朝までそばにいて「モリアーティ?」
彼のために用意したソファで読書をしながら、居眠りをしているなとは思っていた。しかし、穏やかな寝息から呻き声に変化していた。眉間に皺を寄せ、どう見ても魘されている姿に胸が締め付けられる。早く解放してあげねば、という気持ちが募る。
「モリアーティ!」
強く肩を揺さぶれば、憔悴した表情を浮かべた彼がゆるゆると瞼を開ける。
「……どうしたの?」
小刻みに震えている姿は、何かに恐怖している様だった。眠る前はいつも通りの彼だった。では、なぜ? 夢? しかし、サーヴァントは通常、夢を見ないはずだ。
掌で顔を覆ったモリアーティが、ボソボソと零す。
「滝だ……瀑声が、……私を殺す物の音がする……ちがう、ぼくじゃない……ぼくはその経験をしていない……」
ぼくじゃない……と繰り返し呟く姿に、思わず彼を抱きしめる。未だ混乱の最中にいるモリアーティはされるがまま。いつもなら悪態が複数飛んでくるのに。
「……ははっ、いずれあの滝で死ぬことは決まってるのに、時々夢を見て、魘されるんだ。……滑稽だろう?」
「……そんなことは、ない。誰にだって忘れられない傷がある……何も恥ずべきことはないよ……」
「……ないはずの傷に苛まれているんだ。無様に決まっている」
乾いた笑いを漏らす彼に、これ以上思い詰めて欲しくない。抱きしめる力を強め、彼の頭を優しく撫でる。されるがままの彼は無抵抗で無防備だ。
だらりと垂れた腕は、私に縋り付くこともない。それが物悲しい。どうか、君が心穏やかに過ごせますように、と抱きとめる腕に力を少しだけ篭めた。