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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【猫】

    まるで🧂のような猫を一晩預かる🦚の話

     その小さな彼を見た時、アベンチュリンは言葉もなくレイシオだ、と思った。いや、決してべリタス・レイシオ当人では無いのだけれど。でも青紫の毛並みといい、赤銅色の瞳といい、ジェイドの執務室のソファにふてぶてしく陣取る様といい。アベンチュリンが入出した姿を一瞥しつつも、何の言葉もなく彼女へと視線を戻す様も含めて。全てが、まるで彼のようだと。
    「えぇと……僕が呼び出された理由を聞いても?」
     レイシオのような小さな彼、見た目だけで言うなら猫と呼ばれるであろうその生命体は、猫という身でありながらため息をついたらしかった。ふす、と鼻息にも近いものが吐き出される音がする。器用だ、そういうところまで彼にそっくりである。
    「そこにいる猫が見えるでしょう? 彼を一晩預かってほしいの」
    「は、」
    「んなぁ」
     まるで異を唱えるような鳴き声。しかしそれよりも彼女の宣ったことの方が重要だった。猫を預かる? 何故? そんなこと、言ってしまえば幹部であるアベンチュリンのするところではないはずなのだが。
    「そんなにすごい猫なのかい、彼は」
    「そうとも言えるわ。まぁ、私にはそれを坊やに説明するつもりはないのだけれど」
    「それはまたお言葉だねぇ、ジェイド?」
     非難してみてもどこ吹く風だ。ただ笑みを深めるだけの彼女は手元の資料に視線を落としたまま、アベンチュリンを見るでもなく淡々と言葉を続ける。
     これ、断ってもいいだろうか。久方ぶりの彼女からの呼び出しだったから、何か面倒なことになる前にとすぐに足を運んだというのに。こんなことならチャットか何かで済ませてしまえばよかった。もしくは代打を立てるとか。そう、だって小さな生き物の世話なら、アベンチュリンよりも適任な同僚がいるではないか。
    「トパーズなら今日から別の星系へ出張よ。丁度あなたとは入れ替わりね」
    「……それを知っているんなら、僕が今日まで出張だったことも把握してるんだろう?」
    「んに」
    「えぇもちろん。そこで坊やが奇物の暴走に巻き込まれたことも」
     そこまで知っているのならきっと、その事の顛末だって分かっているのだろう。事実、今日までの出張中にアベンチュリンは奇物の暴走に巻き込まれた。それはカンパニーへ報告済みで、つまりはこの身体にその影響が出ていないことも報告済みなのだ。その奇物自体は先んじて解析班が持ち帰ったから、早ければ今日の夜にでも結果が出るだろう。
     そんな状態のアベンチュリンを呼び出した理由が、猫。ため息をこぼすのだって許してほしい。ただでさえ溜まっている疲労がどっと押し寄せてくるような感覚がする。あの猫がいなければ、すぐにでもそのソファに身体を沈めたいところだ。
     そう思って、彼女に向けていた視線を小さな彼へと向けて―――――赤色がこちらに向けられているのに気が付いた。何かを注視するようにアベンチュリンを見ている。一切こちらには見向きもしていなかったのに。
    「にぃ」
    「明日の朝まで、一時的なものでしかないわ。きっとあなたの家の先住民たちも歓迎してくれると思うけれど」
    「……どうして分かるんだい、レディ?」
    「だってその子、彼にそっくりだもの」
     だから、どうしてそれが理由になるというのだろう。確かにレイシオに似ているとは思ったし、レイシオはかの創造物たちの定期的な健診を請け負ってくれているから面識だってある。けれど、猫を彼だと思うその感性が彼らにあるかは断言できない。
    「せめて、猫の言葉がビーコンで翻訳されると嬉しいんだけど」
    「残念ながら一部の動物言語はまだ対応途中なの。猫もね」
    「……はぁ。技術開発部に要望を送っておくよ」
     諦めるしかないのだろう。そもそもジェイドの呼び出しに応じてしまった時点で、これから逃れる術なんてないのである。つまりは悪あがきだった。意趣返しをされたことに対する反発というか、苦肉の策というか。
