日本の夏はうんざりするほどに蒸し暑い。そう、あの体力お化けをぐったりさせるほどには。ランサーを日陰のベンチへ座らせ、わざわざ二人分の飲み物を買いに赴いたのはあれの覇気が普段の三割減だったからだ。
先ほど近くの駄菓子屋で買ったラムネの瓶をベンチで伸びている青髪の男へと投げる。緩く弧を描いた後キャッチされたそれを見届けて、自分もランサーの座っているベンチへと腰を下ろした。
「流石の君でも暑さには負けるか。」
「暑いだけならまだ耐えようがあるけどよ、蒸し暑いのは流石にきついわ。」
それもそうだろう、と頷く。アイルランドの夏は平均気温が十五度弱と、日本に比べるとかなり涼しい。今はすっかり日本に馴染んでいるとはいえ、育ちは向こうのランサーにとってこの国の夏はなかなか厳しいものであるはずだ。あまりにも気候が違いすぎる。
「夏の雰囲気自体は嫌いじゃねぇんだけどな。風物詩とやらも好きだぜ、かき氷とか、夏祭りとか。」
「……驚いたな、まさかランサーがそのような情緒を気にするとは……」
「お前さぁ、その隙あらば皮肉言う癖なんとかならねーの?」
あーこれこれ、なんて言いながらよく冷えたラムネをラッパ飲みしているランサーは一時間前よりも幾分か調子を取り戻したらしい。それを確認してから自分もよく冷えたそれを飲み下す。喉の奥で少し強めの炭酸が弾けた。
――今日はうんざりするほど蒸し暑いから夕立が降るかもしれない。そうしたら、止む頃にはきっと涼しくなっている事だろう。