陰陽師パロアルバスはいい男だ。
出自は間違いなくよく、弁も武も立つ。そしてなにより見目がよい。ゲラートは自分が面食いだという自覚がある。美しく聡明な瞳、服の上からでもわかる鍛え上げられた肢体。受け取った文は繋げると鴨川に橋をかけられるという。
彼が参内すると、女房達が色めきだつのがわかる。顔は見えぬはずなのに、どこからか白粉の匂いがたつのだ。
簾の間から少しでもかの人の姿を拝もうと、女たちはわずかな隙間を押し合っている。大胆なものは、色鮮やかな扇子を美しく長い髪とともに少し覗かせたりもしている。かの色男、在原業平公も存命の折は同じように宮中の女を騒がせたことだろう。
当の本人はそれをひけらかすこともなく、それどころか作り笑いの下で少し迷惑に思っている節もある。そこがまた女心をくすぐるのだと、女官たちが口々に話しているのを、ゲラートは知っている。秘すれば花。本人にはかわいそうだが、火に油なのだ。アルバスが宮中の花たちから目を背ければ背けるだけ、女房達の白粉は厚くなっていく。
1950