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    大晦日な真遙

    大晦日〜真遙編ニュースで流れる、「大寒波到来」。
    「鳥取の方は、もう雪、凄いみたいだよ」
    「止まらないといいな、電車」
    「そうだね」
    隣で少し心配そうにスマホを眺めている着ぶくれした真琴。寒がりの彼にホットのペットボトルのココアを渡すと嬉しそうにふにゃりと微笑む。
    東京から、地元に帰るのも久しぶりだ。
    こんな日まで入ってしまった俺の予定に合わせて真琴も帰郷することになった。今年はバラバラで帰るようになるだろうと思っていたのだが、真琴のおかげでいつも通りの年の瀬になった。

    真っ暗な窓の向こうでもわかる、真っ白な景色。
    ドンドン雪が積もってきている。正直電車が止まってもおかしくない気がする。
    新幹線は止まらないかもしれないが、在来線が問題な気がする。
    まぁ焦っても仕方がない。
    「ハル、疲れてない?今日まで練習だったんでしょ?」
    「あぁ、でも、大丈夫だ。」
    「そっか、でも眠かったら起こすから、いつでも肩貸すよ」
    優しい真琴は、自分の巻いていたマフラーを俺の首にそっと巻いた。
    「ありがとう」
    嗅ぎなれた真琴の香りと温もりにうとうとしてしまって、気が付いたら微睡みに落ちていた。

    どれくらい眠っていたのか、車内アナウンスで目が覚める。気が付くと真琴と寄り添い合って一緒に眠っていたようだ。
    もうすぐ乗り換えの駅だったので、そのアナウンスかと思ったのが、どうやらそうではなかった。だけど、その時のアナウンスは寝ぼけた頭では一度で理解できずに真琴の方を見る。
    「真琴、今、運休っていったか?」
    「…言った気がする」
    寝ぼけ眼で素早くスマホで検索する真琴は、絶望的な顔で俺の顔を見た。
    「電車、大雪で止まってるって…」

    新幹線を降りた俺たちは普段乗り継ぎでしか使わない駅の構内をとぼとぼと歩く。
    自分たちと同じように電車が止まって乗り継ぎが出来なかった人たちがごった返していて、とりあえずそれぞれに実家に電話をかける。
    電話が終わって顔を見合わせた。

    「とりあえず、今日泊まるところだよな」
    「そうだね、探してみようか」

    スマホで探してみたら、どこも満杯で途方にくれてしまう。
    「どうしよう、ハル」
    「どうしようって…」

    2人で見知らぬ町の中をうろうろしていたら、目の前にピンクのネオンが光る建物が。
    「……あの、ハル?」
    「真琴、ここもホテルって書いてある」
    「…いや、あの、ここのホテルは…えっと」
    ごにょごにょと恥ずかしそうにもじもじしているので、なんだ?と尋ねたら耳元でその正体をこっそり教えてくれた。耳が赤くなる。
    「……ホテルは、もういい。夕飯を食べよう」
    「そうだね。もしかしたらご飯食べている間にキャンセル入るかもだしね」

    そういって、足早にピンクのホテルを後にして開いていたお店に入って夕飯をとった。暖かい食事をとりながら、美味しいねとおでんを頬張って微笑む真琴を見て、大変な状況下なのに思わず笑みがこぼれる。
    「え?何か変だった?」
    「いや、真琴と一緒でよかったなって、思っていただけだ」
    そういうと、恥ずかしそうに「なんだよ、それ」って笑う真琴。
    思えばこうやって二人で食事をとるのも久しぶりで、なんだか電車が止まって良かったかもなんて思いながら俺は焼き鯖を食べた。
    そのあと、食事をしていたら連絡していたホテルの一つから1部屋キャンセルが出たと連絡があって、無事に寝床を確保することができた。

    「つっかれたぁあー」
    ベッドに倒れ込む真琴の横を通り過ぎ、コートを脱ぐ。
    「真琴、先にシャワー入って来いよ」
    「え、いいよ。ハルの方が疲れているでしょ?先に入っておいでよ」
    ベッドに転がりながら俺の手を握って、ふにゃっと微笑む。
    あぁ、可愛いな。
    ちょっと雪でぬれた髪を撫でてやると、途端に甘えだして擦り寄る真琴。
    正直さっきのピンク色のホテルでも真琴となら良かったんだけどな。と脳裏をかすったけどまぁいいか、と「じゃぁ、先に入る」ってシャワーを浴びる。
    温かいシャワーに冷えた身体が温まる。ただ、冷えた彼を思うと長居は出来ないなと急いで出ると、「早くない?」と驚く真琴。
    「風邪ひかないうちに早く入って来い」
    すると、多分色々感じ取ったのだろう真琴は「ありがとう」と俺のおでこに口づけてシャワールームに消えていった。
    真琴を待っている間、部屋のカーテンを開けると深々と積もる雪。
    これは、明日も帰れないかもしれない。まぁでも、真琴と一緒だし、それもそれで、いいか。
    ぼーっと雪を見ていたら、後ろから抱きしめられる。
    「何見てるのハル。」
    「雪、見てた。あったまったか?」
    「うん、ぽかぽか。あれ、ハル髪濡れてる。」
    風邪ひくよ!ってドライヤーで熱風を当て始めた。真琴に髪を乾かしてもらうの、いつぶりだろう。真琴の大きな手で髪を梳いてもらうのは、心地よい。
    優しい慣れた手つきで、何度も髪を撫でる。
    「ハル、乾いたよ」
    「うん、ありがとう」
    温かくて、気持ちよくて微睡んでいると、真琴は後ろから抱きしめて、「眠い?」って熱っぽく囁く。
    「いや、大丈夫。まだ、年越しまで、1時間あるし」
    「ほんと?無理しないでね」
    言葉とは裏腹に、俺の頭や首筋に唇を寄せる。
    「ハル」
    「ん?」
    「今年も一緒に、年越し出来て良かった」
    「うん」
    俺も、嬉しいよ。真琴。
    後ろを振り返ると優しく細められた真琴の瞳と目が合って、ゆっくりと唇が重なる。
    温かい唇を伝わる体温にゆっくりと自分の体温を重ねる。
    今年も君と過ごせる年越しを噛み締めつつ、体重を預ける。

    「今年もありがとう、ハル。来年もよろしくね」
    「…うん、よろしくな真琴」

    嗅ぎなれないシーツの香りと優しい腕に包まれて、来年を君と共に迎える。


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