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    ななみや

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    ななみや

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    ふみ天。
    え、天彦ってO泉洋が好きなの?……その、俺も似てるとこあるよ。ほら、例えば、えっと、ほら、あー、あれとか、うん、ほら、えっと……

    O泉洋との共通点を探せきっかけなんて覚えていない。
    リビングで依央利お手製のカカオから育てたホットチョコレートを啜りながら、住人達と談笑する天彦をぼーっと眺めていたときに、ふみやは急に感じたのだ。
    あれ?俺、天彦のこと好きかも、と。
    まさか甘いものを飲んで気持ちまで甘い錯覚を起こしてあまひこに恋?
    どんな吊り橋効果だ。そんなわけもない。

    不思議なもので自覚すると世界というものは一変する。

    俺は、天堂天彦が、恋愛感情として好きだ。

    一変した世界は、まずふみやに「焦燥感と独占欲」をもたらした。
    先ほどまで何も思わなかったリビングの光景は今やふみやにとってライバルがひしめく闘技場。もしも他の住人がふみやより先に天彦に告白してしまったら。
    そんな、ふみやと天彦以外が聞いたら全員が全力で首を横に振りそうな杞憂が頭の中をかけめぐる。
    こうなったら一刻も早く天彦に好きだと告げなければ。
    居てもたってもいられずふみやは慌てて天彦に声をかけようとした。
    しかし、そこでふと思いとどまる。
    『断られたら?』
    天彦は自他共に認めるように住人全員を尊敬していて住人全員のことが大好きだ。
    そのなかで果たしてふみやが飛び抜けて好かれているかといえばなんらその確証はない。
    全員同率一位のようなものだ。
    なんだったら天彦は自身を世界中の変態の恋人と称しており、変態ではない自分はその広義の意味の恋人にも入れていない。
    『むしろこのハウスで俺だけ遅れをとっているってことか』
    まわりからすれば賛否両論もとい罵詈雑言もいいところだが本人としては大真面目で大問題だ。
    勝算もない中、勢いだけで一か八かの告白をしてどうするというのか。
    ならどうするか。
    残念なことに自分にはみんなのような変態というアドバンテージがない以上、他で挽回するしかない。
    飲み干す前に依央利によって継ぎ足されるチョコレートを体中に満たしながら、どうすればみんなより飛びぬけて好意を持ってもらえるのか糖分をフルに使ってふみやは考える。

    相手に好意を抱くケース、というものはいくつかある。
    例えば雰囲気や顔が自分と似ている。
    ……俺と天彦は全く似ていない、これは違う。
    例えば趣味が合う。
    ……天彦の趣味?あの部屋を見た限り到底自分と同じとは思えない。
    例えば顔が自分の好きなタイプ。
    ……わからない。少なくともあいつの好きの基準は顔よりセクシーかどうかじゃないか?

    っていうかそもそも天彦の好きなタイプってなんだ。そんなものあるのか?「セクシーな方ならどなたでも」なんて言いそうだ。
    だけど多少なりともアイツにだって好き嫌いはあるはず。前に「嫌いな人とは関わらない」って言ってたし。
    とはいえあまり露骨に聞いて怪しまれるのも、変な捉え方をされてテンション爆上げの天彦に追い回されるのも嫌だ。それに天彦はこういうことには結構感が良い。
    もう少し婉曲に、それとなく好きな傾向みたいなのを把握できると良いんだけど……

    「あれ!その女優さんまた表紙飾ってるんだ。大人っぽくて最近人気ですよね」
    「そうですね。実は僕も彼女が表紙だったのでつい買ってしまいました」
    ふみやが意識をリビングに戻すと、いつの間にみんな席を立ったのかそこには依央利と天彦の二人だけになっていた。

    女優……芸能人……よし、これだ!
    「へー、天彦はそのヒト良いと思うんだ」
    「わっ、ふみやさん?急にどうしたんですか」
    「まぁまぁまぁ。で、どうなの」
    「えーと、そ、そうですね。あの、はい、良いと思いますけど……」
    「へー」
    「……?」
    突然の話の見えない質問に、天彦の回答は完全なクローズドクエスチョンだ。
    「じゃぁ俳優で女はその人だとして、男は誰が良いと思う?」
    「はい?」
    「あぁ別に俳優に絞らなくても良いけど」
    よし、さりげなく聞けた。これで天彦の好きなタイプがわかれば、それを掘り下げ俺と似ているところを探して……。
    ジト目で首をかしげる依央利の姿は見えていないことにしながら、ふみやは内心ガッツポーズをする。
    「男性の俳優、芸能人、ですかね……えーと、えーっと」
    左上に視線をさ迷わせた天彦がウンウンうなる。
    依央利の視線が強まっている気もする。それは訝しさからかそれともチョコレートが減らないことへの不満なのか。
    ようやく天彦が『あぁ』と声をあげ顔を戻す。
    「O泉洋さん、とか」

