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    大晦日な龍遙

    大晦日〜龍遙編あんなに何度も何度も時間、確認したよな。
    自信満々で大丈夫って、言ったよな。
    なのにさっき別れたお前が、どうして俺のマンションにいるんだ?
    「…どうしたの、お前」
    今頃新幹線に乗っている頃だったんじゃねぇの?と茫然としながら、目の前に立つ七瀬に問いかける。

    「…切符、失くした」
    「嘘だろ」

    盲点だった。切符は確認してなかった。
    むしろ、今時切符って、スマホじゃねぇの?
    まぁ、色々言いたい事あるけど玄関前で不毛なやり取りと繰り返すのはご近所迷惑にもなるからと部屋の中に引き入れた。

    「で、どうすんのこれから。」
    「…これから考える」
    「これからってお前」
    全然焦ってない七瀬に、こっちがヤキモキしているとそっと差し出す袋。
    「コーチ、蕎麦、買ってきた」
    「おお、ん?蕎麦?」
    「蕎麦、茹でるから」
    「茹でるから?」
    「泊めてくれ」
    「……は?」

    そこから、七瀬は切り替えが早かった。てきぱきと蕎麦を茹で始めて、厄介になるからとちょっとした肴もつくって、酒も用意してくれた。
    大みそかと言っても普通の日と何も変わらず例年通り一人で過ごす予定だったから、なんだか変な感じである。
    台所に立つ七瀬を横目に、酒を飲む。
    それにしても準備良すぎじゃねぇ?と思いつつも相変わらず七瀬の料理は美味かった。
    そして、暫くすると出汁の良い香りがする。
    いい気分で、出汁の香りに寄せられて七瀬の横に立って鍋をのぞいてみる。
    「どうしたんですか?料理、もう無くなりました?」
    見上げる七瀬は、首を傾げる。その表情が、「なに、誘ってんの?」って口走りそうになって頭を振る。
    「いや、まだある」
    そう答えると、七瀬はそうですか。と蕎麦つゆの味見をする。
    そして、小皿につゆを少量だして俺に差し出す。
    「味見、お願いします」
    「え、ああ」
    ゴクリと流し込むと、優しくて、懐かしい味がした。すっげぇ美味い。
    「どうですか?薄いですか?」
    「いや、ちょうどいい」
    小皿を渡すと、嬉しそうにほほ笑む。今の、何?めちゃくちゃグッとくる。
    気を紛らわせるために前々から気になっていたことを尋ねた。
    「お前、そういえば料理好きなの?」
    「いや、まぁ、嫌いじゃない。」
    「じゃぁ普段は自炊してるのか?」
    「時間があったら」
    男子大学生がちゃんと自炊してるなんて、俺とは違うな。
    「へぇ、偉いな」
    「別に」
    そう返す七瀬は、ちょっと照れたように蕎麦をお椀によそっていた。

    そのあと、完成した蕎麦を二人で啜って片付けたあと先にシャワーを浴びた俺と入れ違いに七瀬が風呂に入った。
    ソファに座って七瀬が戻るのを待っていると、七瀬の荷物から何かがはみ出してた。
    それは、切符の入った袋。
    「んだよ!あったんじゃねぇか」

    ったく。と思っていたら、ちょうど良く七瀬が戻ってくるので、切符を七瀬の目の前に出した。
    「なんだよ、お前、切符見つかったんだな。どこにあったんだよ」
    そういうと、七瀬は立ったまま俺を見る。
    「どうした?」
    「…コーチ、ごめんなさい」

    なんで謝られてんだろう?と状況が飲み込めないでいると深刻そうに七瀬は口を開く。
    「本当は、切符失くしてない。」
    「ん?どういうことだ?」
    「最初から、1月2日に帰る予定で」
    「は?なんで嘘ついたんだよ」
    意味がわからなすぎてポカンとしていると七瀬は続けた。

    「コーチと、年越し、過ごしたかったから」
    「…なんて?」
    「だから、コーチと年越し、したかったんだ」

    その瞬間、年甲斐もなく狼狽してしまう。
    年越しを過ごしたかった?俺と?こんなアラサーのおっさんと?
    マジかよ。目の前の七瀬と目が合った瞬間、ドキッとしてしまって咄嗟に視線をそらした。
    まっすぐに思いを伝えられたのなんて、いつぶりだよ。
    固まっていたら、いつの間にか俺の目の前に立っていた七瀬がこちらを見下ろす。
    「ごめん、なさい」
    ぽたぽたと髪から水滴が垂れて、瞳が揺れる。
    そんな髪に手に持っていたタオルを被せて、恥ずかしさを紛らわせるように水を拭きとってやる。
    「風邪、引くだろ」
    形のよい頭を撫でつつ、このタオルのなかで、七瀬はどんな顔をしてるのかを想像すると堪らなくなった。
    「七瀬」
    名前を呼ぶとゆっくりと顔を上げた七瀬がタオルから顔を覗かせる。その顔が恥ずかしそうに俺を見つめていて思わず、柔らかそうな唇に自分のそれを重ねた。
    柔いそれを啄んで、離れると七瀬は俺のナイトガウンにしがみつく。

    「そんなに、俺と年越し、してぇの?」
    我ながらズルい質問に、頷く七瀬があんまりにも愛おしくて、抱きしめる。
    初めて出会った頃より、逞しくなった七瀬の身体をなぞって両手で包み込んだ。
    10以上歳の離れてる同性の男に、こんなにも心が乱されるなんて、むず痒くて、堪らない。けど、嫌悪感は全くなくて。

    あぁ、離したくねぇ。

    額に口づけて、ガウンを掴んだ手を引く。
    時刻は、23:25。

    真っ暗な寝室のベッドにゆっくりと押し倒して、俺を見上げる七瀬の頬を撫でる。
    「そんじゃ、年末年始、飽きるほど一緒に居てやるよ」
    すると、七瀬は俺の首に腕を回して引き寄せた。

    今年だけじゃなくて、お前が許すなら、
    来年も、再来年も、ずっと、共にありたい。


    2023年書き納め!
    2023年大変お世話になりました!2024年もよろしくお願いします。皆様に幸あれ。
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