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    テスカトリポカ神の伝承保菌者デイビット君シリーズ
    テスデイ生産ライン
    作中出てくる小難しい話は個人的解釈と物語のエッセンス程度なのでふんわり読み流してください

    Inner multi-circuitその街の中ではおよそ中間グレードの、単身向けの部屋がやや多いホテル。
    三階の角部屋を取った、ブラウンという男がいた。
    ブラウンは荷物を抱え部屋に入る。ごく自然に簡単な荷ほどきをしようとした時、ふと気配を感じて振り向き、驚愕した。
    そこには自分と同じ背格好、装い、手荷物まで全く同じの男が一人、ぽかんとした表情で立っていた。顔つきも表情も、自宅でひげ剃りをした時についてしまったあごの傷さえ全く同じの、『もう一人のブラウン』がそこに立っていたのだ。
    「お前は誰だ?」
    どちらからともなくその問いかけがあり、どちらも自らの名を名乗る。
    当然二人とも軽いパニック状態となり、言い争いはヒートアップして、つかみ合いになるほどのいざこざに発展した。
    暫く揉み合って埒があかないと感じ、自分と同じ顔の男を突き飛ばして部屋を出た。そして部屋の敷居をまたいで廊下に出た時、背後から聞こえていた怒声が急に止んだ。ドアを閉める間もなく飛び出したというのに。
    振り向くと案の定、突き飛ばした『誰か』がいたはずの部屋には、もう誰もいない。
    こんな短い時間に夢でも見たのか。ブラウンはそう思って、再び部屋に戻るため、ドアを潜った。
    すると今度は、ベッドの上でくつろぐ『もう一人のブラウン』が不意に目の前に現れた。
    再びお前は誰だと問答を交わし、いさかいの果て、今度は相手のほうが先に部屋を出た。錯乱したブラウンが、今度は明確に相手を殴りつけようとしたためである。
    そしてドアを潜った『もう一人のブラウン』は、ブラウンの目の前でぱっと消えてしまった。
    男は青ざめ、その場にへたり込んだ。しかし床を這いつくばるようにもつれながら、どうにか廊下に出て助けを求め叫んだという。
    それから一度も、その室内には戻っていない。





    怪奇現象が起きるというホテルについて。
    デイビットは現地に向かう傍ら『伝承科の伝手』を駆使し、ここ数日間の現地の宇宙観測情報を取り寄せ、飛行機の中で読み込んでいた。
    空港からバスと電車、時折タクシーを乗り継ぎながら、読みつくした資料では原因究明の決め手になるものは得られないなと判断し、着いてそうそう煙草の世話になるかもしれないと思い小さくため息を吐いた。
    日暮れ前に着いたホテルは事前に人払いがされており、従業員関係者に至るまで全員が撤収させられていた。念のため、周辺の建物にも同様の措置がされている。
    無人のホテルを闊歩し、問題の部屋の前に着く。開けっ放しのドアの向こうには、ほんのわずかにシワの寄ったシーツ、置きっぱなしの荷物。荷物はブラウン氏のものだろう。
    出入りの度ドッペルゲンガーが現れては消える部屋。念のためドア付近を中心に魔術の痕跡を探し、当然ながらそんなものはどこにも見当たらない。もしもこれが『ただの魔術』による現象であれば、伝承科まで話は回ってくるはずもなく。
    人体と、それに付随する雑貨品の複製。そして消失。報告ではそう語られていたが、果たしてそれがこの現象の本質だろうか。
    話を受けてから、ずっとその違和感について考えていた。
    ブラウン氏が出入りしたという事実が、事象のトリガーだとしたら、この部屋が関係するのは何故か。例えばドアをゲートに見立てた、単なる出入りによるインシデントではないのではないか。
    だがそれを厳密に解き明かすことは、最優先の事項でもなかった。最も優先すべきは、未知の現象を引き起こした原因物質の特定と回収である。
    開けっ放しのドアを潜り、室内に入る。その瞬間わずかに、胸の辺りに疼痛が走った。それはある程度予見していた反応だった。
    気にせず部屋の中を進み、ブラウン氏の残した荷物の前にしゃがみこむ。無造作に中身を開き、丁重に梱包された一つの箱を見付けて取り出し、中をスキャニングする魔術をかけた。
    その時、天井板が軋むような、乾いた音がする。ここの建物は相応に古いが、劣化という観点での問題は見受けられなかったはずだが。
    そう思いつつ顔をあげると、天井に入った亀裂が目に入る。その隙間から、縦の瞳孔を持つ二つの瞳がぎろりとこちらを見下ろした。
    はっと気付いて、近場のベッドに飛び乗り、天井へと手を伸ばした。
    「おいで」
    そう声をかけた後、伸ばした手に絡みつくよう飛び降りてきた、一匹の蛇。全長は1メートルに至るかどうか、胴回りは直径数センチほどの、小柄な蛇だ。
    蛇を受け止め、そのまま少しだけ足早に部屋を出る。
    廊下に出ると、蛇は手に持ったままの箱に絡みつき、頭のみをこちらに向けた。
    蛇に向かってどうにかぎこちない顔を作って見せる。
    「ありがとう」
    そう告げながらもう片方の手の指を近づけると、蛇は一度だけ舌をちろりと出して、その表面を舐めた。
    そのまま蛇の体は急激にしぼみ、一度だけタイヤがパンクするかのような、鋭くて短い煙を吐いて完全に潰れると、箱をがんじがらめに縛り上げるテープのような封印に変わった。
    そうすると決めたのは蛇自身だったが、魔術を施したのはデイビット自身だった。





