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    oryza_764

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    oryza_764

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    シリルがNRCにトリップしてくる話。オバブロしそう。

    トリップドリップハットトリック リドルは寮服のヒールをカツカツと鳴らしながら、廊下を闊歩する。明日行われる寮長会議についての資料を学園長へ届け、寮へ帰っている途中だった。耳をすませば運動部の号令が遠くで聞こえ、自分も愛馬のヴォーパルに会いに行こうと歩みを早める。
    「……?」
     しかし、リドルはふと違和感感じて、足を止めた。今まで感じたことのない、気味の悪い気配。気の所為と思い過ごすことの出来ないほどの、である。
     リドルは目を閉じ、その気配の在処を探る。どうやらそれは鏡の間の辺りにあるようだった。鏡の間は今リドルのいる場所から行くには手間のかかる場所にあるのだが、寮長として見過ごせない。
     リドルはおりかかっていた階段を登っていく。
    「……あら」
    「ヴィル先輩」
     その途中で、同じく違和感を感じたらしいヴィル・シェーンハイトと出会った。
    「アンタも気づいたのね?」
    「はい」
     リドルが小さく頷く。それと呼応したかのように、また気味の悪い気配が色濃くなった。それを感じたのか、ヴィルは美しいその顔を不快そうに歪める。
    「ホントになんなのかしら、コレ。学園長も気づいてないわけないでしょうし、それに──」
    「──オーバーブロットの気配に少し似ている、ですよね」
     リドルが言葉を継ぐと、ヴィルは、ふう、とため息を吐いて苦々しく顎を引いた。
     オーバーブロットのものと同じではない。ただ、ものすごく似ている。一瞬、もしや誰かが、と思ってしまうほどには酷似していた。
    「……とりあえず、急ぎましょう。何があるかわかりませんから」
     少々小走りになりながら、階段を登っていく。鏡の間へ近づけば近づくほど、そのおぞましい気配は濃くなっていく。
     二人は鏡の間の重い扉に手をかけて、中へと入った。両者とも杖を取り出して、暗い室内を見回すが、何も異変は見つからない。
    「……何もなさそうね」
    「えぇ、でも油断は出来ません、」
     リドルがキッ、と暗闇を睨んだ──その瞬間だった。
     ガシャン、とけたたましい音と共に、部屋の奥で浮かんでいた棺が開いた。中身の無いはずの棺から、何かが滑り出して、べしゃりという不快な水音が、静まり返った鏡の間に響き渡る。鉄の生臭い臭いが鼻をついた。
    「ヒュ、……ゴホッ」
     中から出てきたのは黒い塊は動いた。生きている人間である。それは血塗れで、息を吸い込んでは気管に詰まるのか、血を吐き出していた。
     あと少しで、この人間が死ぬことは明らかだった。
     死にかけの人間を初めて間近で見た二人は混乱と動揺で固まる。
    「……ッ、」
     そこから、先に動いたのはヴィルだった。ヴィルは彼へ駆け寄って、回復魔法を展開する。
    「リドル! 今すぐ学園長を呼んできてちょうだい!」
     リドルはその声で正気に戻り、扉を開こうと手をかけると、同時に外側から力が働いて扉が開いた。
    「何事ですか!?」
     鏡の間へ入ってきたのは学園長その人であった。学園長は回復魔法をかけているヴィルと血まみれの彼とを見て顔色を変える。
    「私は他の教師に連絡をしてきますから、ローズハートくんはシェーンハイトくんの補佐をするように! 頼みましたよ!」
     そう指示して学園長は再び鏡の間を出ていく。残されたリドルは己を鼓舞し、恐怖に震える手を握りしめてヴィルの回復魔法を補強していく。
     しかし、優秀な生徒である二人の回復魔法をもってしても彼の傷は癒えない。どうやら彼には呪いのようなものが掛けられていて、回復魔法が効きづらいようになっているようだった。しかし、二人がかりの回復魔法を緩めて呪いを解く余裕はない。どちらかの魔法が少しでも揺らげば、彼の命は直ぐに潰えてしまう、そんなギリギリの状態だったからだ。
     彼の血は依然として止まらない。呼吸は弱く、か細くなっていく。
     リドルとヴィルの魔力も残り少なくなっている。必死に歯を食いしばっていないとすぐにでも倒れてしまいそうだ。
     その時、彼の血の気を失った手が持ち上がって、リドルの腕に触れる。もういい、とでも言いたげに弱々しく握ったのを見て、リドルの頭は沸騰したようにあつくなった。
    「ふざけるなッ! なんでキミが、先に諦めるんだ……! キミは生きるんだろう! 違うのか!」
     リドルは、彼の命が手のひらの指の隙間からこぼれ落ちんとしていることが怖かった。どうにかして彼を救いたかった。
    「ボクは許さないよ! 諦めるんじゃない!」
     その叫びがきちんと聞こえたのか、それとも腕を握る力がなくなったのかは分からない。再び彼の手は血溜まりに落ちた。
     二人の魔力が底を尽きてきて、もう駄目かと思ったその時、鏡の間の扉が開く。教師らが来たのである。
    「よし、生きているな。Good boy! 仔犬共、良くやった!」
    「あとは私達がやるから、休んでいなさい!」
     大人たちの声が聞こえ、魔法を解いた二人は倒れ込んだ。息も絶え絶え、正真正銘の限界である。リドルもヴィルも、そこで意識を失った。
     
