where you go, I go ――それが、こいつにとっては盲点なんだろう。
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包帯はともかく、傷口に薬を塗り込むのなんか染みただろうに、ゲンは目を覚まさなかった。厚みのない胸がゆっくりと上下する様子からして、すっかり寝入ってしまっているらしい。うなされてはいないようだから、痛みというよりは体力気力的な問題なのか。案外タフで、何よりかっこつけなこいつも人の背中で寝落ちることがあるとは。
ゲンの身に何が起きたのか。
情報源は、「迷った」と、あちこちの傷、足の捻挫。まあなんとなく察しはつく。でも、起きたらこいつの口から吐かせようと思った。
ゲンは自分の話をするのが下手だ――というと、不正確かもしれないが、なんというか、そういう部分がある。例えば「司とはテレビの特番で会った」と、たったそんだけのことを聞くにしても、意外なほど時間がかかったというか、思い返せば随分後になってからのことだった。
本人としては意図的に隠しているつもりはさほどないようで、聞き出したと思えば「あれ?そういえば話してなかったかも」みたいな、こっちが勘繰るのがアホらしくなるテンションで言葉が返ってきたりする。あまり自分を明かさないのが癖になっているみたいだ。それがゲンの身の守り方で、気遣いだというのは分かっている。らしさ満載の策は講じれど、科学王国に付いてからこいつが帝国側の人間に傷をつけるような物言いをするのを見たことがない。
そうは言っても、だ。
気持ちを内に秘めるタイプ、ってのは別に珍しくもなんともないが、なにぶん職業メンタリストだから、隠すのが上手すぎてこいつ自身損をしてるんじゃねえか、と思うことはあった。誤解されることを厭わない、むしろそういう人物として見られることを都合よく思っている節があったりするからタチが悪い。
こうして無防備に寝ているゲンを見ていると、マグマの襲撃でうなされていた姿が思い起こされる。怪我の種類や痛みの度合いが違うからかもしれないが……あのときは多分、夜深くまでずっと起きていて、タイミングよく御前試合に現れたことを考えても、話は全部聞いていたのだろう。
夜は、こいつと何か大事なことを決めることの多い時間だ。それはつまり、蝙蝠男の覆い隠された本心が出やすいタイミングでもある。
ゲンが俺の側にいる間、少なくとも俺の視界に映っている間、俺も同じだけの時間ゲンを知るチャンスがある。観察は、科学の基本だ。職業メンタリストに敵うべくもないが……めんどくさい男の本当の心を知りたいと、そう願うのは同じことだ。