    「ミスター・ブラウン。この隕石はどこで手に入れた?」
    まるで警察署の取調室のような、机と椅子以外何もない部屋に通されたと思ったら、そこに先に待っていた青年から唐突にそんなことを訊ねられた。
    隕石。それは確かにあの時持ち歩いていた代物だ。偽物かどうか怪しいブツだったが、知人にオカルト好きがいて、そいつに売りつけてやろうかと思い引き取ったものだっった。
    「そ、それは……」
    口ごもるも、事前にここまで案内してくれた女に、可能な限り簡潔なコミュニケーションを心がけたほうがいいと言われた言葉が脳裏に過ぎる。
    ますます取り調べみたいだな、と思ったものだが、青年を前にしたらその意味もなんとなく理解ができた。
    机の上には灰皿とボイスレコーダー、そして例の隕石を入れていた箱がある。その箱は蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされたような、おかしなラッピングが追加されていた。
    喫煙を続けながら、青年はじっとこちらを見つめてくる。その目が何故か恐ろしい。瞬き一つしないで、ただじっとこちらを見つめてくる紫の目。それを見返していると、何故だか息苦しくなる。
    「これは、酔っぱらっていたからよく覚えていないが、最近出土した遺跡の中にあった隕石だって話で」
    「盗品か?」
    「ち、違う! 骨董品屋で買ったんだ、そんなに高くはなかった」
    嘘は言っていなかった。そろそろハロウィンも近い時期だからと、珍しくて馬鹿らしいパーティの余興になりそうなものを探して入った店。そこで買い取った。
    店自体はよく行く飲み屋への近道、少しばかり治安の悪い路地裏にあるのを随分前から知っていたが、立ち入ったのはその日が初めてだった。
    「店の名前と住所は?」
    訊ねられたままを答えると、青年はそっくり店名と住所を復唱し、一度煙草を吹かす。
    「その店についてはこちらで調べをつけよう。ミスター、それよりも重大な話だ」
    青年はそう前置きし、煙草の灰を手慣れた様子で落とす。
    「現在、この隕石を起点に、あらゆる次元の綻びが収束しつつある。この活動が始まったタイミングが、偶然あのホテルの部屋に到着した瞬間だった。部屋に入る前、何か体に違和感を覚えなかったか?」
    「違和感……? いや、何も……」
    「そうか。それならそれでいい。次元の綻びの収束は今抑え込んでいるが、その現象を元通りに修復することは不可能だ。このままだと次元が重なり過ぎたことによる圧壊を起こす」
    青年が語る言葉は何一つ頭の中に浸透してこない。
    しかし、彼の言葉は止まらなかった。
    「圧壊を完全に防ぐことはできない。だが、それによる被害を最小限に抑えることは可能だ。今からそれを行う。それに際し、ミスター・ブラウン。あなたの体も影響を受けるだろう。その説明だけは先にしておく」
    「か……、体に影響?」
    「この隕石が呼び出した次元の綻びは、あなたの体の中に回路を作った。転移ゲート、同一存在のみが通過する通り道だ。ドッペルゲンガーの如き存在が増減したように見えたのは、次元同士が近づきすぎたことで生じた歪みの影響だと思われるが、それは後で研究する」
    「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺の、俺の体が、なんだって?」
    「世界とは多重かつ複数に並行しているという考えのもと、同一存在はその数だけ無数にあるとする」
    そう言いながら、青年はおもむろに煙草の箱を取り出し、中身を机の上に全部ぶちまける。その一本一本を几帳面に並べながら言葉を続けた。
    「時間は基準として、過去から未来へ一色線に進む。その進捗すら異なることはあるが、逆行や蛇行することはない。一歩の線が、それぞれ適度な感覚を保って存在しているイメージだ」
    青年はいくつかの煙草を適当に半分にちぎりつつ、全て等間隔に並べて見せた。つまり、次元だのなんだののイメージを再現してみせたらしい。
    「圧壊とは、これが複数重なった末、自重に耐えられなくて潰れてしまう現象だ」
    そう言いながら、青年の手が全ての煙草をひとまとめにし、手の中でぐしゃりと握りつぶす。潰れた煙草をそのまま灰皿の中に捨て、なおも言葉は続いた。
    「複数重なる原因が、あなたとこの隕石にある。ひとまずあなたの体内に出来た回路をこの隕石に転写するが、それであなた自身の体が圧壊しないとは言い切れない」
    「な、潰れる……俺の体が、そ、そういうことか?」
    「ああ。ゲートは扉を閉めて鍵をかけるようにはいかない。何ごともなくこの世界から切り離そうとすれば、回路そのものが圧壊するのまでは防げない」
    「つ、潰れるだって、冗談じゃない! そ、そんなこと……!」
    「すまないが、他に方法はない。だから先に話した。それにこのままでもいずれ、圧壊現象は必ず起こる。それだけは避けられない」
    そう言うと、青年が箱に手をかざした。蜘蛛の糸のようなラッピングがするすると解けると同時に、箱がひとりでにがたがたと震えだす。その不気味な光景に息を飲むと、青年が今度はこちらに手をかざしてきた。
    「多岐に繋がってしまった回路を解いて、一つに戻す。その際、体に異常な負荷がかかる。そういう意味での、潰れるだ」
    「ま、待ってくれ! そんな、急に言われても!」
    青年の手のひらに、何かしらの紋様が浮かぶ。箱の震えがより一層激しくなる。
    そして一瞬、何か光のような、眩しさで視界が全部埋め尽くされた。
    最後に、煩いくらいにがたがたと震えていた箱の音がぴたりと止まると、中で何かがぱきんと割れる音だけがした。





