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    panda_otete

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    盲目夫婦シリーズ小話、バニーボーイ先生

    バニーボーイな先生が可愛いけど!ある日、タルタリヤが帰宅するとなんとも言えない複雑そうな表情をした鍾離がいた。
    何かあったの?と優しく尋ねると、鍾離はソファを促して今日あったことを打ち明けた。

    「……娼館で働くことになった?」
    「そういう契約で、」
    「契約って言えばなんでもありか璃月!」

    噛み付くように叫んだ。
    何だ、娼館って。いや意味は分かる。どこの国にもそういう文化はあるものだ。
    だが、そこで既婚者かつ男性かつ身持ちの硬い鍾離が働く意味が分からない。

    「やだよ!ヤダヤダヤダーッ!!!先生の身体を他の男が見るなんて許さない!女でも許さない!何がどうしてそうなるの!?」
    「順を追って説明するから落ち着いてくれ」
    「お嫁さんの貞操の危機に落ち着ける夫がいるか!」
    「娼館と言っても給仕だぞ」

    曰く。
    採掘業の一角を担う大富豪がおり、とある採掘現場で不運な事故が起きた。
    死者数名、全員の葬儀を往生堂に依頼したい。
    労働中の事故による死亡なので費用は全て大富豪持ち、可能な限り豪華で高級な式にしてほしい。

    ただし、

    「契約の条件として、俺が三日間その富豪が経営している娼館に給仕として務めること」
    「話繋がってるかなぁ!?」
    「前々から目をつけられていたようでな。なんでも俺には他人にしこたま貢がせる才能があるとか」
    「ひ、否定ができない……俺が一番否定できないし実際そうなんだよな……」

    鍾離の持つオーラは独特だ。その素性を知って納得した覚えがある。
    崇拝しなければならないような、神聖で気高いような、触れてはいけないような。
    もちろんよく観察しなければ分からないほど隠しているが、凡人の身でも無意識に感じとっている。

    だから大抵の場所でツケ払いが許されるし、時には少額だからと免除されることすらある。
    タルタリヤが目を離すとすぐオマケをもらったり奢られたりしてしまうため、油断ならないのだ。
    その富豪の目の付け所に賞賛をくれてやりたくなってしまう。

    「だが、給仕と言っても客からの指名をうけることがあるらしい。そこで公子殿に頼みがある」
    「俺が開店と同時に先生を指名する」
    「話が早くて助かる」

    バチーン!と指を鳴らした。鍾離は一人だけなのだから、タルタリヤがモラの力で独占してしまえばいい。
    タルタリヤは合法的に鍾離とごっこ遊びができるし一石二鳥だ。

    「堂主に押し切られてしまったが、俺も本意ではない。伴侶以外に肌を見せるなど言語道断だ」
    「かなり大口の契約だもんね。まあ、ビジネスとしては理解できるよ」
    「いくらかのマージンと給料はもらえるだろうが、かなりのモラを使わせてしまうだろう。すまない……」
    「いいよ、仕方ないよね。俺だけしか見ないなら我慢するよ。モラは気にしないで」

    独占できるとあらば、タルタリヤはノリノリのウッキウキだった。
    そして何より嫁に合法的に湯水の如く貢げるのだ。美味しいものを食べさせ、高級な酒を奢り、侍らせることができる。極楽浄土とはこのことだ。

    「その代わりになるかは分からないが、当日は精一杯の奉仕をさせてもらおう」
    「そういうところだよ才能持ち!」

    鍾離の口から出る〝奉仕〟のワードはとんでもない破壊力を持っていた。



    「ご指名ありがとう。担当させていただく鍾離だ」
    「あ゚─────ッ!!??」

    鍾離がいた。
    それは当然なのだが、問題なのは格好だ。
    ブラウス、カマーベスト、蝶ネクタイ、スラックスまでは普通のボーイだろう。だが、頭の上にはうさぎの耳がついたカチューシャが王冠のように鎮座している。

    「それはダメだよせんせぇっ!」
    「露出は少ないと思うが」
    「サイズあってなくてぴっちりしてるじゃん!あとうさぎ耳はダメだよ可愛いよ可愛いが過ぎるよ!」
    「なら外すか……」
    「外さないでぇっ!」
    「どちらなんだ?」