    「君は、それで構わないかい?」
    「にゃぁ」
     触れたその小さな彼はもふりとしていて、あたたかくて。それがなんだかやっぱり、彼に似ていると思った。

     帰宅するなり先住民の彼らに囲まれ、しかもアベンチュリンと同じことを思ったらしい。『れーしお』『れーしお』と周りを取り囲んで、しかし当の本人は我が物顔でリビングまで歩いて行ってしまう。飛び乗った先がレイシオの定位置と化しているソファの上だったから、少し笑ってしまった。
    『れーしお、今日もしんさつ?』
    『ぺたぺた?』
    『にぎにぎ?』
    「にゃあ」
    「違うよおチビちゃんたち。ほらよく見て? 確かに似ているけどレイシオじゃないだろう?」
    『しおじゃ、ない?』
     にゃうにゃう、と言葉にならなかったらしい彼らの声が、翻訳されずにアベンチュリンの鼓膜を揺らした。この声が翻訳できるのにどうして猫の言葉は駄目なのだろう。ものとしては、そんなに変わらないと思うのだけれど。
    『しおだけど、しおじゃない?』
    『じゃあだれ?』
    『だれ~?』
    「にぅ」
    「うーん……」
     どう説明しようか。確かにレイシオに似ているとは思うのだけれど、とはいえそもそも人じゃない。何で彼らはこの猫がレイシオ本人であると思っているのだろう。そこまでの知能がないか、もしくは見た目とは違うところで彼を彼と認識していたのだろうか。それが似ている、とか。であればどうしたものだろう。違う存在なのだと伝えるためには。
    『しおじゃないならだれ、ちゅり?』
     大きな瞳が三対。そして赤色が一対。それぞれが立ったままのアベンチュリンに集まった。レイシオじゃない、なら。あぁそうか、呼び方を変えてしまえばいいのだ。彼らの言う『しお』がレイシオであり、『ちゅり』がアベンチュリンである。なら、別の呼称を彼に与えてやればいい。
    「えぇっと」
     とはいえ、何かの名付け親になることなんてそうそうあるわけじゃない。ぱっと出てこないのだ。それこそトパーズか誰かにそのコツでも聞いておけばよかった。今度聞いておこう。そうすれば、こういう時に困らずに済む。いやそうじゃなくて。彼の、名前は。
    「……べり、たす」
    『べり?』
    「うん、そう。そうだよ。ベリタスって言うんだ。ね? 彼とは違うだろう?」
    「に」
    『べり!』
    『べりたす~』
     もちんもちん、みょんみょん、ぽみゅんぽみゅん。いろんな効果音をまといながら彼らが飛び跳ねる。よかった、どうにか彼がレイシオとは別人であると認識してくれたようである。この場合、別人でいいのだろうか。別猫? 変に頭を使ったからか、それとも彼のファーストネームを口にするのが何となく気まずかったからか。理由はともあれおかしな方へと思考が飛んでしまう。あぁもう。
    「にゃう」
    「あー……はは。名前はほら、ないと困るだろう? 今日だけはその名前で生活して欲しいな」
    「にー」
    「うん、えっと……ごはんにしようか。それからお風呂と、君の寝床は……今日は僕の部屋かな。彼らの寝床は満員だからさ」
     言葉が通じないのは何かと不便だった。食事はまぁどうにかなったものの、風呂場では水が怖いのか隅から動こうとしなかった。というか、浴室内を見たがらなかったというか。風呂好きのレイシオとは似ても似つかない。いや、猫なのだから水が怖いのは当たり前か。いくら彼に似ていると言ったって、種族的な部分ではどうしようもないだろう。
     にゃあにゃあ鳴いた彼を、ベリタスをむんずと掴んで、そのふわりとした体毛を泡で満たしてやる。ついでに自分の身体もある程度綺麗にして、まとめて泡をお湯で流して。湯船は、まぁ無理だろう。こちらを見ようとすらしないし、もしかしたら無理矢理身体を洗ったせいで嫌われてしまったかもしれない。でもこれもジェイドからの指示でどうしようもなかったのだ。
    「ごめんね。明日にはちゃんと帰れるから」
