「……ていうか千空ちゃん!結婚式2日目なんて聞いてないんだけど」
「あ~、そうだったか?」
じっとりとしたゲンの視線に、千空はわざとらしく答える。
「俺のとこには日程はこの日!って通知しか来なかったです、主催者さん」
「ククク。手違いがあったんだろうなあ~」
「ああもう……!余興したかった……!」
珍しく本気で落ち込んでいるらしい様子を見た千空は、おそらく慰めのつもりだったのだろう。悪どい笑みを引っ込め、口を滑らせた。
「俺らの式でやりゃいいだろ」
「へ?」
「あ?」
「え???」
しばらく二人の間に無言の時間が流れた。恐る恐る、といった様子でゲンが聞き返す。
「……俺らの?」
「言ってねえ」
しまった、という顔をした千空が間髪を入れずに否定する。が、不自然極まりなかった。
「ちょっと待って流石にその誤魔化し方はリームーすぎでしょ」
聞いてしまったものは聞いてしまったのだ。ゲンとしては引き下がるわけにはいかない。すすっと千空の傍らに移動し、声をひそめる。
「千空ちゃん……結婚のご予定が?」
「無い。……んな顔すんな!あれだ、気持ちが先走ったっつーか。とにかく聞かなかったことに」
「いやいやいや!物分かりのいい俺だけど言わせていただきます。やだ。だって気になるもん!千空ちゃんの結婚観ゴイスー気になる。てか人生設計に結婚が入り込むタイプだった?親友がくっついたの見て心境に変化あった感じ~?」
にわかに色めきだったゲンはニヤニヤしながら距離を詰めた。クロムちゃんなんかまさにそんな感じだったらしいし、と心の中で反芻する。
「あー分かった分かった全部話すから大人しくしやがれ。俺らっつったのは文字通り俺とテメーのって意味だ」
「はい?」
ちょっと待て。聞き捨てならない話をさらっとされたような。ゲンは思わず一歩後ずさった。
「結婚観、は特にねえな。人生設計に組み込むかどうか考えたことすらねぇわ。感化されたっつーのは……もしかすっとあるかもな。お~し聞かれたことには答えたこの話はこれで終わりな~あーそうだ大樹杠の式だが全部ビデオに残してあんぞオラこれ持ってとっとと帰りやがれ」
苦々しい表情から一転、平然と開き直った千空は先程のゲンに負けないくらいにまくしたてると、客人を玄関先へ追いやろうとした。ゲンは押し付けられた無骨なビデオカメラを危うく取り落としそうになる。
「怒涛の早口!!てか流石にまだ帰らないから!!俺何年ぶりに帰って来たと思ってんの!??」
たまらず言い返すと、千空の表情はどこか和らいだ。
「……ま、テメーの好きにしろ」
「今日の千空ちゃん、ジーマーでどうなっちゃってんの……」