    「…………え?」
    「え?」
    「ん?」
    「ん?」
    「うん?」
    「んん?」
    「……」
    「な、何か?」
    「別に。あぁそうなんだ」
    「は、はい。そうです、ね」
    「そっか……え?うん、わかった。え?あ、俺ちょっと用事思い出したから」
    「はい?」

    不思議なタイミングで突然会話に入ってきたかと思えば意図のわからない質問をし、その上天彦の回答に納得いかないような素振りをみせ、そうかと思えばそれ以上の追及も無く去って行ったふみやに、依央利と天彦はパチクリと顔を見合わせた。
    「なんだったんでしょうね」
    「さぁ」

    ようやく一歩前進したはずが、まさかの一歩目でふみやは壁にぶち当たっていた。
    えー……マジで?

    O泉洋ってあのO泉洋だろ?いや、他にいるのか知らないけど。
    天彦ってO泉洋みたいな感じのが良いの?
    あまりに予想していなかった返答に驚きすぎてどこがいいのかまで聞けなかったのは痛恨のミスだ。でもさっきの色っぽい女優からのO泉洋はさぁ、思いつかないじゃん。もっと渋めの俳優とかあげられてさー、演技だとか仕草だとか考え方だとかさー、あーそういうところにセクシーさを感じるわけかって納得してからさー……。
    つかこれ、多分これ基準セクシーじゃなくない?
    でも今からもう一度「因みにどこが良いの?」とか深堀しにいったら「え、さっきの話まだ続いてるんですか?」なんて思われそうで恥ずかしすぎる。
    仕方がない。とりあえず天彦のタイプがO泉洋とわかった今、少しでも俺がO泉洋と似てそうな部分を……。

    俺と、O泉洋の、共通点……?


    ◇◆◇


    「大瀬、ちょっといい?」
    「え、わっ、わわ待っ、」
    ガタンッという音と呻き声が聞こえたが、ふみやは構わずドアを開けるとズカズカと大瀬の部屋に踏み込む。
    部屋には首に縄がかかった大瀬と、横向きになった踏み台が転がっていた。
    「取り込み中悪いね」
    全く悪いと思っていない口ぶりで、ふみやは踏み台を引き寄せ腰を下ろす。
    「い、いえ。こちらこそお見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」
    大瀬は首から外した縄を床に置くと、正座をする。
    「それで、こんなクソに何か御用でしょうか」
    「うん、大瀬に是非とも頼みたいことがあるんだ」
    ふみやの言葉に、大瀬の顔がパっと上を向く。
    「じ、自分に、頼み事!?」
    「こんなこと頼れるの大瀬しかいなくてさ。いい?」
    「も、勿論です!こんな自分でよければ何でも言って下さい!」
    「死のうとしてたのに悪いね」
    「いいいいえ、死ぬのはそのあとでもできますから!それでその頼み事ってなんですか」
    「うん、実は……あれ?」
    ふみやはそこで、ふと先ほどまで大瀬の首にかかっていた縄が目に留まった。
    「どうかしましたか?」
    「いや、その縄なんか太くない?」
    「あぁこれですか。これはしめ縄です」
    「しめ縄って、あの正月とかに飾る?」
    「はい。しめ縄で首を吊って死んだら少しは面白みがあるかと思って、自分で編みました。その、おめでたい奴、みたいな……」
    「へー、そうなんだ」

