本日は晴天なり人理に一切の影響を及ばさない微小特異点が発生した。これ幸いとマスター達は休暇を楽しむことにしたらしい。らしい、というのは伝達された情報から得たもので、直接その姿を確認していないからだ。
管制室に篭ってないで、たまには外に出てきなよとダ・ヴィンチに追い出されたのはつい先程のことだ。
外に出ずとも休憩など取れるだろうに。頃合いを見て自室に引きこもろうか、と考えるがどうやら対策を施されていたらしい。
「キミが私のお目付け役かい?」
砂糖二つにミルクなしのコーヒーを嗜みながら、向かいの席に座る老紳士に話しかける。眉間に皺を寄せ、不機嫌ですと主張する男は苦々しげに口を開く。
「好きでやってるワケじゃねぇヨ。マイガールに頼まれちゃったら断れないし?」
口ではブーブーと文句を垂れながらも、それまで不満に思っている訳でもないのだろう。この男は存外、私の面倒を見るのが好きなのだから。
「ふむ……そんな不運なキミに提案があるのだが、私とキミ、双方の利益を満たすものなのだが」
「断る」
提案する前に案は却下された。予測はできていたが、面倒なことになった。テラス席からは思い思いの過ごし方をするサーヴァント達が見受けられる。 それらにぼんやりと眺めていると、不機嫌な男がティースプーンをくるりと時計回りに回す。
「自室に引きこもるから、私に口裏を合わせろ、と言いたいのだろう? これ以上、引きこもってどうする? 陰気臭さに拍車が掛かるぞ」
「胡散臭いよりはマシだと思うがね」
カップを持ち上げ、コーヒーを口にする。予想通り甘いそれ。
「バレた時、責められるのは私だヨ? お前のせいで叱られるのなんて御免だネ」
「私とキミが組んで、露呈する事なんてあるのかい?」
揶揄する様に彼に笑いかければ、嫌そうに眉間に皺を刻んでいる。ははは、と態とらしく笑い声をあげる。
カチャリ、と音を立ててティーカップをソーサーへと置かれる。中身は空になっていた。
「ティータイムは終わりかい? 教授」
私のカップも底が見えていた。彼がここを離れたら、自室に戻るとしようか。
「……ほら、お前も立ちなさい」
立ち上がった教授は掌を差し出してくる。不審に思い、少し身を引く。
「……なんの真似かな?」
「お前こそ。私に恥をかかせるつもりかネ?」
「……なるほど」
どうやら自室に帰してくれるつもりはないらしい。彼を撒く方法など幾らでも思いつくが、それには多大な労力が伴う。苦労して自室に戻るか、彼に着いていくか。
「……退屈はしない、か」
それだけは保証されているだろう。彼の手を取れば、悪辣な笑みを浮かべている。
「お前を退屈させないことに関しては、私の右に出る者はいないさ。我が愛しの名探偵殿?」
「期待はしておこう、我が人生最大の宿敵殿?」
手首を掴まれ、強制的に席を立つ。行き着く先が滝底だとしても退屈だけは免れるだろう。引かれるまま、彼に委ねることとする。
せいぜい楽しませてもらうよ、教授。