     ✵
     
     幾千もの屍が、戦場を埋めつくしている。美しかった緑は焼け、鮮やかな赤色の屋根はどれも瓦礫となって崩れ落ちている。人間の腐乱臭が辺りに充満していたが、もう慣れてしまって、無心でそれを見るだけだ。
     青年は、重い鎧を脱ぎ捨てて、剣だけを手にふらふらと歩いていた。
    (サハルも、ノエも、皆死なせてしまった。彼も、無事かは分からない)
     青年は空を見上げる。空だけは、いつだって綺麗なままだった。
    「……あぁ、来たのか」
     そして、青年を覆うほどの大きな影が現れる。大きな翼をもつそれは、人間の敵。青年の敵。
    「お前でもう人間は最後だ、××。そして……お前も死んでもらおう」
     それは美しく、艶やかに微笑んだ。それが手を振りかざすと、青年の周りは燃え盛る炎で包まれる。
     青年は目を閉じ、剣先を天に向けて祈った。絶望して彼の主へ慈悲を乞うたのではない。勝つための祈りだった。
     瞼を開け、覗いた瞳には強い意志が宿っている。
     青年は剣を横に振って炎を薙ぐ。
    「お前は諦めないのか?」
    「……そんなことできない」
     青年は目を伏せ、首を振る。
    「お前の仲間は皆お前のことなど忘れ、最後には自分のことしか考えていなかったな」
    「そんなの俺には関係ないだろう」
     ぐ、と奥歯を噛み締める。
    「なぜ?」
    「……俺は、正義なんかじゃない。でも俺は、部下達を騙した責任がある」
    「はははははは! そうか!」
     それは青年の言葉を聞くと、心底愉快そうに笑った。そして、青年の首を掴んで囁いた。
    「なら俺と戦え、××」
     青年は剣を振りかざす。しかし剣はそれの腕に届くことなく無惨に砕かれた。それが、喜びに満ちた目で青年を見る。そして、判決の言葉を下した。
    「──死んでくれ、悪魔よ」
     
     *
     
     彼が目を覚ましたとリドルへ連絡が入ったのは、あれから一週間後の事だった。
    「──彼が?」
    「えぇ、先程。元気そうで安心しましたよ」
     怪我人が出ただけでも一大事なのに、鏡の間で死人が出るなんて知られたら、たまったものではありませんからね。
     学園長はそんなことを呟いてから、ニコニコと機嫌よくハーツラビュル寮を出ていった。
     良かった、と安堵の声を漏らすリドルに近づく影があった。
    「リドル寮長、それってあの侵入者の事ですよね? 今から行くなら連れてってくださいよ〜」
    「エース……」
     一番に声をかけてきたのはエースである。リドルは思わずため息をつく。
     そう、彼は学園内へ侵入してきた不届き者という名で噂が回ってしまっていた。実際は事故、闇の鏡の不調だったりするらしいが、伝統ある闇の鏡が間違いを起こしたというニュースが出回っては仕方が無いと考えた学園長は事実を隠したのであった。相変わらずの保身にリドルは頭を抱えるしかなかった。目を覚ましたら犯罪者に仕立てあげられていたなんて、それでは彼が不憫でしかたがない。しかし実際、闇の鏡のせいであることも定かではないために、彼が侵入者かもしれないことを完全に否定できないのである。
    「……キミは連れていかないよ。一人で行く」
    「えぇ〜?」
    「ねね、リドルくん、オレもダメ?」
    「ケイト……駄目に決まっているだろう。そもそも、彼は怪我人なんだからそんなに大人数で訪ねる訳にはいかないよ」
    「ちぇ〜」
    「でもさぁ、一人くらいよくない? ほら、トレイ先輩も部活でいないし」
    「そーそー、だから、オレらも連れてってリドルくん!」
    「はぁ……」
     リドルは再びため息をついて、項垂れる。
    「分かった。でも、彼が緊張するだろうから静かにするんだよ」
     
