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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク 7回目
    いじっぱり

    「いやだ」
    「アベンチュリン」
    「そういう約束だっただろ」
    「そうかもしれないが状況が変わった。君も分かっているだろう」
    「状況が変わったのは僕で、君じゃない。君が予定していたことを変える必要はないって僕が言ってるんだ」
    「これは僕だけの希望でやるようなことじゃないはずだが」
    「僕だってしたいって言ってるだろ!」
     苛立たし気に吐き出された言葉に、レイシオは深くため息を吐き出した。苛立ちたいのはこちらの方だ。どう考えても正論を口にしているのはこちらのはずなのに、いやだいやだと駄々をこねるような彼に頭痛を覚える。学がなくとも馬鹿ではない。その評価を、もしかしたら改めなければないのかもしれない。
    「その気が失せた。しない。以上だ、帰ってくれ」
    「嫌だ帰らない。追い出すんなら部屋の前で君の性癖を大声で吹聴してやる」
    「はぁ……」
     どうしたって変わることのないやり取りに、何度目かもわからないそれが吐き出されていく。今日は久方ぶりの逢瀬で、彼にとってもそのはずで。だからお互いに気が急いて、事前にそんな約束をしたのは事実だ。浮かれていたともいう。しかし今の彼を前にして、それを実行に移せる人がどれだけいるというのだろう。こんな、酷い顔色をした恋人を前にして。

     レイシオとアベンチュリンは恋人という関係を築いていた。しかし片やカンパニーの幹部、片や博識学会の天才。どちらもそのスケジュールは詰め込まれているのが常で、だからこうやって休みが合うのなんてそうそうない。久方ぶりの逢瀬であったのはお互いさまで、恋人なんだからそういった接触だって期待して。そうやって迎えた当日だったのだ。そこまではいい。けれど、それが駄目だったのかもしれない。
     土気色の肌、くっきりとした隈、つやの失せた髪。今の彼に必要なのは恋人との逢瀬ではなく休暇である。そんなのは火を見るよりも明らかだった。だから開口一番に「なんで来たんだ」とつい口から出てしまった。へらりと笑った彼の顔が固まる。まずいと思ったところで、発した言葉をなかったことにする技術は未だに存在していない。
    「頼むから寝てくれ」
    「嫌だ、絶対やる。君にその気がないなら寝てるだけで構わないから」
    「アベンチュリン」
     そんな状態の恋人を抱きたいなんて言う人がどこにいるというのだろう。少なからず、レイシオは一切思わない。だというのに彼は譲らないのだ。意固地になって、こちらの言うことに一切首を縦に振ってはくれない。聞けば予定が押しに押して、出張先からついさっき戻ってきたばかりらしい。なんでそんな状態で、自宅ではなくここに来てしまうのだろう。彼の多忙さは分かっていて付き合っているのだから、メッセージひとつくれればそれで構わなかったのに。
    「僕のことは気にしないで、お願いだから使ってくれって!」
    「アベンチュリン!」
     そしてついに、抑えていた怒声が出た。びくりとその小さな身体が怯えを表している。あぁもう、違う。怒鳴りたいわけじゃない。そうじゃないのに、彼の言葉に苛立ちが募ってしまったのも事実で。
     それは、何度も彼に言い含めたことのはずだ。恋人という関係に至るまでの紆余曲折の中、満足させるための道具としてほしいと望んだ彼に、何度も何度も。それこそ根気強く、何度も。決してそんなつもりで共にいることを選んだわけではないのだと。
    「僕は、そう言ったはずだ」
    「あ……、」
    「……僕は、君を使いたいなんて思ったことは一度もないんだ」
     頭に血が上っていた。自分の身体を顧みずにこちらのことばかりを言う彼に腹が立っていた。だからこんな簡単なことにも気づかなかったのだろう。酷い失態だ。彼の恋人でありたいと望んだ身でありながら、彼の表面に惑わされて。
    「震えている」
    「っ、」
    「……酷い顔色だ」
    「そ、れは、」
    「抱くために会うわけじゃない。抱くために恋人になったわけじゃない。……分かるな?」
    「……う、ん」
     隠されていた両手を包む。冷たい手のひらはいったい、いつからそこにあったのだろう。決してレイシオが怒鳴っただけではないそれに、そして気が付けなかった自分に、酷く腹が立つ。
    「れいしお、」
    「どうした」
    「僕……ここに、いてもいい?」
    「……あぁ、もちろん」
     駄目だったのだ。追い返してはいけなかった。帰れなんて言うべきではなかった。だから彼は曲解して、抱かせてやるから家に入れてほしいと、そう望んでしまったのだ。彼だって本当に望んでいたのは抱かれることなんかではないはずなのに。お互い意地になって、それぞれにそんなことしか口にできなくなって。
    「風呂に入って、食事をして、それから寝よう。いいな?」
    「……君も、一緒?」
    「あぁ。何か食べてきたのか?」
    「しょくよく、なくて」
    「なら軽いものを準備しよう。食べられるときに食べればいい」
    「……レイシオ」
     ごめん。そう口にする彼を、すっぽりまるごと抱きしめた。それはこちらのセリフだというのに先を越されてしまったから、最大限のそれが伝わるように。来てくれてありがとうと本心を口にすれば、泣きそうな声でうん、と返された。
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