enjoy,サマータイム! 暑い、とにかく暑い。
口を開けばそれしか出ない。
「暑すぎる…」
「おい、温度上がるだろ。暑い」
「KKだって結局言ってるじゃん」
口に出せば体感的に暑さが増殖するが制止なんてしている暇はない。電気代がかかるので昼間はエアコンを切って扇風機とうちわでしのぎ、氷をたっぷり入れたはずの麦茶のグラスも溶けてびしゃびしゃになっていた。
「避暑地でも行こうよ」
「車内も暑いから無理だろ」
「それもそうか」
暑さで頭も回らなくなり、ぐでっとソファーにへたりこむ。暑さを避けようと出かける気も起きずダラダラとスマートフォンの画面をいじる。こうやって今年の夏も過ぎ去ってしまうのか、と心残りは僅かに漂う。
『今日は最高気温35度を超える地域が多数…』
ニュースキャスターが連日伝える天気予報と高温情報。ちらりと視線を移すと重い溜息の後天を仰ぐ。何か楽しいことでも起きたら。浅はかな期待を持ち、汗が垂れる額を拭う。
ピロリン、ピロリン。
明るい通知音が突如鳴り響く。珍しいのは暁人のではなくKKのスマートフォン。画面を静かに操作すると通話アプリのスピーカーをオンにし膝の上に置く。
「もしもし」
『KK、いきなりすまない』
「いや大丈夫だ。どうしたんだ?」
いつものトーンで淡々と話す電話口の相手。仕事の話なのか調査報告書のことなのなうっすらと聞き耳を立て、暁人は自身のスマートフォンに齧りつく。
『…で、こうなんだが二人共どうだい?』
話していたはずのKKの言葉が詰まり、固まった。ショックなことでも言われたのかちらりと彼の方へ目をやると、ニヤニヤした顔でスマートフォンをこちらへ向けてくる。
「え、何?」
『伊月君か。我々の話を隣で聞いていたかな?』
「いえ、全く…」
ひとつずつかみ砕くように電話の向こうのエドは説明を始める。
知り合いが別荘を持っていて宿泊やアクティビティ、近くの海沿いでバーベキューも出来る。数名で行くのは楽しくないので皆でどうか?と二人にも誘ってきたという流れ。アジトのメンバー全員と麻里にも声をかけており、残りは二人のみになっていた。
『宿泊先は豪華で冷房や家具家電も完備。海で泳いでもいいし山で遊んでもいい。私は籠もっていたかったのだがどうしても皆で行く、と押しきられてしまってね…。君達はどうだい?』
「海に山、皆でバーベキュー!?行きますっ!!」
ふたつ返事で即決定。諸々の日程や場所、準備するものを分担しようと打ち合わせをするためにアジトへ誘われ、ウキウキな気分で電話を終える。
「何食べようかなー。肉と焼きそばとエビもいいな!」
「オレはビールだな。日焼けするから涼しいところで飲みたいぜ」
じわりと肌をなぞる熱波もあまり気にならないほど、既に心は浮き足立つ二人。先程まで暑いと文句を言っていたのはどこの誰だったか。軽く準備を済ませるとアパートを出てアジトへと向かうことにした。
時間はあっという間に過ぎ、夏の遠足の当日を迎えた。酒とお菓子の担当になりクーラーボックスにビールや酒の缶を氷と共に大量に詰め込み、袋いっぱいのお菓子を車の後ろ側に荷詰めをしていく。
お揃いの麦わら帽子にサンダルと短パン。暁人は柄物のアロハでKKは白いTシャツと、どちらも気合が入る。
「よし、そろそろ行くか」
アジトで待つ凛子をピックアップするため、予定より少し早めにアパートを出る。他の面子は食材や必要な物を揃えて別々で別荘へ行くらしく、ナビ役に凛子がかって出たのだ。
「忘れ物無いよな?」
「うん、多分大丈夫」
何か足りないものは行きながら買えばいい。必要な物を詰め終わると暁人を乗車席に乗せKKは運転席の扉を開けた。安全運転に、そう話すとアジトへと車を走らせる。
アパートからアジトまで数分で着く近い距離。車を下に止めスマートフォンを開くと、通知が来る前に本人が車のドアを叩いた。
「失礼するわ」
「凛子さん、おはようございます!」
後ろのドアを開くといつもの席に座り暁人にさらりと挨拶を済ませる。
「連絡する前に来るなんて、お前テレパシーでも使えるのか?」
本当にそう思う位素早い行動。自身のスマートフォンを操作しながら目線は上げずに淡々と答える。
「あなたの車のエンジン音は低音から始まって切れる前に一瞬空気が抜けるような高音に切り替わる。それで判断したのよ」
探偵や刑事並の観察力に察知力。一番敵に回してはいけない相手だと暁人とKKはごくりと静かに唾を飲み込む。
「相変わらず凄いな…。じゃあ集まった事だし出発するか」
「そうだね。あ、凛子さん何か飲みます?」
「そうね。ねぇKK、私達先にビール飲んでいいかしら?」
運転する者は我慢しないといけないが乗車する他の者は飲める素敵な時間。別荘までは少し距離がある為ゆっくり過ごして欲しいとKKは二人に許可することにした。
「はい、伊月君」
「ありがとうございます。じゃあお先に」
乾杯!!