     コンコンコン、と三回ノックをすると、「はいはいどうぞ〜」と少々緊張感のない保健医の返事が返ってくる。リドルがゆっくりとドアを開け、三人は中へ入る。
     そして白いベッドの上に、彼はいた。
     ミルクティーのような髪は風に吹かれて柔らかく揺れ、紫と金のグラデーションがかかった瞳はリドルらを見て、驚いたように見開かれる。
     痛々しかったあの日の姿とは打って変わった様子に、リドルは安堵した。
    「起き上がれるようになったんだね。良かった」
     そう声をかけると、彼は目をゆるく細めた。
    「あぁ、リドル・ローズハートくんかな? あの時は……少し情けないところを見せたけど、君達がいなかったら生きていなかった。ありがとう」
     彼はそう柔らかく微笑んだ。素直に礼を言われ、リドルは少し狼狽える。こんな風に笑いかけられながらありがとうと言われることなど、この学園では滅多にないからだ。
    「俺の名前はシリル・ブローニュ。歳は17だから……ローズハートくんと同じなのかな」
    「あぁ、そうだね。改めてだけど、ボクはリドル・ローズハートだ。リドルでいい」
    「じゃあ、俺もシリルでいいよ」
     シリルとリドルが握手を交わす。その穏やかな交流に、拍子抜けしたような他の二人にリドルは吹き出した。
    「ふふ、君達、何て顔してるんだい。……シリル、彼らはボクの寮生のエースとケイトだ」
     リドルに紹介された二人はぎこちなく笑った。疑っていたシリルが、真っ当な、むしろ優しい人間だったことが気まずいのである。
    「寮生……リドルくんは寮長なんだっけ。すごいね」
     シリルは本当に心から思っている、というふうに笑んだ。この学園には真っ直ぐに人のことを褒めるひとはいないため、リドルは少し頬を赤らめて、それを誤魔化すように咳払いをする。
    「そうだ。完全に傷が治ったら、ぜひ遊びにおいで……そういえば、キミはこれからどうするんだい?」
    「あー、さっき学園長先生にも聞いたんだけど、なんか曖昧なまま帰っちゃったんだよね。でもまぁ、帰る所もないし……交渉してここで働かせてもらうかしないとね」
    「帰る所がない?」
    「俺の国、戦争で負けて国民は皆死んじゃったから」
     なんてことないふうに返された言葉に、リドルは絶句した。彼の様子からして、戦乱から抜け出してきたのか、くらいは予想していたが、まさか国民が全員亡くなるほどの大戦争だとは思っていなかったのである。
    「……でも戦争なんかどこでも起こってないっすよね?」
     エースが訝しげな視線をシリルにやった。リドルが咎めるように睨むと、エースは肩を竦める。
     しかしシリルは少し苦笑いをした。
    「実はね、過去から飛んできちゃったみたいで。嘘みたいな話でしょ」
    「……はぁ?」
     エースの口から、間抜けな声が漏れ出た。リドルも、ぽかんと口を開けたまま固まる。いち早く我に戻ったケイトはシリルに訊ねた。
    「……過去って、どれくらい前?」
    「んー、ざっと三百年前? って学園長さんが言ってたかな」
    「三百年……なら戦争もあるね」
    「……マジ〜?」
     しかし、シリルが過去から来たというのならいろいろ説明がつく。戦争の最中だったと話していたり、彼の持っていた魔法具は全て高度な古代魔法がかけられていたり、服装にここらでは見かけない装飾がされていたりしていたことが。
     リドルはそこまで思って、ふと考えついたことをシリルに訊ねる。
    「ならシリルは、古代魔法が使えるのかい」
     古代魔法──リドルらの使う一般的な魔法とは違い、一昔前の人々が使用していた魔法。それらは全て高度な魔法操作と膨大な魔力が必要なために、妖精族、しかもそのごくひと握りの者しか使っていないというものである。古代魔法なんて使うひとも、使えるひともこの世界にはほとんどいなかった。
    「どうかな……リドルの言ってる古代魔法が、俺の使ってた魔法と同じならいいんだけどね」
    「やってみればいいんじゃね?」
    「エース、病み上がりに魔法を使わせるんじゃないよ」
     リドルはそう言ったが、見てみたいのも事実だった。それを見抜いたのかは分からないが、シリルは少し笑って、「いいよ」と承諾した。
    「えっと、俺のつけてたペンダントってどこ?」
    「あぁ、それなら……」
     リドルは学園長から預かっていたシリルの所持品をポケットから取り出す。
     銀でできたペンダントと、指輪。あの時シリルが身につけていたものだったが、治療のために外されたのである。
     リドルはそれらをシリルに手渡すと、シリルは大事そうに受け取って、指輪をペンダントの所へ通してから、ペンダントトップを手のひらに握った。
    「『光よ、この世界を照らす最も眩い者よ。蝶となり羽ばたき、闇夜を照らせ』」
     シリルがそう唱えると、ふわ、と柔らかい光が辺りを包んだ。それらはやがて蝶へと変わり、光り輝く鱗粉を落としていく。
     その光景の美しさに、三人は息を飲んだ。
    「光魔法……かい?」
    「それは分かんないけど……俺の国では『白の聖魔法』と呼ばれていたものだよ」
     シリルの人差し指に蝶が止まって、また羽ばたいていく。それらは次第に少なくなって、消えてしまうと、部屋の中は元の明るさに戻った。
    「すごいキレー!」
     ケイトが感動したようにそう言った。しかしエースは、ケイトのマジカルペンを指さしながら、怖々とシリルに聞いた。
    「……待って、なんかブロット消えてない? どういうこと?」
    「え!? あ、ホントだ……」
    「……確かにそうだね」
     エースの言葉で二人も自身のマジカルペンを確認する。今日の授業で魔法石に溜まった黒い染みが、綺麗さっぱりなくなっていた。
    「ブロット……?」
     なにそれ、と首を傾げるシリルに、リドルが軽く説明してやる。
     シリルのいた時代にはブロットの研究は進んでいなかったようで、あまりブロットの概念もなかったらしい。
    「うーん……多分、俺が魔法を使ったせいかな。聖魔法は色んな効果が付けられるんだけど、今の蝶は少し回復魔法も付与したから」
    「回復魔法でブロットが消えるとか、そんなのアリ?」
    「……ナシだよね?」
    「……というか、この世界にそんな魔法は存在しないよ」
    「え、そうなんだ」
     じゃあ偶然だね、とシリルが笑う。
    「いや、そんなわけないでしょ!?」
     しかし即座にエースが否定した。なぜなら、魔法はイマジネーションである。想像していないことが魔法になるなんて、そんなことは有り得ない。
    「んー、なら、多分俺が浄化してたものと、ブロットには関係があるのかな。あんまり分かんないけど」
    「浄化、してたもの……?」
    「あー……長くなるけど」
     あまり話したくなさそうなシリルに、ケイトが助け舟を出した。
    「じゃあほら、もう結構時間経っちゃったし、シリルくんも休まなきゃだし? 今日は帰ろっか、リドルくん」
    「……あぁ、そうだね。すまない、無理をさせたかな」
    「大丈夫だよ、全然。俺も楽しかった」
     にこ、とシリルが笑う。その言葉に偽りがないことにリドルは安心して、口角をあげた。
    「じゃあ、またね」

