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    青汁苦瓜

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    青汁苦瓜

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    金瘡小草の続きかつ、パッチ6.0までのネタバレがあります。
    両片思いが両思いになるアイ光♂。

    ##アイ光♂

    紫馬簾菊/アイ光♂ まだ見ぬ未知の世界への好奇心からか、一所ひとところにとどまらず、世界を股にかけて冒険の旅を続ける冒険者に、アイメリクは眩しさと羨ましさの混ざった憧憬を抱いている自覚はあった。そこに比較的早い段階で恋慕が加わった事にも。
     ただ、その想いを告げはしなかった。自身の想いを伝える事よりも、自由の翼を持つ冒険者の話を伝え聞いたり、欲を言えばその姿を見せてくれさえすれば、それで良かったのだ。
     だが、かの防衛戦線で冒険者が意識を失った事で、その考えは改められる事になる。当時、暁の面々が原因不明の昏睡状態に陥る事態が発生しており、例に漏れず冒険者も度々頭に響く声によって意識を失いかけていた。折悪くゼノスアシエンとの戦闘中にそれが起こり、あわや命が散らされるところをエスティニアンが救い出し、九死に一生を得る。
     が、イシュガルド陣営へ運ばれた冒険者の、普段の元気な姿とは打って変わってぐったりと力無く横たわる姿に、血の気がひいたのは記憶に新しい。
     あらゆる生命は必ずいつか死ぬ。それは自然の摂理であり、避けられないものだという事は、アイメリク自身痛いほど身に染みて分かっていた。だからこそ、その想いを引き継ぎ、未来へ繋げていくのは、道を勝ち得た者の責務だと考えている。
     無論その考えは変わる事はないが、英雄とまで呼ばれる程の実力の持ち主である冒険者も、この世界に生きる人であり、何かのきっかけで命を落とす事だってあり得る。そんな当たり前の事実を実感し、途端に恐ろしくなった。もしこのまま目覚めなければどうなるのかと、失う恐怖がひたひたと全身を這いずり回る。
     フォルタン家の新人見習いから、冒険者が目覚めたと報告があった時は、無我夢中で病室に駆けつけた。新人見習いの言葉通り、ベッドの上で上半身を起こし、少し疲労の残る顔つきで辺りを見渡した後、こちらに気が付いたようで、神妙そうな眼でじっと見つめている。
     良かった。生きていてくれた。それだけの事実で胸が一杯になると同時に、自由の翼を持ちつつも人の為にと駆け回るが故に、ふとした瞬間に命の灯火が消えてしまいそうな、そんな危うさを孕んでいるこの人を少しでも繋ぎ止めておきたい。そういった気持ちから、必ず自身の想いを伝えようと、アイメリクの中である種の決意が芽生えた。


     イシュガルドの気候は、菓子作りをするのに丁度良いと冒険者は考えているが、それは室内で作る場合であって、外ではそうはいかない。
     例えば、暑さでバターが溶けて生地が柔らかくなってしまう心配はないが、逆に、寒冷地が故に材料が冷たいままであり、バターを常温に戻す工程や混ぜる工程の際は一工夫必要になる。
     最初はチャイに合うよう、軽い口当たりの絞り出しクッキーを作ろうと考えたのだが、作業環境や生地の扱いが難しいという点で、今回作るクッキーは丸めて切るタイプの比較的生地の管理がしやすいものにした。冒険者が見本を作った後に、エル・トゥに同じものを作ってもらうためでもある。
     珍しく雪のやんだ昼時。以前と同じ屋台の下で、冒険者はボウルの下に温かい濡れ布巾を敷き、バターと砂糖を木べらですり混ぜていた。下からの熱のおかげで、バターは冷えることがなく柔らかいままだ。
     程よく滑らかになったそれに、卵黄を混ぜ入れ、分離せず綺麗に混ざったのを確認し、そばで観察しているエル・トゥが見やすいようにボウルを持ち上げる。

    「バターと卵は分離しやすいから、必ず両方とも常温……えっと、持ったら冷たくも熱くもない状態にしてから混ぜると良いよ」
    「バターをスプーンで押すとへこむくらいでちゅよね?」
    「そうそれ。前回教えた事をしっかり覚えてるね」

