いつかの君へとある通路の端で、黒い戦闘服を身に付けたモリアーティとダンテ・アリギエーリは向かい合っていた。ダンテはあの特異点で向けられたことの無い鋭い視線を一身に受ける。
「君は私に親愛を寄せてくれるがね。私にはそれはない。期待するのはやめてくれ。第一再臨の私……蛹の私ならば、それなりに相手をしてくれるだろう。私相手に親愛を向けるのはやめたまえ」
そうバッサリと無慈悲に切り捨てられたダンテは、フフ……と悲しそうに笑う。
「君にそんなことを言われる日が来るとは……しかし、君が言うことも一理ある……私たち、初対面だし……? ということで、初めまして。これから仲良くしてください……」
そっと差し出された掌を握り返すこともなく、モリアーティはカツカツと靴音を響かせて去ってしまう。
「フフ……難しい年頃……思春期小僧め……ちょっと傷つく……」
握り返されなかった掌を見つめながら、悲しげに顔が歪む。覚悟が宿った瞳で、ダンテはモリアーティが去っていった方向を見つめる。
「絶対に君の友人になってみせるとも…!」
かくしてダンテ・アリギエーリの戦いは始まった。または、モリアーティへの付き纏い行為の始まりでもあった。
「いい加減にしたまえっ!」
とある通路――奇しくもダンテとモリアーティが初めて会話した場所と同じ場所で、モリアーティは声を荒らげた。眉間に皺を寄せ怒っていると一目瞭然の表情に、ダンテはキョトンとした顔でモリアーティを見詰める。
「えっと……何か気に障ることでもしちゃったかな……?」
「自覚がないのか 事ある事に付き纏うのはやめろと言っているんだヨ!」
付き纏い、と言われダンテはここ数日の日常を思い起こす。食堂で隣の席に座ったり、図書館で向かいの席に座ったり、定期的に部屋を訪ねるのは付き纏いになるのだろうか、と思案する。別に付き纏ってはいないね、と結論付ける。
「あーもー! そんなに〝僕〟がお望みなら、与えてやろう」
第二再臨の姿から、第一再臨の姿へと変貌させたモリアーティはこれで満足かと言わんばかりの表情でダンテを睨み付けていた。
「モリアーティ」
ダンテはモリアーティの両手を優しく両手で包み込む。予想外の反応にモリアーティは顔を引きつらせる。
「誤解を産んでしまい申し訳ない。…私はあの特異点の彼を求めている訳ではないのだよ。君だ、今ここにいる君と友人になりたいんだよ。君は君の望むままの姿でいてほしい。私の望みは君があるまま振る舞うことだよ」
驚かせてすまないね、と微笑んでダンテは手を離す。困惑した表情でダンテを見詰めるモリアーティに安心させるように微笑みかける。
「なぜ……?」
何故と問われたダンテは、幸福に満ちた笑みで答えた。
「君を愛してるから。愛しい人よ」
ダンテの返答に、は? と呟き、モリアーティは固まってしまった。そんなモリアーティの様子に、過去一会話できた……これはもう友人と言っても過言ではないのでは……? と内心浮かれていた。
モリアーティが思考の海から帰ってきたら、お茶にでも誘ってみようかな、とダンテは待つ。
残念ながら、思考の海から帰還したモリアーティは、顔を真っ赤にしてダンテの元から去ってしまった為、それは叶わなった。