     *
     
    「──というわけですのでよろしくお願いしますね!」
    「は!? ちょ、待っ、」
     バサバサ、と学園長はオンボロ寮を去っていった。監督生は頭を抱える。
     あんのクソ学園長が……!
     経緯はこうだ。
     明日の予習も無事終え、さて寝ようかと監督生が準備をしていたところに、学園長はオンボロ寮を訪ねてきた。面倒ごとは嫌だと言う監督生にもお構い無しに、学園長が告げたのは、明日からこのオンボロ寮に新入生が来るという知らせ。
    「新入生、ですか? オンボロ寮に?」
    「えぇ、少々事情がありまして……」
     監督生は察した。また面倒なことに巻き込まれた、と。
     学園長は細かなことはのらりくらりと躱して、さっさと寮を出ていってしまったため、監督生は何も分からないままだった。
     不安しかない。だって、グリムの面倒を見るだけでも監督生は毎日苦労しているのだ。ましてやそれがもう一人──なんて考えると、監督生の目は死んだ魚のようになってしまう。
    「大変だなぁ、ユウ坊も」
    「もう嫌だよ……」
     監督生はゴーストの一人へもたれ掛かるように倒れ込んだ。だがそれが受け止められることはなく、ゴーストの体をすり抜けて、監督生の体はボロボロのソファに着地する。
    「誰かに抱きしめられてぇ〜〜! 彼女が欲しい〜〜!! バブみを感じたい〜〜!!!!」
    「すまんなぁ、ユウ坊」
    「ゴーストさん達は何も悪くない……悪いのは全部学園長……」
     しかし滔々と呪詛を垂れても仕方がない。もうなってしまったことが覆せないのは今までの経験上知っていた。監督生はふらりと起き上がって、部屋へ向かった。
     せめてぐっすり寝て健康な一日にしよう。
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