     流石だよと褒めれば、エル・トゥはどこか誇らしげにふふんと翼を強く羽ばたかせた。ボウルを濡れ布巾の上に戻し、予め振るった小麦粉を入れ、切るように混ぜる。徐々にポロポロとしたものが一纏めになり、粉っぽさのない綺麗なクリームイエローの生地を棒状に成形し、清潔な綿の布で包む。一度生地を休ませる事で、サクサクとした食感に焼きあがるからだ。

    「大体一時間くらい休ませたら、温めておいた石窯かオーブンに入れて焼くと出来上がるよ」
    「パイ生地の時もそうでちたが、お菓子作りは大変でちゅね?」
    「その分美味しいものが出来上がるから、楽しくて好きだなぁ」
    「ええ、ええ、それはもう知っていまちゅわ!」

     冒険者に促されるまま、エル・トゥもクッキー生地を作り始める。竜族用に作られた調理器具を扱い、先程見ていたようにバターと砂糖をすり混ぜる。ボウルが動かないよう、下に敷いた濡れ布巾とは別に、丸めた布巾をボウルの底を囲むように咬ませる。
     専用の調理器具はあれど、根本的に人と竜とでは体の作りが違うため、どうしてもエル・トゥだけでは難しい工程は、冒険者が手助けをする。
     ああでもないこうでもないと、子竜と冒険者が楽しげに会話をしながら菓子作りをする様子を、簡素な作りの椅子に腰掛けたアイメリクは、穏やかな眼差しで眺めていた。
     かつて、千年にも渡る長い時の中で、人と竜が争いを続けていたこの国は、再び融和への道を歩むことになり、蜜月の時を共にすることが出来るようになった。その象徴とも言えるように、子竜が人の物作りへと興味を示し、こうして人と関わる光景を、実際に目の当たりに出来たのはとても喜ばしい事なのだ。嬉しくないはずがない。


     十分に休ませた生地を切り分け、後は焼くのみというところで、グウゥゥと気の抜けるほど大きな音が聞こえる。どうやら音の発生源は冒険者のようで、気恥ずかしげに頬を赤らめ、白状するかのようにヨロヨロと片手を挙げる。

    「お腹空いちゃったので、軽く何か作りますね……」

     そう言いながら、生地を乗せた天板を石窯の中へ入れ、扉を閉めたと思えば、食材を入れている袋を開き、ジャイアントパンプキンやキューカンバー、トマトとガーリックを取り出す。土汚れを落とした野菜を小さめに切り、備え付けのキッチンに火をつける。手鍋を網の上に乗せ、ペリラオイルとガーリック、香辛料を入れ、熱が通り食欲のそそる香りがしてきたところでジャイアントパンプキンを入れる。火の通りづらい食材から入れ、手早く炒める手捌きに無駄がない。最後にトマトと少量の水を入れ、塩を振りかけ蓋をする。
     調理師としても名が知れ渡っているのは知っていたが、素人目からでも分かるように、動作の一つ一つが洗練されていた。
     そうしているうちに、石窯から甘く香ばしい香りが漂う。厚手のミトンを着け、石窯の扉を開けば更に香りが強まり、天板の上の生地はすっかり綺麗な黄金色に焼きあがっていた。綺麗な円形とやや形の崩れた楕円形のそれをトングで掴み、製菓用の網の上に乗せ粗熱を冷ます。
     キッチンの手鍋からグツグツと煮える音が聞こえ、冒険者は足速に駆け寄る。蓋を開ければ蒸気がモワリと上がり、それと同時にガーリックと香辛料の香りが広がって胃をくすぐるが、それに釣られるように冒険者の腹から一際大きく空腹を訴える音が響き渡る。

