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    常夏🐠

    @summmmmmerdayo

    とこなつです┊卍とらふゆ中心に色々と┊R18はワンクッションだったりフォロワー限定だったりします

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    常夏🐠

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    ペトショ軸とらふゆ┊とらふゆワンドロライお題「夏の終わりに」「泣き虫」「ファーストキス」┊一虎への恋心を自覚する千冬の話┊※モブ女が出る

    #とらふゆ

    蝉に勝った(ペトショ軸とらふゆ) 一虎君に女ができた。
     それを知ったのは蝉の大合唱がうるさいくらいに聞こえる真夏の日。肌を焦がすような陽射しに照らされながら歩いていたオレは、見知らぬ派手な女と並んで歩く一虎君の姿を街で見かけてしまったのだ。一虎君は暑いからか適当に髪を縛っていて、店にいるときと違って首に飼っているデカい虎を惜しげもなく見せびらかしていた。女はその虎を怖がるでもなく、一虎君と楽しそうに談笑している。
     女の背は160センチくらいで、髪の毛は明るい色をしていた。中坊の頃のオレみたいに金髪というわけではなく、ベージュ色の髪に赤いメッシュが入っているのだ。派手な色をした髪を綺麗に巻いて、腰より少し上まで伸ばしたその女に見覚えはない。XJランドに来店した客、ということは多分ないと思う。そりゃあ一回か二回しか来ていない客であれば顔なんて覚えているわけもないが、とは言えあんなに派手な人が店内にいたら忘れはしないだろう。肩だけでなくヘソまで見えそうな服を着て、サンダルの底はだいぶ分厚い……ってことは、本人の身長は150くらいかもしれなかった。ギャル……とは、ちょっと違うような気がする。ギャルが成長して、ちょっと大人びた感じ? オレの大学の友達にはいなかったタイプ。どっちかって言うと原宿や新宿辺りにいそうなタイプで――すごく、一虎君とお似合いだった。
     出所してきたときは少し長いくらいの黒髪だったけど、今の一虎くんは背中まで伸びた髪に黄色いメッシュを入れている。その上タッパもあるから存在感がすごくて、本人の顔立ちも相まってとにかく派手なのだ。現役ヤンキーって感じのナリ。あれで顔が整ってなかったら間違いなく近寄りたくない部類のヤカラだと思う。本当にアイツ顔に助けられてる――言うほどモテないのは、多分美形すぎて声をかけづらいからだろうが。
     とにかくそんな派手な一虎君は、同じく派手な女性と並ぶと「ピッタリ」だった。パズルのピースがぴったりハマるように、しっくりくる。あの二人が夜の新宿を歩いていたらオレは間違いなく避けて歩くだろうと思うレベルだ。オレとて元ヤンではあるけれど、今は完全なカタギなのでヤカラに近寄ろうとは思わないし(……って、タケミっちに言ったら爆笑されそうだ)。
     一虎君と彼女はオレがいることに気付いていないようだった。女は一虎君とぴったりくっ付いて歩きながら、何かを探している風だった。店か何かだろうか、と思ったところで、オレは二人から視線を逸らして道を曲がる。なんだかこれ以上二人を見ているのは嫌だったからだ。
    「……別に、女いたって構わねえけどさ」
     一虎君が出所してもう一年が経つ。オレが彼を迎えに行ったのはタケミっちから「前のオレ」の話を聞いていたから、というのもあるけれど、でもそれはオマケに過ぎない。多分それを聞かなくたってオレは一虎君を迎えに行ったと思う。場地さんの宝物を守れるのは、きっとオレだけだ。傲慢だと解ってはいるけれどそう自負している。現に一虎君のお母さんはもう一虎君と顔を合わせたくないみたいだったし。ドラケン君や他の創設メンバーだって、家庭や仕事があって、一虎君と真正面から向かい合うだけの余裕はなさそうだった。だから、オレは迷いもせずに一虎君を迎えに行った――もちろん、XJランドの人手が足りていない、という打算的な理由もあったけれど。