プシュっと喉が鳴りそうな音が車内に鳴り渡り、カチンとビール缶が高らかにぶつけられる。
「ぷはーっ!!美味い!」
エアコンが効き始めた車内で飲むビールは格別に美味しい。袋に詰めた中からスルメと柿の種を取り出すと簡易的なテーブルの上に広げる。
「これどうぞ」
「いいわね、頂こうかしら」
「おいおい、オレのを残しててくれよ」
快適な運転をしている最中、楽しく会話をしながら酒を楽しむ二人をサイドミラー越しに眺めながら愚痴を零す。まるで青春のような家族旅行のような微笑ましい光景にKKは胸を熱くするような心地を覚えた。
高速道路に乗り谷を越え、辺りは木が生い茂る景色に変わる。途中パーキングエリアでトイレと煙草休憩を挟み車は二人を乗せて目的地へ。そろそろ着きそうというので窓を少し開けると、潮の香りが僅かに鼻をくすぐる。
海が、もうすぐそこに。
バタン。
「よし、着いたぞ」
遠くに海が見える林の間に立派なログハウス風の建物にようやく到着。ドアを開け後ろの座面から荷物を取り出すとその音に反応したのか建物の中からパタパタと複数の足音が走ってくる。
「KKお疲れー」
「お兄ちゃんと凛子さんもお疲れ様。荷物中に入れるね」
先に到着していた女子二人が暁人達と荷物を建物へと運んでいく。大きな窓を構えたリビングルーム。一歩中へ入ると冷えた風がひんやりと肌を包む。長いテーブルにお菓子を、キッチンにある冷蔵庫に食材や酒を入れていく。
「あ、みんな来た!」
ふと窓の外に目をやると煙がもうもうと立ち上がるのが見えた。トングを手に持ちブンブンとこちらに手を振る大男と、額から汗を流しながらせっせと炭を追加していく眼鏡の男。既に火の用意は出来ているらしく、後は肉や野菜など好きな食材をどんどん焼いていくだけ。
「肉これでいいかしら?」
ワイワイと各々で準備をし、手には好きな酒やジュースの缶を。ここまで長距離の運転をしてきたKKはようやく酒が開放されて勢いよくプルタブに指をかけ開けていく。
「じゃあまずは」
「あぁ」
「楽しい夏に」
乾杯!!!