    そういえばブラックホールといい、うんこといい、大瀬って周りを楽しませたいサービス精神があるよな。
    あれ、それってひょっとしてO泉洋もじゃないか?
    俺より大瀬の方がO泉洋に近いってこと?
    え、俺、変態とO泉洋っぽさで大瀬に2つも負けてる?
    「あの、ふみやさん?」
    ふみやの脳内は、大瀬に聞こえたらあわやしめ縄がふみやの首にかかるのではないかという展開になっていたが、それを知らない大瀬は黙りこむふみやに心配そうに声をかけた。
    「大瀬はさ、天彦のこと好き?」
    「好、?」
    「どうなの?」
    ようやく口を開いたかと思えば今度は突飛な質問。
    「あ、あの、何故ここで天彦さんが出てくるのかわかりませんが、その、こんなクソ吉を受け入れてくださっている時点でそれはもう素晴らしい方だと思って、ます」
    「そうじゃなくてさ、恋愛的な意味で」
    「うぇあ!?」
    「手を繋ぎたいとかキスしたいとか」
    展開についていけない大瀬が思わず部屋の角へと飛び退く。
    「て手っ、キッ、天彦さんに?いえそれは全く、全然です、考えたこともありません!」
    「そっか」
    少し身を乗り出していたふみやが肩の力を抜く。
    「あの、ふみやさんは自分に頼みがあったのでは?」
    「うん。でも先に聞いといて良かったよ」
    「はぁ」
    なんだか嫌な予感はするが、早く聞いてしまおうと大瀬は先を促す。
    「大瀬。俺とO泉洋の共通点を探してくれ」
    「るhおうへr¥」
    大瀬の目の前一帯に宇宙が広がる。
    あぁブラックホールってこんな近くにあったんだ。
    「あの、自分は今、何か聞き間違いをしたかもしれません。もう一度お願いします」
    「大瀬。俺とO泉洋の共通点を探してくれ」
    あぁ全く聞き間違えてなかった。
    「じゃ、頼んだよ」
    台から腰を上げるふみやの足に大瀬が縋りつく。
    「待、ままま待ってください!どど、どういうことですか!?」
    「まぁ今のところ俺よりも大瀬の方がO泉洋には近いと思うんだけどさ」
    「ど、え、な、えぇぇぇぇ?」
    自殺用のしめ縄について聞かれたかと思ったら天彦を恋愛対象として好きかと問われ違うと答えたらふみやとO泉洋の共通点を探してほしいと言う。
    既に大瀬はキャパオーバーだ。
    「なななんでそうなるんですか、なにがどうなってそうなるんですか!?」
    「俺も考えるし大瀬も思いついたら教えて、じゃ、そういうことだから」
    「でぇぇぇ!?嘘でしょふみやさん、ちょっと待っ!」
    言いたいことだけ言うと、ふみやは大瀬の部屋から出て行ってしまった。
    残されたのはしめ縄と踏み台と行き場のない手をそのままに佇む大瀬だ。
    嵐のようなふみやがいなくなり、混乱した脳に少し冷静さが戻ってくる。
    すると、大瀬のなかである恐ろしい事実が浮かびあがる。
    「……え、自分、ふみやさんとO泉洋の共通点見つけるまで死ねないってことですか?」

    ◇◆◇

    ふみやが大瀬に無理難題を出して数日。
    ふみや自身もいまだに自分とO泉洋の共通点をみつけられていなかった。
    「○曜どうでしょう」もTEAM N○CSのDVDも見てみたし、Mフェアのおかげで新たな曲も随分知った。机に突っ伏すふみやの側にはなぜか買ってしまったonちゃんストラップが転がっている。

    そもそもさぁ、「結婚したい芸能人」と「恋人にしたい芸能人」と「上司にしたい芸能人」だって違うんだから結局天彦がどういう意味でO泉洋が良いって言ったのか知らないと意味なくない?っていうか芸能人と一般人はまた違くない?
    ふみやの思考はぐるぐるまわり、今更ながらついに根本的なところに戻ってきていた。第三者から言ってしまえば「そらそうよ」の一言なのだが、ここまで気付かなかったのだから恋の勢いとは恐ろしいものである。

    ほんとにあの時、さっさとO泉洋のどこが好きなのか聞いておけば良かった。そして自分は今、19年生きてきて1番意味のない後悔をしている気がする。

    気は進まないが、もうこうなればどうにでもなれとばかりにふみやは天彦にO泉洋の好きポイントを聞くべく重い腰をあげる。
    天彦なら下で依央利にわんこそばならぬわんこコーヒーを受けていたはず。
    のっそりと階段を降りたふみやは、そのまま同じような速度で廊下を歩く。
    リビングに近づくと、天彦と依央利の話し声が聞こえてきた。