     実際行く宛のなかった一虎君はオレの手を取って、それから半年ほど同じ家で暮らした。祭りで掬った金魚を水槽に入れる前に袋に入っていた水と家の水とを混ぜ合わせて慣らしてやるように、一虎君を「現在」に慣らしたのだ。ガラケーはもう持っている人が少ないこと。テレビは地デジになったこと。定期券はスマホアプリでも使えるということ。普通に生きてきたオレからすれば段階を踏んでアップデートされた日常も、一虎君的には十年分越しのアップデートだ。セルフレジだって全然使えない。だから一虎君が一人でも生きていけるように、たっぷりと時間をかけて色々なことを教えて、伝えていった。
     半年して、レジ打ちや発注を完璧にこなせるようになった一虎君はパーちん君のところに行った。XJランドにほど近いところにあるアパートを契約したのだ。家電の使い方はオレと暮らしているときに一通り学んだし、料理だって十分にできる。「いつまでも千冬に世話になってるワケにはいかねぇからな」と笑って、一虎君は引越し業者の繁忙期が始まる少し前にオレの家を出た。
     一虎君の家に行ったのは一度だけ。引越し祝いと言ってちょっとした物を持って行ってやったときで、それ以降彼の家には行っていない。XJランドを挟んでちょうど反対側くらいの距離にあるので、仕事終わりに酔っていく、なんてこともなかったからだ。
     だから、オレは一虎君が手に入れた城に女を連れ込んでいるなんて知りもしなかった。
     多分これはオレのすごく身勝手な感想なのだけど、ぶっちゃけオレは一虎君の世界はずっと閉じていくんじゃないか、と思っていた。元々人と接するのがそんなに得意ではない男だ。既存のコミュニティである東卍の中から出ることはないだろうと鷹を括っていたところがある。オレやタケミっちは創設メンバーでこそないが、芭流覇羅との戦いで対峙したことで面識があるし、ドラケン君たちを交えた飲み会なんかにも顔を出しているから一虎君的にも身内判定が下りているだろう。けれど、それ以外――出所してから彼が新たな人脈を作るとは、本当に思っていなかった。怖がりの一虎君は、安心できる範囲にしか移動しないとそう思っていたのだ。
     いつ付き合い始めたんだろう。やっぱ一人暮らしがキッカケだったのかな。どこで会ったのかな。少なくともオレと暮らしてるときはそういう雰囲気、全然出してなかったよな。つーか今日あんな現場見なかったら多分気付かなかった。あんな風にピッタリくっ付いて歩けるような女がいるなんて、さ。だって私用で休み取らねえじゃん。シフト希望聞いても「特に用事ねえから千冬が決めて、ドラケンと飲むのはシフト見てから日にち決めるから」とか言ってたじゃん。記念日とかそういうの祝わねえタイプなのかな。
     歩きながらグルグルと頭の中でそんな言葉が踊った。
     そこでようやく、本当に今更、オレは気付く。
    「あ、オレ一虎君のことめっちゃ好きじゃん」
     立ち止まって、言って――瞬間、顔がカアッと熱くなったのが自分でも解った。
     くだらない独占欲だ。オレは結局、一虎君に離れて欲しくなかったのだ。ちょっとの荷物を手にオレの家を出たあの日だって、本当は出て行かないで欲しいと思っていた。オレの部屋ももうすぐ更新だから、これを機に二人で暮らすのに余裕がある部屋に引っ越したっていいって、きっと考えてた。そういうの全部心の底に突っ込んで蓋をして、上司と部下の関係であろうとした。
     うわ。
     うわー。
     うわあああああああ!!!!?