    同一存在を並行世界ごと重ねる。ただの人間一人分とはいえ、それが無数に重なれば、圧壊現象を引き起こすことも可能だ。
    世界とはそれだけ無数に存在する。その可能性を垣間見たこと自体は興味深いが、その性質を逆手にとって危険に晒す、これはなかなかに悪意のある遺物だ。
    そう思いながらかざしてある手をどけると、ぽかんとした表情のブラウン氏の顔が見える。
    ブラウン氏はしばらく呆然としていたが、はっと気付いたように意識を取り戻すと、驚愕の表情で辺りを見渡した。
    「気分はどうですか」
    そう声をかけてみると、肩がびくりと跳ねる。ブラウン氏はわけがわからないといった様子で、おずおずと訊ねてきた。
    「あ……あの、ここは一体……」
    この反応を見て、どこかにチェンジリングされていた『本来の彼』が、ようやくここに戻ってきたのかもしれない、と仮説を立てる。
    勿論、ブラウン氏を起点にあらゆる世界の『ブラウン氏』の存在が重なり続けたのも事実だが、でたらめに重なり過ぎて存在があちこちにチェンジリングしてしまっていたのだろう。増減のギミックの種明かしだ。
    ともあれ、回路が閉じているのは確認できている。隕石も回路も失ったのは痛手だが、世界毎沈んでしまうよりはマシだと、学院長のお墨付きも貰っている。
    あとはこの隕石の出所を調べつつ、類似品がないか、それを悪意を持って流しているのは誰か、突き止めるだけだ。
    ボイスレコーダーを拾い上げながら、口元に笑みを浮かべて見せる。
    「それは知らないほうがいい」


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    ant_sub_borw

    DOODLEmhykの各国の魔法使いたちがFate世界のアライメントを持ったらどうなるだろう、という妄想メモを単にまとめたものです(無駄に長い)
    キャラの解釈を深めるためという意味でも考えたものです
    あくまで独断と偏見、未履修のエピソードもある中での選定です
    異論は認めます。
    賢者の魔法使いたちの属性についての考察(妄想)・アライメントとは?
    一言でそのキャラクターの性格、人格、価値観、信念や信条を表す属性と、そのキャラクターが生前どんな偉業を成したか、どんな人生あるいは物語を歩んだかなどを考慮したうえで振り分けられるパラメーターのうちの一つ。
    細かく説明すると非常に長くなるので割愛。
    『善』とつくからいいひと、『悪』とつくから悪人、のような単純な指針ではないことだけは確かです。

    ・アライメントの組み合わせ
    『秩序』『中立』『混沌』/『善』『中庸』『悪』の組み合わせで9パターンあります。
    今回はさらに『天』『地』『人』『星』も加えました。
    おおまかに『天』は神様、それに連なるもの。『地』は各国に根付いた物語に出てくるような英雄。『人』は生前に人でありながらすばらしい才能や功績を認められた人物。『星』は人類が作り上げた歴史の中でその技術や知識といったものに大きな進歩を与えるような功績を持ったもの。
    19391

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