「あら、似合うわね。そのニット帽」
荷物をいっぱいに詰めたバッグを、空いたベッドに乗せて母さんが言う。
「まだ寒いものね。そう…前から思ってたけど雪祈、その刈り上げのところ寒いんじゃない?」
「別に、髪下ろしてたらそこまで寒くないよ」
髪型を変えたのは上京してからだったから、どうも気になっていたらしい。
「このコートも、バイト代奮発したの?ブランドでしょう」
「…まぁ、ね」
それはいつだったか誰かに貰ったのだけど、さすがにそれを母親に告げるのは憚られた。俺のバイト代は殆どSoBlueに捧げていたんだ。知らぬが仏、だ。
「その帽子も誰かに貰ったの?ファンの人?」
ブランドでも何でもない、鮮やかな色のニット帽は去年の冬から被るようになった。
やっぱり同じように、寒そうな髪型だといって渡された。ラッピングも何も無いプレゼントだった。
「…ライバルだよ」
病室の窓から、空を仰ぐ。遠く、遠く空をつん裂くように飛ぶ飛行機に合わせて、音楽が聴こえた気がした。