     その日の予定は全部後回しに――つってもスーパーとドラッグストアに行くだけだったけど――して、オレは猛ダッシュで家に帰るとベッドに飛び込んで枕を口に当てて叫んだ。昼間で良かった。夜だったらお隣さんに壁ドン(物理)されるところだった。
     部屋で眠っていたらしいペケJが「うるせえ」とばかりに起きてオレの頭をたしたしと蹴ってくるけれどそれどころじゃない。自覚した気持ちを咀嚼するので精一杯だ。え、オレ一虎君のこと好きだったんだ。へえ、そうなんだ、へえ……! 一周回って冷静になってきた。
    「……いや、好きじゃなかったらケッチなんかくれてやんねえわ…………」
     無自覚だった。
     だってここ十年、タケミっちにあげたプレゼントの最高額はせいぜい二万程度(それも八戒やアッ君と割り勘)だし、大学の友達だってせいぜい五千円そこらだ。ケッチに払った値段を思い返して頭を抱える。だって、一虎君が喜んでくれると思った。それしか考えてなかった。あの頃彼が乗っていたケッチは生憎もうどこかに消えてしまったようだけれど(一度場地さんの手に渡ったとか何とか。それ以上は、踏み込めなくて聞けていない)(廃車になったのか売られたのかも知らない)、同じ物をプレゼントすることはできるから、と、ドラケン君とイヌピー君に頼んで用意してもらったのだ。ドラケン君は笑ってたけど……いや、今思い返すとあれ苦笑いだったな。「コイツマジかよ」みたいな顔だった気がしてきた。うわ。
    ……とまあ、そんなワケで。
     オレの恋心は自覚すると同時に弾け飛んだ。いくら元東京卍會一番隊副隊長と言えど、女がいる男に気持ちを伝えるほどの度胸はなかった。自覚した恋心はしっかりと墓に放り込んで、オレは次の日からも完璧な店長の仮面を被って一虎君に接することを決めたのだ。
     ただの店長と店員の関係に戻って三週間ほど。ついこの間まであんなにもうるさかった蝉はもうシーズンを終えたのか、すっかり聞こえなくなってしまっていた。たまにタイミングを逃したらしい蝉が一匹で静かに鳴いているが、果たして彼は伴侶を見つけることができるのだろうか。もう残っている雌なんていないとしたら、彼はただ悲しく、その命が尽きるまで鳴き続けることしかできないというのか。
    「って、オレも似たようなもんか……」
     叶うことがないと解って、心の奥底では気持ちを殺せずにいる。死が訪れない分、まるで生き地獄だ。もしかしたらまだ相手を見つけていない蝉がいるかもしれないあっちと違って、こっちは望み薄どころの話ではない。夏が終わる前にオレの恋が終わった。もうそういうギャグでも言ってないとメンタルが保たない。
     ちらりと時計を見る。ネコの形をした時計は、あと五分で閉店時間を指し示していた。店内に客はいないので、少し早いが締めの準備を始めさせてもらうことにする。レジを締めて、お金をバックヤードの金庫に入れる準備だ。一虎君の方ももう客は来ないだろうと判断したのか、モップを手に狭い店内をきっちり掃除している。……あー、そうだ。四角いところを丸く掃きそうな顔してるくせに、頼まれた掃除はキッチリ四角に掃くところとか、好きなんだよなあ。
     案の定客は来なかったので、レジをさっさと締めてバックに向かう。日報を書きながら、そろそろ今月のシフトを組まないといけないことに気付いた。XJランドのシフトは毎月十日始まりなのだ。
    「一虎くーん、シフト希望あります?」
    「ねぇから千冬テキトーに決めといてー」
    「……」
     本当に?
     例えば十連勤とかにしても、一虎君は本当に文句を言わないのか? それとも、もう彼女があの家にいるからいちいち休みをもらう必要がないとか? ……なんて考え始めたらどんどん思考がグチャグチャになっていく。もう三週間も経ったんだからいい加減割り切れと自覚はしているのに、どうにも諦めきれない。往生際が悪い。
    「ちふゆ〜?」
     モップを手に一虎君がバックヤードに入ってくる。シフトメモの紙を覗き込んで、一虎君はオレの返事を待っているようだった。その顔は本当に、「慣れて」きた頃から変わっていない。ずっとそんな顔を向けていたくせに、本当は女作ってたなんて。
