無題「美しい人は早く死ぬんだってな。」
オレンジの西日が差す通学路で、ふと思い出し呟いた。今日の現代文の授業で教師が解説していた事だ。普段はあんなつまらない話の半分程すら聞いていないが、不思議と今日のその話だけは放課後まで覚えていた。
そう、それは案外間違いじゃねぇのかもしれないと思ったのだ。俺の母親は俺達兄弟を産んで、物心もつく前にさっくりと死んだ。それでも僅かな記憶の中の母は美しかったのを覚えている。
「ビジンハクメイ、なんて言葉もあったか。しかしまぁ、この国はどうしてそんなに美人を死なせたがるんだ?」
冗談のような調子で隣を歩くエミヤに問いかけて、様子がおかしいことに気がついた。歩く足を止めて顔を覗き込む。
「どうしたエミヤ。顔色悪いぞ。」
「───いや、なに。なんでもないさ。ただ、その理屈だと君は早くに死んでしまうのだなと……」
このバカは自分が小っ恥ずかしい事を言った事を言ってから気がついたらしい。中途半端にいうものだからこちらだって恥ずかしくなるだろう。
「……おまえ、ンな口説き文句みてぇなこと突然言うなって……」
その日の放課後は、付き合ってから初めて一緒に帰る中学生カップルのようなぎこちなさで帰る羽目になった。
家に帰ってから、またその言葉を思い出した。
「その理屈だと、俺は絶対死なねぇな。」
俺が抱えているのは、いっそ醜いほどの恋心なのだから。