夢でも会いたい思考する。それは心臓を動かし、呼吸をすることと同じ。これから来るであろう危機、乗り越えるべき問題、それらをリストアップしていき、手を貸すべき事項に絞っていく。私が干渉するべき事柄とすべきではない問題。あくまでサーヴァントの内の一基。出来ることは限られている。
「行き詰まりかい? 教授」
眼鏡を外し、眉間に手を当てる。いよいよ、極まってきたに違いない。
「活きのいい幻聴だネ」
こんなにハッキリと滝壺へと消えた人間が見えてたまるか、と睨めば、あのいつもの胡散臭い笑みを浮かべている。小憎たらしい笑みを浮かべた宿敵はニコニコと目の前の椅子へと腰掛ける。
「対策は必要だが、彼らは必ず勝利するさ。私はそう信じてる」
「お前にしては合理的ではない」
「そうかな」
「そうだ」
客観的に見れば、幻と話しているヤバい老人だ。私までヤクの常習犯だと思われそう。
「貴様がそんな腑抜けだから私は……」
「相関関係が逆さ、教授」
長細い指が私を指さす。どこか探偵の推理ショーに似ていた。
「変わったのはキミが先さ」
どくり、と心臓が嫌な音を立て、跳ねる。
「新宿の私はまだ“シャーロック・ホームズ”だったとも。記憶はなくともね。変わる動機はいくらでもあった。彼らとの旅はそれほどに素晴らしかった。だが、始まりが合ったはずだ。変容するきっかけ、引き金、トリガー、そう、キミだ」
かたりとわざとらしく音を立て、椅子から立ち上がる男の体が濡れていき、髪型も崩れていく。
「キミが先に変わった」
瀑声が鳴り響く。目の前の幻覚が霧散していく。
パチリ、と目を覚ませば、ひとりきりの部屋。男の幻覚も幻聴も何も無い。最初から部屋には私ただ一人。
「……夢でしか会えないとは、なんとも情熱的なことだ」
冷や汗が背中を伝い、不愉快だ。ああ、全く可愛げのない男だ。生前から、サーヴァントになった今でさえ私の邪魔でしかない。だが、残念なことに私はこの悪夢を望んでいる。