     ベッドの中へと招き入れて、電気を消して。結局ジェイドには聞けなかったけれど、彼はいったいどういう理由でここにいるのだろう。毛並みは綺麗、やせ細ってもいなければ健康そのもの。では、誰かがずっと世話をしていたということか。それも明日、聞いてみよう。さすがに一日面倒を見たアベンチュリンに何も知らさないような人ではないと、知っている。
    「おやすみベリタス、いい夢を」
     ふわふわの背中を撫でて、あたたかいその身体を抱きしめて。アベンチュリンとて出張帰りの身だ。疲労は溜まりに溜まっていて、だからその意識を手放すのだってすぐだった。

    「……へ、」
    「おはようギャンブラー。よく眠れたようで何より」
    「は、っ!?」
     決して、本当に決して、何を油断したわけでもないのだけれど。では気付かなかったのだろうか。知り合いとはいえ、人一人がこの家にはいり込んだことに。なんて失態だろう。危機感がなさすぎる。
     彼の元から飛びのけば、それを彼は気にも留めていないようだった。窓の外は明るいけれど陽は昇りきっていなくて、となると朝だろうか。小さな彼らがご飯をせがむ声もまだ聞こえない。
     そう、小さな彼らと、今はもうひとつの小さな彼がいるはずなのだ。目の前にいる彼によく似たあの猫は、しかし部屋の中を見渡しても見当たらない。何故。まさか部屋から出てしまったのだろうか。レイシオがこの部屋の中にいるというのなら、一度は扉が開かれたのは事実だろうし。
    「っ君、なんでここにいるんだい」
    「ご想像にお任せしよう。それより、何か探しているようだが?」
    「……知ってて言ってるのかな」
    「猫の居場所なら僕は知らない。名前でも呼んでやったらどうだ」
     最悪の事態だ。つまり彼はその猫の存在を知っていて、しかし行き先は知らないと。見送ったのだろう。家から出ていないことを願うしかないだろうか。彼の言う通り名前を呼ぶのはありかもしれない。彼に似て酷く聡明な猫だったのだ。だから、きっと聞こえたなら返事をしてくれる。
    「……」
    「どうした? 呼ばないのか」
    「……君、どこまで知ってるんだい」
    「その質問についての回答は控えよう」
    「このやろう……」
     呼ぼうと、して。アベンチュリンは昨日の失態を恥じた。だって彼がここに来るなど思ってもいなかったのだ。だから安直に、彼に似ているという理由だけで、その名前をつけた。『ベリタス』という彼と同じ、その名前を。
    「……似てると、思っただけだから」
    「そうか」
    「何の他意もない、から」
    「そうだろうな」
    「……ベリタス!」
     意を決して、もうどうにでもなれと思って、その名前を口にする。それはもう大きな声で。この家の中ならきっとどこにいても聞こえるだろう声で。実際、それで目が覚めてしまったのか小さな子たちの驚いた声が聞こえてきた。けれど、探したい彼の返答は。
    「なんだ」
    「っい、や、君じゃ、」
    「君が呼んだのは僕だろう」
    「そうだけどそうじゃなくて……っ!」
    「ならもう一度呼ぶか」
    「~~~~!」
     面白がられている。それが分かるような言葉だった。けれど彼が見つかっていないのは事実なのだ。だからレイシオに向かってではなく部屋に向かって、立ち上がっていろいろな部屋の扉をあけながらその名前を呼んだ。何度も、何度も。あの小さな彼が応えてくれることを願って。
     なのに、応えるのは後ろからついてくる大きな彼なのだ。その全てに「何だ」「どうした」「ここにいる」なんて馬鹿みたいなことを答え続けている。そんなユーモア、今は求めてないというのに。
    「レイシオ、お願いだから少し黙ってくれないか!?」
    「君が探しているのは僕だ。さっきも言っただろう」
    「だから僕が探しているのは君に似た猫で、」
    「……まぁ、頃合いか」
    「はぁ?」
     リビングで彼の定位置になっているソファに腰かけて、すまし顔のレイシオがそんなことを宣った。頃合いってなんだ。こっちは猫探しで忙しいのだから邪魔しないでほしい。いや、何故彼がこの家にいるのかという問題はあるけれど。でもそれは後でもよくて。
    「君、奇物の暴走に巻き込まれただろう」
    「……それが?」