    『依央利さん、僕の為にこんなにコーヒーをありがとう。ですがもうほんとに、本当に、本当に大丈夫ですので』
    『遠慮しないで。足りなければ豆も挽くし水も汲んでくるから』
    『あぁっ、またなみなみと……』
    『さぁ天彦さん飲んで。なんなら僕が飲ませてあげるよぉ?ほら、ほらぁ』
    『い、依央利さん落ち着、ア痛っ!』
    ガンッという音がしたのは依央利の圧にのけぞった天彦がテーブルに足でもぶつけたか。
    『あ、雑誌落としましたよ。はいどうぞ』
    『どうも……』
    『その雑誌も表紙買いですか?』
    『え?』
    『O泉洋が表紙だし。天彦さんこの前好きって言ってたでしょ』
    『あぁそういえば』
    『あれ、反応薄いなぁ』
    『あの時は咄嗟に男性芸能人が浮かばず、たまたまあの雑誌の裏表紙に載っていた彼の名前を挙げたんです』
    『あぁ、そうだったんですね』
    『いろんなメディアでお見掛けして、良い方だとは思っていうのは本心ですけどね』
    『ふーん、っていうか天彦さん今ぶつけた所大丈夫ですか?結構な音したけど』
    『あはは、それが脛をぶつけまして。ほらここ』
    『あー痛そー。青紫色になってる……湿布か何か、うわぁっ!ふみやさん?!びっっっくりしたー』
    『どうされたのですか?そんな大きな音をたてて』
    『おーい、ふみやさん?ふみ、え……なんか凄い天彦さんのこと睨んでません?』
    『何故でしょう、僕なにかしましたかね。あの、ふみやさん?どうされましたか。ふみ、痛ぁぁぁぁぁ!ふみやさん、そこ押さないでっ今僕ぶつけたとこ、痛い痛い痛い、色変わってるでしょ!?痛っ、何、力強、いたたたたたっ!』
    『わー!ふみやさんストップストップ!』

    かくしてふみやの思惑は完全に失敗した。こうなってしまってはまた新たな方法を考えなければならない。

    ふみやがそう考えていたその日の夕飯でのことだった。
    ここ数日いつにも増して暗い顔をしており、箸も止まっていた大瀬がもう耐えられないとばかりに椅子から勢いよく立ち上がったのだ。
    そして、
    『ふみやさんすみません!じ、自分にはどうしてもふみやさんとO泉洋の共通点を見つけることが出来ませんでした。ふみやさんがこんなクソを頼って下さったというのに応える事ができず本当に申し訳ないです。あと天彦さん、ふみやさんに天彦さんと手を繋いだりキスをしたいかと聞かれ咄嗟に否定してしまいましたが自分が人様を否定するだなんて烏滸がましいにもほどがありましたすみません。お詫びに今すぐここで死……』
    なんて言ったものだから。

    ふみやが慌てて大瀬を座らせるも時すでに遅く、好奇心しかない目でふみやを問い詰めるテラと猿川の二人をしどろもどろにあしらうふみやの横で、顎に手をあてセクシー推理をしていた天彦が全てを察し『エクスタシー』と叫ぶと、たまのデリカシーの無い一面を存分に発揮して全員が注目するなかで興奮したまま今回のふみやの行動と恋心をすべて言い当て解説するという怒涛の展開。

    そんな繊細な十代の思春期の少年にとって地獄のような展開が繰り広げられ思わず『死なせてください』と、ふみやは大瀬にナイフを借りようと手を伸ばす。

    そのさ中、推理を終えた天彦から続けざまに述べられた交際OKの返事。

    「…………え?」
    ポカンとしたままのふみやを置いて「良かったじゃん」「巻き込むんじゃねぇぞ」「秩序ある交際を」なんてあっという間に話は大団円に。

    「えー……」
    「あの、ふみやさん、自分ほんとに余計なことを。すみません大丈夫ですか?」

    とりあえずあのしめ縄もって来て、と言ったふみやの意図は祝いなのかそれとも。
    踏み台も必要か聞くべきなのか悩むことになる大瀬だった。





    ちなみに余談ではあるが、まわりの祝福モードに口が緩んだふみやの『俺、みんなみたいに変態じゃないからどうしようかって凄く悩んでさ』という発言によってこのあと一波乱起きることになったのだが、それはまた別の話ということで。
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