カチン。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。
息もせず飲み干し、気がつけば少ししか残っていない。
「ぷはぁ〜っ!冷えててウメェ!!」
「KKおじさんくさいよ」
「暁人君、残念だけど彼はすでにおじさんよ」
フォローしているのかしていないのか半笑いを浮かべながら凛子が茶化す。特に気にしていないようにほいほいと適当に返事をすると、缶の中身を全て飲み干しトングを掴む。
「よし、肉焼くか!若者は肉食いたいだろ?」
「食べる―!」
「僕はカルビ!」
肉を含めた食材を目にしてキラキラと笑顔が輝き、気合を入れたようにKKは肉を焼く担当に打って出る。別荘のベンチで涼む男達は瓶ビールを飲みながら微笑ましくその光景を眺めていた。
カルビにロース、ハラミ、ソーセージを2種類。片方の網には輪切りの玉ねぎとピーマン、キャベツなどの野菜が山盛り。味変をするために器にネギ塩タレと焼き肉の濃いタレを注ぐ。外で食べるせいか普通の肉や野菜が数倍も美味しく感じる不思議。食べたら足して空きがないように。若者達の食べる手が全く止まらず、それを見ながらどんどんKKが焼き上げていく。庭にもう一つテーブルを広げると暁人達は山盛りの肉と野菜を皿に盛り、真ん中に囲んで食べることにした。
「はい、ビール」
鉄板の焦げを擦る中、凛子が隣から彼に新しいビールを渡す。
「ありがとな」
「あなたもちゃんと食べてる?悪酔いするわよ?」
「大丈夫、焦げた端っことか食ってる」
肉の脂が重くて胸焼けが残ると大きな声では言えず、まだ飲めるビールをごくりと喉に流し込む。キンキンに冷えた温度はいつでも喉を潤してくれてホッと落ち着くのだ。
「なんかさ、嬉しいんだよ…」
ポツリと零れた言葉。
「オレはちゃんとした父親になれなかった。でも今、あいつらは笑って楽しんでくれてオレが焼いた肉を美味そうに食ってる。ようやく、父になれたのかなぁって。本当の子供ではないんだけどな、あいつらは…」
心から望んだ思い。違う家族や仲間の形が今完成したような感覚に胸が締め付けられる。隣で静かに耳を傾ける凛子は答えるようにビールを差し出す。
「それもいいと思う。でも元からあなたは立派な父親だった。あまり自分を責めすぎないでね」
「…ありがとう」
カツッ。
冷たい温度で缶が優しく重なる。優しい凛子の気持ち。暁人には秘密の会話を詰め込みビールと共に流し込んだ。
「KK!肉お代わり!」
「焼きそば食べたいなぁ~」
「次は焼きそば作るか、お前達手伝ってくれ!」
パッと笑顔に変え、暁人や麻里達に手を大きく振って答える。その後ろ姿は頼もしい"父親"そのものだった。
バーベキューを終え片付けを済ませると、上の階へ上がって準備をする。海に行って遊ぶらしい。
「KKも海行こうよ」
「凛子は?」
エアコンの冷気の一番当たる畳の間でごろんと大の字になる二人をゆするも、返事をせず目を閉じたまま。眠ってはいないが少し元気が無い。
「お酒を飲んでるから二人を泳がせたら危ないよ」
リビングでポテトチップスを頬張るデイルがひょっこり顔を出し代わりに答える。肉を焼きながらビールやチューハイをだいぶ飲み、出来上がる手前で日焼けや暑さでダウン寸前。冷える室内でゴロゴロとしているのが最高のクールダウンになっていた。
「ボクが着いていくよ。エドも行くよね?」
「…ん?」
珍しくボイスレコーダー無しのエドの肉声。一瞬の間のあと頭にはてなマークを浮かべる。
「二人は寝かせておいて皆で海で遊ぼう。ボクもジャパンの海は気になるからさ」
「一人で三人位見れるだろう。何で私まで…」
眉間にシワを寄せノートパソコンに目をやると、頭上からいくつかの視線がぐさりと刺さるのを感じ再度顔を上げた。
じいっと見つめる女子と男子。ウルウルという効果音が正しいのか無言の訴えがしばし続く。
「ハァ…分かった、行くよ」
「本当ですか!!」
「ヤッター!エドも行くってー!」