    「……彼女さんとデートの予定とかあるんじゃないですか。いつまでもオレに気ィ遣ってないで、休みくらい自由に取ってくださいよ」
    「へ? 彼女?」
    「そういうのいいですから! だって一虎君、女いて……!」
    「ちょっ……千冬!?」
     ぎょっとした目で一虎くんがオレを見る。なんでそんな心配するような顔してんだよ、と思ったところで、自分の目からボロボロと涙が溢れていることに気が付いた。うわ本当に情けない。往生際が悪い上に情けないとか、ダサすぎる。場地さんが見てたら笑うぞ、と、自分で自分を叱ってみても涙は止まらない。本当に際限なく溢れてくるものだから、シャツの袖で拭っても拭っても変わらないほどだ。
    「知って、んだよ、アンタが女いんの……ッ! だから別に、休みくらい……」
    「っ……いねぇよそんなん! つーかデキた試しねぇわ!!」
    「嘘吐け! オレ見ましたよ、この前っ……赤いメッシュの女と歩いてたの!」
     泣きながら叫んだせいでとんだヒステリックな声が出た。自分でもびっくりするくらい感情に任せた声を出していて、驚いてしまう。一虎君はポカンとした顔をして、それから、それから――オレを、抱き寄せた。
     ぐ、と腕を掴まれて一虎君の腕の中に引き込まれる。背中に回った腕と頭に回った腕がそれぞれぽんぽんとオレを慰めるように叩いて、顔の横で「違ぇし、」と一虎君の声がした。
    「木戸サン……そのメッシュの女、彼女でもなんでもねぇよ。美容師さん」
    「……び、ようし……?」
    「髪の毛やってもらってる人!! そんときはたまたま街で会って、髪の調子見せてって言われたから見せたり、ケアの方法聞いたりしてただけで……つーかあの人ダンナとサロンやってっから!」
     一虎君に早口でそう捲し立てられ、オレは一つずつ彼の言葉を飲み込んでいく。美容師、髪の調子、ケアの方法、旦那さん……全部を底に落として、そこでオレはしっかり勘違いをしていたことを理解した。涙がようやく止まって、でもいっぱい溢れた分が一虎くんの肩口を濡らしてしまっている。
    「……納得してくれた?」
    「…………、……した」
    「おし」
     ぽんぽんと赤ちゃんをあやすように叩いていた手が止まる。一虎君はオレを椅子に座らせると、机の上に置いてあるティッシュを適当に引き抜いてオレに渡してくれた。ぐす、と洟を啜りながら、オレは一虎君を見上げる。
     あー、自爆した。
     墓に埋めてやったはずの恋心がまた娑婆に出てこようとしている。殺したはずだったのに。
     しばらく沈黙が続く。オレも一虎君も、どちらから何を言うべきかとタイミングを見計らっている。先手必勝とはいきそうにない。うっかりしたらまた自爆してしまうから。
     無言の攻防の末、先に口を開いたのはオレだった。元はと言えばオレが勝手に勘違いして、当たるようなことを言ってしまったのだ。謝るべきはオレだ。
    「ごめん、変なこと言った」
    「……いーよ、オレだって千冬が外で女と並んで歩いてるの見たら、多分勘違いするだろうし。つか、そっちは別にそこまで怒ってねぇっつぅか……あのさ、千冬。なんでキレたん?」
    「なんでって……」
    「千冬がさ、休み希望聞くだけでそこまで怒るわけねぇじゃん。一年ちょいの付き合いだけど、流石にそれくらい解ってるし……だからさ、えっと、」
     一虎君は一度言葉を切って、それからウンウンと唸る。次にどんな言葉を続けるか選んでいるようだったので、オレは口を噤んで彼の口が開くのを待った。
     やがて一虎君は「ええと、」ともう一度繰り返しつつ、視線をオレから逸らして口を開く。
    「……自惚れていい?」
    「……」
    「オレに彼女いたら、嫌だった?」
     コイツこういうところ全面的に出てたらマジでモテてるんだろうなと思ったら無性に腹が立った。つーか、それこそ中坊の頃とか、こういう感じでやっていったら百人斬りとか余裕で達成できてたんじゃねえかと思う。あの頃から顔が良かったし。ムショ入って出てきてコミュニケーション不全って感じになってなかったら、今頃金持ちの奥様とかに飼われてンじゃねぇか?
