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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【駆け引き】

    先手を打った🦚の話

    「好きだよ」
     前を歩いていたその人が立ち止まって、その赤色を見開いて振り返る。あ、見たことのない顔だ。初めて見る顔。少しだけ開いた口が彼の心情を物語っているようでちょっと面白い。
     そんな彼の隣を、歩くスピードを落とさずにすり抜けた。何も気にしていないふり、なんとも思っていないふり。大丈夫、そういうのは得意なのだから。今までそうやって今まで生きてきて、だからこれからだって変わらない。
    「……アベンチュリン、」
    「なぁんて」
     そして、視界から彼がいなくなったところで言ってやるのだ。魔法の言葉。それを言えば今までの言葉全てがただの戯れになってくれる夢みたいな言葉だ。後ろで息をのむ音が聞こえる。あぁ、きっと今もアベンチュリンが知らない顔をしているのだろう。だけど、それは見ちゃいけない。見る権利すらない。
    「間抜け面」
     見ないままに、言う。全部嘘じゃなかった。魔法の言葉で誤魔化したことも、さっきの彼の顔が面白いくらいに彼が嫌う『マヌケ』そのものだったことも。そして、最初に口にした言葉も全部。
     なんでこんな馬鹿みたいなことをしているのか。それは簡単、レイシオに勘付かれてしまったからだ。頭のいい彼は人をよく見ている。そしてその観察眼は患者や生徒の心情を読み取るのによく活用されていて、そしてあろうことかアベンチュリンにも適用されてしまうらしい。それに気付いた時には手遅れで、だからこれをどうにか彼に勘違いだったと思わせる必要があったのだ。
    「明日も仕事だろう? 変な奇物が見つかったとかで技術開発部が駆り出されるそうじゃないか。あの星は遠いし、次に会うのはシステム時間で数か月後かな」
     こつ、こつ。自分の靴が地面を踏む音がする。そしてワンテンポ遅れて彼が歩き出す。あれ、ついてくるのか。こんな風にからかってくる相手とは少しも一緒にいたくないタイプだと思っていたのに。読みが外れたのは久しぶりで、でも彼相手であるということを考慮すると決して珍しいことじゃない。
     どこまでついてくるのだろう。今までは確かにこの後の仕事とか、彼としかできないような内容の世間話とかを飽きることなく話していたけれど。例えばかのナナシビトがまた変な星に辿り着いたとか。家主の帰りを待っている三つの生命体が今日もかわいいとか。カブに宝石をあげたらトパーズに怒られたとか。そんなどうでもいいことを、延々と。
     その延長線上として口にしたのだ。それくらい軽いものであると思わせるために、どうでもいいことだと示すために。彼は、レイシオはきっと、ここまで分かりやすくしないとその裏を勘繰ってしまうから。そしてそこに隠されているものに気付いてしまうから。
    「……どこまでが本音だ」
    「何の話だい?」
     ほら、言わんこっちゃない。どこで露見したのだろう。今日の朝は鏡の前で、しっかり手のひら合わせまでしてきたのに。ちゃんと鏡の中の自分と左手を重ねたのに。『二人』でやらなければ意味がないというのなら、そこに『幸運』が働かなかったというのもまぁ分かるけれど。
     いやそうではなくて、今はこれをどう切り抜けるかを考えなければ。だってこれは『与太話』でなければならないのだ。本当であってはならなくて、本音であってはならなくて、だからその可能性を彼の中から排除させなければならなくて。
    「あぁそうだ。ジェイドが君から依頼されたものを集め終わったって言っていたんだけど……君、一体彼女に何を頼んで、そのために何を渡したんだい? かのレイシオ教授であれば、貸付の翡翠と取引をするのは悪手でしかないって分かるもんだと思ってたけど」
    「……本来ならそうだろうな」
    「なぁんだ、君も自覚はあるんじゃないか。気になるなぁ、レイシオがそこまでして欲しかったもの」
     ジェイドに聞けば教えてくれるかな? そんなことを言いながら安堵する。よかった、話題を逸らすのには成功したらしい。振り返らずに、後ろをついてきているらしい彼に語りかける。答えなんて返ってこなくていいのだ。これはずっと言葉を続けることこそが目的であり、この計略を彼の記憶の奥底まで押しやることが目的であり。