これはエドの根気負け。軽く荷物をまとめると部屋のドアを閉める。ちらりと後ろを振り返ると、すやすやと心地よい寝息を立てる二人の穏やかな顔。意を決し、ギラギラと照り付ける太陽の中、海へと向かい歩き出した。
「ボールそっち行ったよ!」
「おりゃあっ!!」
ビーチバレーをほのぼのと楽しんでいた数分前だった。
何故か熱が入り、暁人の強いスパイクが砂浜に突き刺さる。
「まだまだっ!」
取っては返し、また打つ激しいラリーの応酬。
「どわっ!!」
「あーーー!落ちたっ!!」
割とムキになったのは大人組のほうで、普段画面に齧りつきっぱなしのエドも今日ばかりは張り切ってコート端まで追いかける。エドがトスしたボールをデイルの破壊的なスパイクで相手の陣地に追い込む。このコンビネーションは流石に崩せず、暁人達は砂浜にバタバタっと倒れ込んだ。
「ヤバい楽しいー!」
「久し振りにビーチバレーやったかも」
満足したように笑い合う。暑い気温も熱が入り楽しさに変わるのが夏の面白いところ。
「明日は筋肉痛だね」
「大丈夫。その対策で湿布を沢山用意してある」
「nice!」
座り込みながらサムズアップで答える。日焼けして歯だけ白いデイルの素敵な笑顔が輝いていた。
「かき氷食べようよ」
「買ってくるからエド達待ってて」
休憩を終えると暁人は麻里達を連れて海の家を覗きに行くことにした。
かき氷はイチゴとメロン、ブルーハワイに宇治金時。珍しい味でぶどうとキウイ、パイナップルもある。
「こんなにあると迷うね」
メニュー表を前にし腕を組みながらしっかり悩む。二人の姿を見て絵梨佳はふふっと笑いを堪えきれない。
「えりりんどうしたの?」
「んー、二人は本当に兄妹なんだなぁって」
顔を見合わせ首を傾げる。
「だって腕の組み方とか眉をしかめた顔が一緒なんだもん。シンクロしてるみたいで兄妹にしか出来ないなぁって微笑ましくなっちゃった」
「兄妹…か」
面と向かって言われると恥ずかしい。思春期ということもあり一時期は隣を歩くのも話すのも嫌がったのを暁人はそっと思い出す。あの一夜を超えてこうやって元通りになって一緒に暮らすようになってまた戻ってきた家族や兄妹の絆が実は強くなっていたことが第三者の視点でようやく分かったかもしれない。
「でもさ、」
麻里はむぎゅっと絵梨佳の腕にしがみつき、頬を寄せる。
「えりりんもいるし凛子さんやKKさんも。皆で家族って感じで私は嬉しいな」
「まりりん…」
絵梨佳も家族に対して複雑な心境を抱えた一人。KKや暁人が過ごした家族の形とはひとつ離れた愛情とは違う何かに侵食された。でもこうやって家族と言ってくれる友が出来て弟子が出来て、これ以上に嬉しいことはない。全てが救われた瞬間。
「うん、ありがと!私も嬉しい!」
沈み気味な表情がパッと笑顔に変わる。
「二人共良かったね〜うんうん」
「お兄ちゃんキモいんですけど」
冷たく鋭いツッコミが暁人に突き刺さる。ワイワイキャッキャとはしゃぎながら5人分のかき氷を注文するとエド達の元へ戻っていく。
「おまたせー」
「ありがとう」
「うわぁ!snow mountainだね!」
それぞれ違う味にしてかき氷を頬張る。べぇーっと舌を出して見せあったり、かきこみすぎてこめかみがキーンと痛くなったり、沢山の楽しみ方を皆で楽しむ。少しだけ涼を感じることが出来て満足したようにかき氷を完食すると片付けを済ませKKと凛子が残る別荘へ帰ることにした。
「寝てた」
「私も寝てたわ。おはよ」
気がつけば陽が傾き始めた頃。昼寝から目覚めた二人は新しいビールを開けて飲みながらキッチンでいくつか料理を作り、海で遊ぶ若者達と保護者の帰りを待っていた。
「ただいまー!」
「いい匂い!お腹空いたなぁ〜」
「おかえり。少し先に温泉あるぞ。入ってこいよ」
宿泊施設以外にも大浴場やテニスコート、室内には卓球台や宴会場も完備されている。人が少ないのが幸いでシーズン中であれば人混みでごった返しそうな雰囲気。着替えを準備するとKKが案内で指を差す方向にある大浴場へと歩いて行った。
女子二人は女湯、暁人含め男子は男湯へ。シャワーを浴びてタオルを肩にかけると大きな露天風呂へ足を浸ける。熱すぎずちょうどいい温度の温泉にゆっくりと腰を下ろせば自然とうわぁーと声が漏れてしまう。
