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    suzuro_0506

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    suzuro_0506

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    とある特異点での松晋(未満)

    水底に雪の下「離してください」
    「嫌です」
     自分を畳の上に押し倒している師を見上げながら、晋作は溜め息をついた。

     レイシフトの際に藤丸たちとはぐれた晋作と松陰は、現状把握のため2人でこの地の調査を行っていたところを賊に襲われた。本来ならただの人間にサーヴァントが傷付けられる筈は無い。しかし、彼等の刀に纏わりついていた禍々しい魔力がそれを可能にしていた。退けはしたものの、晋作は折り悪く賊との交戦中に喀血し、動けなくなった晋作を庇い松陰は軽い傷を負った。藤丸とのパスはまだ繋がっているが、何らかの障害を受けているのかこの特異点に来てから魔力の供給が不安定になっている。魔力に余裕のない状態で不用意に敵と出会すことは避けたかった。
     とりあえず休める場所を、と山の中を進むうち、小さな村に出た。この特異点で起きている異変の難を逃れるため放棄されているようで、数件の民家があるがどれにも人の気配は無かった。無人となってからまだ日が浅いのか、多少賊に荒らされた跡があるが中は比較的きれいである。そのうちの一軒を、二人は一夜の拠点とすることにした。
     他の家を見てきますから君は休んでいるように、と松陰に言われ大人しく畳に寝転がった晋作は、いつの間にか眠っていたらしい。自分の咳で意識が浮上し目を開けると、隣に松陰が座っていることに気が付いた。
    「あれ、もう帰ってきてたんですね。早い……のかは寝てたのでわかりませんが」
     そう言って身体を起こそうとした晋作を、松陰の手が畳へと押し戻した。
    「先生?」
     晋作が目線を上にやれば、妙に余裕のない焦った表情の松陰がいた。
    「まだ寝ていなさい」
    「大丈夫ですよ、充分休めました」
    「咳が治まっていないでしょう」
    「この程度なら問題ありません。どうしたんです急に……、!?」
     松陰が晋作に覆い被さるように顔を近付ける。松陰の唇が晋作の唇に触れた。松陰の舌が、晋作の口内へ入ろうとする。ぎこちない動きで晋作の着物の隙間に手を差し込もうとする松陰の肩を、晋作は押し戻した。
    「いきなり何するんです、先生。さっきから変だ」
    「僕の魔力を、君に渡したい」
    「は?」
    「君が弱っているのをこれ以上見過ごしていられない。魔力が足りていれば、多少なりとも今より君の肺はよくなるんだろう。僕が君と直接魔力のパスを繋ぐことはできないが、サーヴァント同士でも魔力供給を行うことは可能だと聞きました」
    「……それで、魔力供給をしようってわけですか?」
    「ええ、わかってくれましたか、晋作」
    「……理解はしましたが、了承はしません」
    「何故です」
     焦りを浮かべたまま、松陰が晋作を不満げに見る。対する晋作は、淡々と言葉を返す。
    「体液交換での魔力供給は非効率的、そもそも僕はそんな行為が必要なほど差し迫った状態じゃない。今の先生はおかしい、冷静な判断とは思えません」
    「僕はおかしくなど」
    「おかしいですよ、間違いなく。だいたいどこからそんな発想に…………何か飲みました?」
     口付けされた時、松陰から酒の匂いがした。意識してみると、妙に甘い香りがただよっている。
    「ああ、酒を少し。応急の魔力回復として」
    「酒で魔力回復?何ですかそれ」
    「ここに来る前に貰ったものです。使えるものならと試してみたのですが、駄目でした。量を飲むにはいささか度がキツイ、少し口をつけてすぐに止めたので大して飲んだうちには入らないと思いますよ」
    「少し……?」
