗なお姉さんの方が効果的です、と自信満々に言い切るフォンは流石と言うべきなのか。そして、ふっとドラルクの方へと視線を向ける。
    「隊長はどうです?万が一、親しい人の姿で現れたとしたら」
     止せば良いのにドラルクへと軽口を振るフォンに、ドラルクはフンとつまらなそうに鼻を鳴らす。
    「私の愛しのマジロの姿で現れたとして、吸血を迫れると思うか?」
    「え、そっちですか」
     ドン引きと言わんばかりの表情を向けるフォンを、じとりとドラルクは睨め付ける。
    「我が両親の姿で現れたとしても、だ。彼らが私に吸血を迫る事は断じてないのだから、明らかに偽物だと感知するだろうな」
    「あー……ロナルドさんは」
    「…………ロナルド君は気配臭で分かるだろう、偽物だと」
    「まあ、隊長相手にする時点で間違ってましたね」
    「惚気なんか聞きたくなかったわ」
     溜息混じりに首を振るフォンに、心底嫌そうに顔を歪めるにく美。振ったのは君達だろうがとドラルクは小さく吐息を漏らす。
    「ともあれ、まずは対象の把握と接触だ。チームで事に当たってくれ。希美君は、にく美君とフォン君、ミカエラ君は、ゼンラ君と学君。我が隊で最も呼び寄せやすいのは君達二人だ。囮と言っては聞こえが悪いが、市民の為任務について欲しい。我が目、我が耳、我が手足の君達に期待している」
    「ハッ」
     敬礼の姿勢を取る隊員に、ドラルクは口許を緩めた。

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