下着買いに行くよしゃ漫(百合)導入「…折り入って相談があるんだが」
「えっ!?何?」
夜のオベリスク・ブルー 女子寮、in万丈目の自室。
門限までという約束で入り浸っている十代に、万丈目は内緒話をするかのようにそっと話を持ち掛けた。
万丈目が十代に相談なんて、珍しいこともあるものだ。そんなに大事なのかと、十代はくつろいでいたソファの上で居住まいを正した。
「最近…胸が痛くて…」
「ビョ、ビョーキ!!!???」
正座をしたその数秒後にはソファから転げ落ちた。
胸が痛い…なんて尋常ではない。胸には人体の中で最も大切と言っても過言ではない臓器、心臓がある。
フセイミャク、シンキンコーソク、…癌!?なんて笑い事ではないありとあらゆる病気の名前が十代の頭の中で翻った。
「あ、あゆ、鮎川先生呼ぶか!!??」
「落ち着いてくれ十代」
ばたばたと慌てながら各部屋に設置されている内線へと駆け寄った十代を、万丈目は冷静に言葉で制した。
「今は痛くないんだ」
「夜になったら症状が落ち着くってこと…?」
「…そう、じゃなくて…」
もはや十代は半べそになりながら万丈目の主張を聞く。
しかし青ざめたままの十代とは裏腹に、万丈目の頬はなぜか薄桃色に染まっていった。
「…し、下着を脱ぐと、痛くなくなるんだ」
「…下着…?」
夜のオベリスク・ブルー 女子寮、in万丈目の自室。
夜。
先ほど、部屋に備え付けのシャワールームを交代に使ったところだった。
なので今、万丈目はゆったりとしたワンピース型のルームウェアに着替えている。
下着を脱ぐと、胸が痛くなくなる。
十代はゆっくりと頭のなかで話を反芻した。
下着を脱ぐと。つまり今は脱いでいる。
何を?
…下着を。
「ノッ、ノーブ…!?」
「声に出さなくていい!」
だん、とテーブルを手のひらで叩く万丈目の、ただでさえちょっと目を引く胸元が、やわらかくたゆんと揺れた、ような気がした。
しかし病気じゃない可能性が高くなって十代は少し安心してきた。
と、なると。胸痛の原因は結構絞られてくる。
「…サイズあってないんじゃないの?」
「サイズ…?」
「今持ってるやつ、いつから着てるの?」
いつから…?
万丈目はふむ、と顎に手をあて中空に視線を漂わせた。
「…中学生くらいからか?」
「ちゅ!?」
「お、おかしかったか?」
「……1年くらいで変えない?」
「えっ」
今度は万丈目の顔がさっと青くなってしまった。
「…した、は、買い替えるけど…上はそんなに汚れるイメージがなくて……そういうこと知らなくて…」
十代はあぁ、と納得がいった。
万丈目の家族について本人から全く聞いたことがないが、風のうわさで兄二人がいることは知っていた。両親の話など存在すら知らない。となると、下着の話とかをするような同性の相手が身内にいなかったのかもしれない。周りに男性の家族しかいなかったら、自分から下着が欲しいとも言い出しにくかっただろう。
十代の母親は仕事で忙しくしていたが、放任主義というよりは過干渉気味であった。それが少し鬱陶しくてデュエルアカデミアに来たところもあるのだが。とはいえおかげさまで成長期だからこそ年に1回はちゃんとサイズを測って下着を買い替えなさいなんて知識を授けて頂けたのだから、そこには感謝である。
「ほら、洗ってたらやっぱ傷んでくるし、何より身体がでかくなるのにサイズ変えなきゃ合わなくなるだろ?それで変に締め付けられてたんだと思う」
特に万丈目は中学生から急に身長伸びたもんな!ということはデュエル雑誌でアホみたいに万丈目を見ていた十代だから気付いていたが、ストーカー過ぎるので言わないでおいた。
「善は急げだし。次の休みで新しいの買いに行ったら?」
本当は付いていきたいけど、という邪な気持ちはおくびにも出さずに、スマートかつ(紳士ではなく)淑女的な態度で十代は提案した。
付き合っているとはいえ、かなりプライベートな領域の話だ。あんまりがっついて気色悪がられたら、間違いなくカードで首を掻ききってしまうだろう。
「なるほど、そうしよう。…ところで、だが…」
ふんす、とミッションをやり切った顔でいる十代に、万丈目はおずおずと尋ねたのだった。
「…どこに行けばいいのか、よく、わからなくて…ついてきてくれたら…助かるんだが…」
「…え?」
「…もし良ければだが…その…。……1着は見本で選んでくれたら助かる…」
「…………」
「…だめ、だろうか?」
「いや!!!あの!!!その!!!喜んで!!!」
「よかった」
ほっとした表情になった万丈目に、十代はしどろもどろになりながらもなんとか了承を返したのだった。