     十中八九、今の状況はその酒のせいだろうと晋作は当たりを付けた。松陰の様子も酔っているのであれば、わからなくもない。ただ、言葉通りに少量で松陰がこの有り様となると、かなり厄介な代物のようだ。
     遠ざけようと両肩を押しやってくる晋作の手首を松陰は掴み、晋作の頭の横、畳へと押し付ける。
    「晋作、言う事を聞いてください」
    「先生こそ僕の話をちゃんと聞いてください、大丈夫だと言ってるでしょう。それに、口付け以上の行為までするつもりですか?先生、男同士でのやり方わかってます?」
    「知識だけですが、なんとかします」
    「いや、知識だけでもあるのかよ」
     師の意外な答えに晋作は舌打ちをする。正気ではなさそうだが本気には違いないらしい。抗議の意を込めて、腕に力を込める。晋作の体調を気にして多少加減して押さえているのか、精一杯やって畳から少し浮かせることはできたが、松陰の握る力が強く、手首に痛みが走る。殆ど動いていないが負荷で息が上がってきて、これは不味いと晋作は顔をしかめた。
    「離してください」
    「嫌です」
     そうして、冒頭の会話である。松陰に引く気は無いようだが、晋作もされるがままでいるつもりはない。このままでは埒が明かないと見て、晋作は言葉での説得を諦めることにした。
    「……先に謝っておきます、すみません先生」
    「何を、っ!」
     押さえ付けてくる手に抗い浮かせていた腕を一気に脱力させると、晋作はバランスを崩した松陰の胸を全力で蹴り飛ばした。常の松陰ならばその程度軽くいなすかその場で耐えただろうが、半ば酩酊したような状態であったためか、松陰は呆気なく吹っ飛ばされ派手な音を立てて背中から背後の壁に激突した。亀裂の入った壁の前に倒れ伏す松陰の口元を血が伝う。肋の一本か二本でも折れたかもしれない。晋作も先の戦闘の際の喀血からまだ回復しておらず、手加減などする余裕は無い全力の蹴りだった。何なら、少し無茶をした。仰向けの状態から、立てた片膝を抱えるようにして座った状態に身体を起こす。晋作は差し込む痛みを訴える胸を押さえ、肩で息をしながら松陰の様子を伺い見た。
     松陰が倒れたまま動かないことを暫し確認し、晋作は緩慢な動きで立ち上がる。そっと松陰の服を探るが、目的のものが見当たらない。部屋の中を見回し探していた物を視界に認めると、そちらへのろのろと歩を進めた。
    「げほ、けほっ……誰だよ、先生に余計な事吹き込んだ奴は。あと、このたちの悪い酒飲ませた奴」
     部屋の隅に転がっていた白磁の酒瓶を拾い、栓を抜いて匂いを嗅ぐ。酒精の匂いに混ざり、先程松陰からしたのと同じ目眩がしそうな不気味な甘ったるい香りがした。魔力を含んでいるようだが、とても安心して口にできたものではない。晋作は不愉快そうに顔を顰めると、酒瓶に再び栓をし庭へと放る。ガシャン、と瓶が砕け、溢れた酒が地面に染みを作った。
     縁側に面した柱に背を預け、刀を縦に抱え座り込む。松陰と外の様子に注意を向けつつ、晋作は空を見上げた。灰色の曇り空を雁が飛んでいる。日が沈む頃には雨になるかもしれない。
     まだ痛みの残る手首を擦りながら晋作は思案する。松陰のらしくない言動は、あの酒の影響を受けてのものだろう。だが、おそらく、あの酒の効果は元々ある感情を増幅させ、理性の箍を緩める類のものだ。つまり、先の松陰は全く思ってもいない行為に及ぼうとしたわけではない。普段の松陰が晋作に手を出そうとすることは無いだろう。そもそも二人は互いにそんな類の感情や欲を抱いてはいない。いないはずだ。だが、彼は晋作の身体を案じ、必要とあらば自らが魔力を供給することも厭わない、例え"そういう"手段であっても、と、きっとそうどこかで思っているのだ。もしかすると、彼自身自覚なく無意識に。色事には興味も経験も少ないであろう松陰が。
    「……先生にとって、僕はそれだけのことに値する存在ですか」
     晋作が小さく零した声は、誰かに届くことなく消えた。
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