    タルタリヤが育てた胸と尻は男性用の衣服に対してややボリュームがオーバーしていたらしい。
    隙間がなくパツパツになったそれらは、着込んでいるからこそ魅力を増している。
    その布一枚の下はどうなっているのだろうか、と。

    「し、しっぽまである……っていうか下着は!?下着履いてるよね!?」

    男性にしては大きい尻にスラックスが張りついている。そして、その丸いラインにはパンツのシワが浮き出ていないのだ。
    動く度に揺れるふわふわの尻尾に視線が誘導されやすく、そのことに気づいてしまった。

    「ああ。紐のようなもので少々心もとないが」
    「紐パン!?男の夢の権化かよ!」

    まさかの紐パンだった。用意したのであろうオーナーの富豪に拍手を送りたいような拳を見舞いたいような気持ちになった。
    気を抜くと意識が宇宙まで飛びそうになるタルタリヤの横に、ぴたりと寄り添った鍾離は伏せ目がちに見つめて言った。

    「さて、ご注文は?」
    「一番高い酒をありったけ持ってきて」

    「ふふふ、公子殿、ここはわりかし面白い場所なんだ。知らない文化や知識に触れることはとても楽しい。こんな機会でもないと得られない経験だ」

    鍾離はニヤリと含みのある笑いを浮かべ、タルタリヤにしなだりかかった。
    そして指先でタルタリヤの手の甲をゆっくりとなぞり、顔を寄せる。

    「例えば、こう……男を誘う時の仕草を習ったぞ。どうだ?」

    タルタリヤはぴしりと固まった。
    鍾離の間近にある顔を凝視し、数秒後にこう言い放つ。

    「違う」
    「ん?」
    「違う。全然分かってない。先生は可愛くないところが可愛いんだよ。男らしいそのままの先生だから可愛いの。男に媚び売る先生とか解釈違いです!」
    「……公子殿なら喜んでくれるかと思ったのだが、失敗だったか」
    「可愛いから全部許したもっとして」

    面倒くさいことを言い出したタルタリヤだったが、拗ねた鍾離の前ではなすすべもなく完敗した。
    それから、男を誘う仕草とやらを習った鍾離はそれを披露してくれた。

    だが、根本が武芸を極めた四角四面な魔神であるため顎の下に当てた拳は今にも打ち出せそうな握り方だったし、手を組んでしなを作っても何かの武術の構えのようになっていた。
    タルタリヤは諸手を挙げて「そう!そういうやつ!!」「それでこそ先生!」「強そう!可愛い!」と大はしゃぎだった。

    かなり高級な娼館であるため防音は万全、注文した品は部屋の小窓から差し入れられる。
    タルタリヤと鍾離は美食と美酒を味わい、夜は深けていった。

    帰り道、いつもの格好に戻った鍾離と肩を組んでタルタリヤは帰路に着く。
    酔ってはいるが泥酔ほどではなく、足取りはしっかりしてあるあたり腐っても執行官だ。

    「すごい楽しかったぁ〜!明日も仕事すぐ終わらせて駆けつけるからねっ!待っててね!他の指名受けちゃダメだからねっ!」
    「楽しかったのは何よりだが、飲み過ぎだ。明日からはもっと薄い水割りにするからな」
    「ん〜?せんせぇが作ってくれるならなんでもいいっ!」

    この手の夜遊びは下っ端時代に上官に連れていかれた時や、昇進してから部下の慰労に奢りで付き合ったくらいだ。
    鍾離も未知の文化を安全に楽しめているようで機嫌がいい。
    ハマる奴の気持ちも分かるなぁ、なんてタルタリヤが呟けば鍾離に「浮気は契約違反だぞ」と釘を刺される。

    「鍾離先生以外に貢ぐつもりないから大丈夫!」
    「そんなに気に入ったのなら、たまになら家でそれらしく振舞ってやってもいい」
    「本当!?」

    使用した衣装は貸与ではなく支給品なのだという。
    つまり自宅でもバニーボーイ鍾離を堪能できるというわけだ。

    「明日はモンドデーだとかでモンド風メイド服の予定だ」
    「最高かよ」

    翌日、モラが詰まった袋をサンタのように担いだタルタリヤが娼館にやってきたことは言うまでもない。
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