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    orangeOhayou

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    orangeOhayou

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    ある日のマンドーとグローグーのお話。なんかモブ×モブのBLみたいになってしまった……ので、ぴくぶらにも置いてます

    #マンダロリアン
    mandalorian
    #グローグー
    glogoo.

    怒りん坊の整備士 男はいらだっていた。毎日毎日嫌になるほどやってくるボロボロの船、態度の悪い客たち、なんの足しにもならない薄給。それが自分の人生だと諦めるほどには、男の心は死んでいなかった。だからこそ毎日腹が立つ。いつしか男は周りにアンガーと呼ばれ、誰も寄り付かなくなってしまった。それがますますアンガーをいらだたせた。
     だが、今日は少しだけ違った。今日の客は一人のマンダロリアンだった。いけ好かなかったが、態度は悪くないし、きちんと金も払ってくれる。賞金稼ぎのような風貌のくせに、そこらの荒くれ者とはどこか違う、柔らかな雰囲気があった。
     けれど話しかけられるのはあまり好きではないらしい。最低限の返事を投げてくるだけだ。それならばそのようにしてやろう、ご随意に、とアンガーは話しかけるのをやめた。こちらも快適に仕事が出来ればそれで良いのだ。それに、マンダロリアンの古臭いが珍しい船を修理出来ることが、アンガーの心を弾ませた。アンガーは自分の機嫌が良いのを自覚していた。
    「少し出てくる。船を頼む」
     船の修理を続けていると、急にマンダロリアンが背後から声をかけてきた。先ほどまで、木箱に座って武器の点検をしていたはずだ。こんなにも鎧で固めているのに、音もなく現れるなんて。アンガーは興味深く思った。マンダロリアンの武勇伝は聞き及んでいる。
    「それと、もし問題なければ、だが……」
     マンダロリアンは、少し迷う素振りを見せた。
    「なんだ? 船の改造オプションか? やってみたいが、この船を下手に弄るのはちょいと厳しいぜ」
    「いや、いや、そうじゃない」
     マンダロリアンは首を振った。では、何だというのだろう。アンガーには検討もつかなかったが、今日は機嫌が良い。余程のことでも無い限り、引き受けてやろうという気になっていた。
    「報酬は上乗せする。だからこいつを見ていてやってくれないか」
     ――そう言ってマンダロリアンがぺらりと開けたショルダーバッグには、小さな緑の赤ん坊が入っていた。