    「君の外堀を埋めるためには、どこに手を回せばいいか。それを彼女に聞いたんだ」
    「……は、?」
    「聞こえなかったのか。君の外堀、だ」
    「いや聞こえて、えっと……えぇ、っと……僕の外堀、って……。あ、何かしてほしいことでもあるのかい? 君の頼みなら何でも、」
    「僕が君に『好きだ』と伝えて、その際に君が逃げも隠れもできないようにするための」
     そういう外堀だ。レイシオの声が、響く。いやまさか。そう思って振り返って、赤色が真っ直ぐこちらに向けられているのが、見えて。一切揺れていない、綺麗で強かで芯のある赤。そこで悟ってしまうのだ。いや、まさかそんなはずはない。だってそのために、気付かれないために、気付かれても逃げられるように、そうやって色々なものを積み上げて。
     まだどこかに残っているはずの選択肢を探す。あぁもう何で。簡単な計略だったはずだ。彼は別にこの心を受け取る必要なんてないのだから、そんなことをしたって利なんて何もないのだから、ただそれを少しレールに乗せれば終わる話だった。だって、レイシオは優しいからそれを大事にしてくれてしまうのだ。そんな価値もないのに。掃いて捨てればいいだけのものなのに。だからそうするんだよと、教えるだけでよかったはずなのに。
    「君が言った通り、僕宛てにも今日ジェイドから連絡があったんだ。だからその外堀はこれから埋める。だからそれまで、逃げずにそこで待っているように」
    「は、は……君も冗談なんて言うんだ、」
    「そうだな」
     いや、大丈夫。だって先手を打ったのはアベンチュリンだ。まだ主導権は取り返せる。というより冗談であることを肯定したのだから、つまりこれはそういうことなのでは。それならそれでいい。馬鹿正直に彼の言葉の通りに、ここで待っている必要だってないのだし。
    「そもそも僕が君の『外堀』を埋めれるかさえ一種の賭けだ。……ギャンブラー」
     挑発するように赤が瞬く。しかしそこに娯楽めいたものは一切ない。ただ真摯に、真っ直ぐに、一寸のぶれもなくこちらを射貫いている。まるで彼の覚悟を表すみたいに。
    「君はこの賭けに乗るだろう?」
     逃げ道を、確保しないと。どこかにあるはずなのだ。だってそうじゃないと、先手を打ったはずなのに、先手必勝という言葉が成り立たなくなってしまう。いや、先手で勝ち越せなかったのだから勝てるという確証もない、ということだろうか。そうではない。そうではなくて。
     結局は惚れた方が負け、というのは今回当てはまるのだろうか。当てはまるとして、では、負けるのは一体どちらなのだろう。そんなのは地母神でさえ、知る由もない。
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
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    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【賽は投げられた、カウントダウン】

    🦚が投げた賽とその末路
     ピアポイントまで戻る遠征艇の中でアベンチュリンは頭を抱えていた。いや、確かにそれの原因を作ったのは自分だけれど。だからある程度の報復というか、仕返しというか、そういうのがあるだろうと覚悟はしていたけれど。でもこれは、決してアベンチュリンの想定内には収まらない。
     どうしよう。どこかに時間を巻き戻すような奇物はないだろうか。もしくは対象者の記憶を消す薬とか方法が落ちていないだろうか。後者ならメモキーパーに依頼すれば、どうにか。アベンチュリンなんていう石心の依頼を受けてくれるようなガーデンの使者がいるとは思えないけれど。
     本当に、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。でも仕方がなかったのだ。だって今回の遠征はそれなりにリスクがあって、だからもし言わなかったらそれを後悔するんじゃないかと、思って。ピノコニーの時はまだそういう関係ではなかったから何も言わなかったけれど、今はそうじゃないからそれなりの礼儀があってしかるべきだろう。彼という人が心を明け渡してくれたのだから、アベンチュリンも同じものを差し出すくらいの気概はある。
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