    「そうですけど」
     遠慮してるのが急にバカらしくなって、オレは首肯する。それでもう白旗を上げた状態だ。はいはい、オレの負け。チェックメイトを取ったのは一虎君だ。逃げ場がなくなって、オレは白状することを決める。
    「好きなんですよ、一虎君のこと。気付いたのは最近だけど……だから、アンタに女いたら嫌だ。そりゃオレもいい歳した大人だから仕事に私情は持ち込みません。でも、すっげーしんどかった」
    「……そっか」
     そっかって。
     松野千冬一世一代の告白、「そっか」の三文字で片付けられンのかよ。ブン殴るぞオマエ。つーかブン殴った方がスッキリするかもしれねえ。
     と、思ったところで。
    「オレも」
     なんて、不意打ちにフックを撃ち込まれた。
     何を言われたのか理解できていないオレの前に一虎君は膝を付いて、まるで王子様がお姫様の手でも取るかのようにするりとオレの手を取る。オレより少しだけ大きくて、骨張っている手。一虎君に手を取られて心臓が跳ねて、さっきまで浮かんでいた文句が全部消し飛んでいく。
    「好きだよ、千冬」
    「………………は、」
    「本当は言うつもりなかったんだけどさ。両想いだってんなら、我慢する必要ねぇよな?」
    「は? え、ちょ、っ……一虎、」
     愛くるしい子犬も、同じケースに入っている犬に噛み付いたり踏み付けたりと獰猛になることがある。どれだけ可愛くても獣の本能があるのだと、一方的な攻撃にならないよう片方を抱っこしたりしながら思うことがあるのだけれど。
     今目の前にいる男もそれだった。コミュニケーションが不得意で、十年前は不良の爪を剥いで回るくらい残虐だったくせに気弱なところがあって、でも仕事はちゃんとできて、犬の散歩中に鼻歌まで歌ってしまうような、そんな男であったはずなのに。今オレの前にいる一虎は、その名に刻まれている通りの獣そのもののように思えた。
    「ちふゆ」
     しっかりと名前を呼ばれる。食べられると思った次の瞬間には、唇がぶつかっていた。
     色々と言ってやりたいことはあるけれど、そんな余裕があるわけもなく。
     オレの耳に聞こえたのは二人分の吐息と、窓の外から微かに響いてくる夏の終わりを知らせるような一匹の蝉の声だけだった。
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    常夏🐠

    DONEPSYCHO-PASSパロの執行官とら×監視官ふゆパロ┊原作程度のグロ描写があります┊原作見てないと設定解らんと思う
    全部混ぜて黒になるなら(とらふゆ)『エリアストレスの急上昇を確認。当直の監視官は直ちに執行官を連れ、現場へ向かってください』
    「……オレのペヤング」
     チッと舌打ちをして、男――公安局刑事課に所属する監視官・松野千冬は仕方なしに立ち上がった。給湯器の下まで持っていったペヤングをビニール袋に放り込んで机の上に置くと、ジャケットを羽織って小走りに廊下を抜けていく。
     千冬は公安局に勤める監視官だ。シビュラシステムという全知全能と言っていいほど優れたAIによって住民の精神衛生が保たれているこの世界だが、時折精神が不安定となり周囲の人間に害を与える者や、システムに反抗して犯罪を起こす者が現れる。そんな事態が起きた際に現場に急行し、鎮圧をするのが公安局の仕事だった。千冬の属する一係には何人かの同僚がいるが、交代で休みを取っていることもあって今日は二人しか出勤していない。そもそも今日は内勤だけで外勤は三係の持ち回りのはずなのだが、聞けば三係は一時間ほど前に湾岸の方で起きた事件の対処に当たっていて不在とのことだった。
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    常夏🐠

    DONEペトショ軸とらふゆ┊とらふゆワンドロライお題「夏の終わりに」「泣き虫」「ファーストキス」┊一虎への恋心を自覚する千冬の話┊※モブ女が出る
    蝉に勝った(ペトショ軸とらふゆ) 一虎君に女ができた。
     それを知ったのは蝉の大合唱がうるさいくらいに聞こえる真夏の日。肌を焦がすような陽射しに照らされながら歩いていたオレは、見知らぬ派手な女と並んで歩く一虎君の姿を街で見かけてしまったのだ。一虎君は暑いからか適当に髪を縛っていて、店にいるときと違って首に飼っているデカい虎を惜しげもなく見せびらかしていた。女はその虎を怖がるでもなく、一虎君と楽しそうに談笑している。
     女の背は160センチくらいで、髪の毛は明るい色をしていた。中坊の頃のオレみたいに金髪というわけではなく、ベージュ色の髪に赤いメッシュが入っているのだ。派手な色をした髪を綺麗に巻いて、腰より少し上まで伸ばしたその女に見覚えはない。XJランドに来店した客、ということは多分ないと思う。そりゃあ一回か二回しか来ていない客であれば顔なんて覚えているわけもないが、とは言えあんなに派手な人が店内にいたら忘れはしないだろう。肩だけでなくヘソまで見えそうな服を着て、サンダルの底はだいぶ分厚い……ってことは、本人の身長は150くらいかもしれなかった。ギャル……とは、ちょっと違うような気がする。ギャルが成長して、ちょっと大人びた感じ? オレの大学の友達にはいなかったタイプ。どっちかって言うと原宿や新宿辺りにいそうなタイプで――すごく、一虎君とお似合いだった。
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