    「おいおい、ちょっと待った、食べるなこのガキ!」
     アンガーは慌てて赤ん坊の手からネジをとり上げた。こんなものを飲み込んでしまえば一大事である。赤ん坊が入ったカバンを抱えなおし、アンガーはため息をついた。
     ――どうしてこんな羽目に。
     マンダロリアンがどうしてこんな赤ん坊と旅をしているのかはわからないが、大事な子供を自分のような男に預けるんじゃない、と思った。良かった機嫌は急降下し、慣れない子守と修理の仕事に慌てふためいていた。
    「腹が減ってんのか?」
     なんでも口に入れてしまうから、どうしても手に負えない時は菓子でも食わせてくれ、とマンダロリアンは言っていた。預けられた際に一緒に渡された袋を開けると、子供が好みそうな菓子がいくつか入っている。
     アンガーは赤ん坊の口を覗いた。小さいが、きちんと歯が生えそろっている。菓子を一つ渡してやれば、しゃくしゃくと音を立て、嬉しそうに咀嚼した。
     ――可愛い。
     アンガーは驚いた。自分が赤ん坊を可愛いと感じるような男であったことに。そういえば、子供と触れ合うのはいつぶりだろう。この仕事を始めてからは、荒くれ者の客に馬の合わない同僚、あとはドロイドぐらいとしか接していない。
    「おっと、あんまり食べ過ぎるなよ」
     小さな胃袋を考えると、一つぐらいが妥当ではなかろうか。あまり食べさせれば、あのマンダロリアンは晩飯の時に苦労することになる。寡黙なマンダロリアンと子育て――なんともミスマッチな組み合わせだ。アンガーは笑った。子供というのは、自分のような男でもこうして笑顔にしてみせるのかと感心しながら。
     しかし、仕事が進まないのも事実だ。マンダロリアンはドロイドを嫌がった。同僚と上手くいっていない自分には、助手もいない。腕には自信があるから普段は一人でも問題なかったのだが、今は協力者が欲しかった。
    「あー……」
     どうしたものかと頭を抱えていると、赤ん坊がぴょこんとバッグから飛び出し、走り出した。アンガーは驚き、慌てて追いかける。小さな体のくせに、赤ん坊はちょこちょこと素早く動き回り、やっと捕まえた頃には隣の作業スペースに入ってしまっていた。
    「こらっ、そっち行ったら危ないだろ! 父ちゃん帰ってくるまで大人しくしてな」
     赤ん坊は、抱え上げると不満そうに「ぷぁ」と声を出した。可愛いが、ダメなものはダメだ。アンガーは仕方なく、もう一つ菓子を与える。すまないマンドー、晩飯は入らないかもしれない。アンガーは心の中でマンダロリアンに謝っておいた。
    「アンガー? なんだそいつは」
     赤ん坊を抱きかかえて作業場に戻ろうとした時、一人の男が声をかけてきた。アンガーの同僚だ。アンガーにとっては、日々の苛立ちの要因の一つである。応えるか、無視して行くかを迷っているうちに、同僚はすぐそばまで寄ってきた。
    「赤ん坊? 誰の子だよ」
    「……客のだよ。少し預かってくれって言われた」
    「珍しいな、お前がそういうことを頼まれてやるなんて」
    「俺をなんだと思ってやがる」
    「いや、すまない。おーおー、小さいなぁ、何歳ぐらいだろうなぁ」
     同僚の視線は赤ん坊まっしぐらで、アンガーのことは少しも気にかけていなかった。それはそれで腹が立つが、赤ん坊に夢中になる気持ちはわかったので、何も言わないでおいた。そもそもいつもは話しかけてすらこない相手だ。
    「可愛いが、こんなの抱えて仕事になるのか?」
    「まあ……正直言うと、まったく」
    「そうだろうな。さっきから見てたが、ドロイドを使ってないな、お前」
    「客が嫌がったんだ。変わり者だが、悪い奴じゃない。マンダロリアンは珍しい」
    「こいつの父ちゃんマンダロリアンなのか?」
    「そうさ。誰かは知らないが、腕利きだろうなきっと」
     音もなく俺に接近してきたんだぜ、と言った時、同僚がいつの間にか赤ん坊から目を離し、アンガーをじっと見つめていることに気付いた。
    「な、なんだよ」
    「いや、お前……そんな顔も出来るんだな」
    「は?」
     もっと気難しい奴だと思ってたよ、と言われ、アンガーは思わず自分の顔を触っていた。表情が緩んでいたなんて気付かなかった。確かに少しはしゃいでいたかもしれない。指摘されたのは恥ずかしかったが、何故か腹は立たなかった。
    「あぃっ」
     何と答えようか考えあぐねていると、赤ん坊が次の菓子を要求してきた。とんでもない食いしん坊だ。流石にこれ以上与えるのはマンダロリアンに申し訳なかったので、アンガーは菓子を求める赤ん坊の手を握って誤魔化した。
    「あんまり食べ過ぎると飯食えなくなるぞ。俺は修理があるんだから大人しくしててくれ」
     赤ん坊をショルダーバッグに入れなおす。いっそ眠っていてくれないかと思ったが、大きな目はぱっちりと元気よくアンガーを見つめていた。
     その様子を眺めていた同僚が、遠慮がちに口を開いた。
    「――なあアンガー。手伝おうか?」
    「え?」
     言われたことが理解出来ず、アンガーは固まった。同僚は気恥ずかしそうに笑っているが、言葉を撤回する気はないようだった。
    「おチビちゃん抱えてちゃ何も出来ないだろ? 手を貸すよ。他にも何人か手の空いてる奴を呼ぼう」
    「だ、だがよ、良いのか……」
    「遠慮してんのか? らしくねえなぁ。ほら、さっさと終わらせようぜ」
    「……おう」
     歩き出した同僚の後ろを、大人しくアンガーはついていった。どんな顔をすれば良いのかはわからないが、浮足立ったこの気分はきっと滲み出ているんだろうと思う。赤ん坊とは不思議なものだ。きっとあのマンダロリアンの妙な親しみやすさも、この小さな緑色のおかげなのだろう。そう思った。

    「こことあそこと……あの噴出孔もだな。ダメになってたところは全部修理した」
    「ああ……助かる」
     帰ってきたマンダロリアンは少し疲弊した様子だったが、眠る赤ん坊を見て安心したように息をついたのが、ヘルメット越しでもわかった。
    「報酬だ。子守の分も合わせて、これで足りるか?」
     差し出された金は十分すぎるものだった。マンダロリアンの賞金稼ぎともなると、このぐらい軽いのだろうか? アンガーは一瞬躊躇った後、ぐい、とマンダロリアンの手を押し返した。
    「多すぎる。チビの世話なんて大したことじゃないんだから、別にいらねえよ」
    「だが……あの子は手がかかっただろう。あちこち行ってしまう」
    「それは……まあ……」
     否定はしない。けれどそのおかげで同僚たちに手伝ってもらうことが出来た。何より、久しぶりに話すきっかけが出来たのが、アンガーにとっては嬉しかった。結局のところ、いくら世界に反発していたって、アンガーは寂しかったのだ。だから、むしろ礼を言いたいぐらいだった。
    「その報酬は俺には高すぎる。子供が居ると金がかかるだろ? そいつに使ってやれよ」
    「……ありがとう」
    「こちらこそ。久しぶりに楽しい仕事が出来た」
     マンダロリアンは、起こさないようにそっと同僚から赤ん坊を受け取った。鎧に覆われた腕は、その見た目に反して優しく赤ん坊に触れる。きっとあのヘルメットの下はデレデレだぜ、と同僚がアンガーにささやいたものだから、アンガーはくすりと笑った。
    「じゃあな、おチビちゃん。大きくなれよ」
     夢の中の赤ん坊には聞こえてないだろう。かまわない。パパの腕に抱かれて安心しきっているなら、それで良い。
     一日でアンガーの毎日を塗り替えた奇妙な親子を見送った後も、時折アンガーは彼らのことを思い出した。それはアンガーがアンガーと呼ばれなくなっても、同僚たちとの語らいの中、ふとした瞬間に、彼らの姿が思い起こされたのだった。
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