    「解析結果は、昨日君がジェイドの元を訪れるより前に出ている。そして君に対しては箝口令が敷かれた」
     え、と間抜けな声が出た。いや、確かに時間がかかっているなとは思ったのだ。昨日の夜にさえその解析結果は出てこなかったし、けれど別に何の影響もないから放っておいても構わないと思って。ではなぜ、今そんな話題が彼の口から出てきたのだろう。
    「一定の条件を満たした相手のみが猫に見える奇物だそうだ」
    「猫に見え、る」
    「そう。まぁ僕自身はその条件を満たさないと思っていたんだが……僕の予想は外れ、彼女の言った通りになった」
    「つまり、僕がずっと見ていたのは、」
     猫に見えていただけのレイシオ自身だったと、いうこと。そんな彼と『ベリタス』と呼び、風呂に一緒に入って、一緒の布団にくるまって。
    『ちゅり、はやおき?』
    『べりおきてる』
    『べり~!』
    「……彼らは、僕が昨日の『ベリタス』であることを疑うことすらしていない。それが証明のひとつになるだろう」
     何度も名前を呼びながら小さな彼を探していたのもあって、彼らも目が覚めてしまったのだろう。寄ってきた彼らに「おはよう」と言いながら、彼は小さな子たちの頭を順番に撫でている。
     じゃあつまり、結局、あの猫はレイシオで。レイシオはその『条件』とやらを満たしていて。奇物の暴走なんてものに巻き込まれたアベンチュリンのせいで、こんな家に、そんな間抜けな社員の相手をするためだけに付き合って。
    「……君が予想を外したその『条件』とやらを、是非僕にも教えてほしいものだね!」
     照れ隠しで本音だった。猫に見えていて言葉が通じずとも、チャットで伝えるとか、それこそ箝口令を破ってその奇物の話をするとか、他にもやりようはあったはずなのだ。なのにこんな茶番に付き合ったのは何故だろう。学者でもある彼が外したその予想とやらを笑ってやる。ジェイドが考え付いたのに彼が至れなかった、その理由を。
     しかし、レイシオは少しだけ口をつぐんだ。言いにくいことだと顔に書いてある。自分の失態だからだろうか。とはいえ今日はさすがに奇物の解析結果が届くだろうし、つまりは時間の問題だ。それは彼も分かっているはずなのに。
     重たい口が、開く。そして告げられるのだ。まだ何も知らなかった、水面下で育んだ、育まれてしまった、この感情の正体を。
    「心から想う相手が猫に見える奇物、だ。……事故だったとして、僕にとっては渡りに船なんだが。君はどう思う?」
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
    2790

    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【賽は投げられた、カウントダウン】

    🦚が投げた賽とその末路
     ピアポイントまで戻る遠征艇の中でアベンチュリンは頭を抱えていた。いや、確かにそれの原因を作ったのは自分だけれど。だからある程度の報復というか、仕返しというか、そういうのがあるだろうと覚悟はしていたけれど。でもこれは、決してアベンチュリンの想定内には収まらない。
     どうしよう。どこかに時間を巻き戻すような奇物はないだろうか。もしくは対象者の記憶を消す薬とか方法が落ちていないだろうか。後者ならメモキーパーに依頼すれば、どうにか。アベンチュリンなんていう石心の依頼を受けてくれるようなガーデンの使者がいるとは思えないけれど。
     本当に、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。でも仕方がなかったのだ。だって今回の遠征はそれなりにリスクがあって、だからもし言わなかったらそれを後悔するんじゃないかと、思って。ピノコニーの時はまだそういう関係ではなかったから何も言わなかったけれど、今はそうじゃないからそれなりの礼儀があってしかるべきだろう。彼という人が心を明け渡してくれたのだから、アベンチュリンも同じものを差し出すくらいの気概はある。
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