無題(3)「ミカ兄はたぶん、一生結婚はしないって。」
ほんのりと酒で頬を染めながら、ずいぶんと軽いノリでとんだ爆弾を落としたトオルは、グラスに残った酒をぐいっ一口で煽った。飲み込み、息をついてこちらを見やる目には、何かを探るようなものがあり、動揺を隠したまま目を反らす。聡い賢弟はこれだけで、これ以上は踏み込めぬと判断してくれたのか、続けてツラツラと話し出した。
「他人のそういう、性的な感情が自分に向くのが気持ち悪いんだって。恋する分には平気らしいけど、そういう雰囲気になると、駄目なんだって。」
トオルが喋るミカエラの告白に、横っ面を金槌でぶん殴られるような感覚になる。酒のお蔭でふわふわとしていた意識が一気に冷め、乾いた喉を潤したくてグラスの酒を飲み干す。先程までうまいと感じていた、末弟のための祝い酒は、喉を焼くだけでなんの味もしなくなった。
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