「気持ちイイネ温泉」
「効能は皮膚疾患と疲労回復、保湿効果…」
口に出てくる内容は個性的で聞いていて飽きることはない。足先からじんわりと温まる心地に目がとろりと潤んでくる。外は森の向こうに陽が沈む空と風。昼間は暑くても夕方や夜が近づくと僅かながら涼しくなるのが嬉しい。
「気持ちよくて眠くなりそうですね」
「伊月君、寝たら心臓が止まってしまうから危ないよ」
それはそのはず。風呂の中で眠ってしまっては危ないので常に喋っていないといけない。日常のことや最近食べたご飯の内容、学校での出来事。中々話すことのない二人との会話なので割と盛り上がり、少しだけのぼせてしまったほど。
「そろそろあがろうか」
バシャリ。
勿論前は隠していない裸のままの姿。ちらりと見えたエドのソレはまぁ立派なもので、まだ大きい方だと思っていた暁人の心が一瞬へこみそうになる。でもまだまだ成長期と心に言い聞かせながら大浴場から脱衣所へと向かう。
「夜ご飯はなんだろうね?」
髪の毛をガシガシと乾かしながらデイルは暁人の横から顔を覗かせる。背が高く恰幅のよい姿が熊のようで頼もしい。下着を取って履こうと足を上げた時、また違うデイルのソレと目が合った。
——凶器、いや、暴れ馬。
言葉が出ない。打ち砕かれたプライド。まさかの大物に固まっているのをエドに肩を叩かれて目が覚めた。
「湯冷めするから着替えよう。あと伊月君」
「…なんですか」
しょぼっと項垂れながら着替えを進める暁人の背中をポンっと叩くとエドはそっと呟く。
「君もかなり立派なモノを持っている。自信を持ちなさい」
妙に力強いお言葉。少しだけ気持ちが晴れたような気になり、僅かに笑顔を浮かべコクリと頷く。
男同志、生まれた絆。固くガシッと握手をそれぞれと交わすと大浴場を後にし皆の所へ戻る。
夕食は昼間のバーベキューの残りの肉を炒めたものとマッシュルームと海老のアヒージョ、シーザーサラダの洋食メニューをいくつか。イカとキムチを和えたものや、氷水で冷やしたキュウリとピーマンを一口大に切って生姜肉味噌に付けて食べる。色とりどりのおつまみやおかずがテーブルに並び、皆好きなものを取って食べていく。
酒はビールやハイボール、ワインも何本か冷やして長い夜に備える。
「美味しい〜!」
「これ好きかも」
「肉の味付けが最高だ!」
ワイワイと話しながら宴はどんどん進み、先日まで暑い暑いと文句を言っていたのが嘘のよう。青春のような夏も悪くない。皆がそう感じていた。
「ふぃ〜食った食った」
ポンポンと腹を擦って爪楊枝を口の端に咥える。まだ残るお菓子や酒を手にとると、暁人は袋を持って庭へと出ていく。
バーベキューの網の横にある蛇口をひねりバケツに水を貯めるとどすんと横へ置いた。
「皆で花火やろうよ」
袋から出したのは花火のパーティーパック。火花が飛び出す手持ち花火や地面に置いて火を付ける簡易的な打ち上げ花火。ぽとりと落ちるのが風情漂う線香花火など種類が様々。好きな花火を持つとロウソクを焚いた火元から火を移して着火させた。
シュワーっと放たれる火花に皆の顔が明るく浮かび上がる。最初は暁人達を見ているだけだったKKやエドも若者達に手を引かれ花火に火を灯す。
「うわーーっ!」
「KK危ないっ!逃げろー!」
ネズミ花火がぐるぐると地面を這いながら飛び散る姿を悲鳴を上げながら逃げ回る。両手に持った花火をぐるぐると回し、シャッタ―スピードを落としたカメラで撮影をしたりムービーを撮る。いくつになっても花火は楽しい。若者に混じって大人達もはしゃいで花火を楽しんだ。
「明日はKKも凛子さんも一緒に海行こうよ」
「海か、久し振りに泳いでみるか」
「私の素晴らしい泳ぎを見せてあげるよ」
フフンと鼻を鳴らして自慢気に腰に手を当てる。こちらはこちらで似ている二人。
ひと夏の思い出。まだまだ終わらず色褪せず、深く記憶に刻まれることだろう。
頭上の月や星が、暖かく輝き皆を照らしていた。
まだ夏は終わらない!
終