    「くっ……ふふ…ふ……」
    「……そんな笑うこと無いじゃないですか」

     堪え切れないかのように息を噴き出し、肩を震わすアイメリクに、冒険者はどこか拗ねたように眉を顰める。
     あたくちも食べたいでち!そんな空気など知らないとでも言うように、手鍋の料理が気になっているエル・トゥが声を上げれば、冒険者は勿論とでも言うように器を三人分用意し、未だ湯気が立ち上るそれを盛り付け、食べやすいように子竜の分を作業台の上に置く。
     もう二つを両手に持ち、片方を美丈夫の目の前に差し出せば、すまないと軽く咳払いをしつつ受け取る。木製の器の中は、香辛料の赤みとすっかり煮崩れたトマトの鮮やかな赤が広がり、煮込まれた野菜を彩っていた。
     気恥ずかしさからか返答は頷くだけに留めた冒険者は、簡素な作りの椅子に腰掛け、やや急くように器の中の料理を口に運ぶ。それに倣うように子竜と美丈夫も口に運べば、子竜は嬉しそうに目を煌かせ、美丈夫はパチクリと瞼を瞬かせた。パンプキンのねっとりとした甘さ、キューカンバーの淡白な風味とトマトの酸味が複雑に絡み合ったそれを、塩と香辛料の程よい辛味が纏め上げている。

    「これはまた……美味しいな」
    「お口にあったようで何よりです」
    「店を構える予定は?」
    「ははは……その予定はないですけど、似たような事をレストランビスマルクの方達にも言われました」

     笑みを溢しながら、匙を口に運ぶ手は止めない。旅暮らしの影響か、掻き込む動作は確かに貴族のテーブルマナーでは良い顔をされないが、ここは蒼天街の一角でありそういった礼儀は不要だ。
    アイメリク自身も騎士たちと食事を共にする事は常であり、野営や急ぎの際はよくそういう所作になる為、別段気には留めない。むしろ、いつかの食事会の時よりも遥かに緊張が解れた状態で、美味しいものを食べた時特有の緩んだ表情を見られるのはとても嬉しい事だ。好いた相手の色んな表情を見たいという欲求はごく自然なものであろう。
     程よく腹を満たした事で余裕が生まれたのか、冒険者は静かに立ち上がり、空いた器を回収し流し台へ置く。先に流し台へ置いていた手鍋の汚れをしっかりと洗い流し、半分ほどの量の水を入れ、再びキッチンの網の上に置き、下の薪に火をつける。
     沸騰するまでの間に器を洗うらしい。流石に見ているだけでは申し訳ないと、せめて拭く作業をやらせてもらえないかと伝えれば、冒険者は面食らったように数度瞼を瞬かせる。

    「皿拭きの経験はあるんですか?」
    「これでも騎士団の新入りの頃はやっていたさ」
    「なるほど……ではお願いしますね」

     事情を知らない者がこの光景を見たらどう思うだろうか。神殿騎士団総長であり今は貴族院議長でもあるアイメリクに皿拭きをさせるなどと、不敬と言われても仕方のない事だとは思いつつも、この美丈夫が一度言った事は曲げない事を知っているため、仕方無いと冒険者は少し眉尻を下げ、困ったように笑みを浮かべる。


     あっという間に皿洗いは終わり、拭いた皿はエル・トゥが元の場所へ片付け、アイメリクは再び椅子へと腰掛ける。沸騰した湯をカップへ注ぎ、残りの湯に茶葉とシナモン、ペパーミントを投入する。グツグツと煮出し色の濃くなったそこへミルクを入れれば、乳白色と濃い赤茶色とが混ざり合い、淡い枯色になったそれに、バーチシロップをスプーン三匙ほど。クッキーと合わせて飲むのであれば、少し甘みを感じる程度が丁度良いだろう。
     すっかり粗熱の取れたクッキーを平皿へ移し、カップの中に入ったお湯を流しへ捨て、鍋の縁に沸々と気泡が湧いた辺りで手鍋を火から下ろし、茶漉しを通してカップへと注ぎ入れる。
     それぞれに行き渡ったのを確認し、どうぞと勧めるように冒険者が手を差し出したのを合図に、カップに口付ける。シナモンの甘い香りとペパーミントの爽やかな香りとが鼻腔をくすぐり、茶とミルクの濃厚な味が舌を刺激する。バーチシロップの仄かな酸味のある甘みが後味を軽くし、飲みやすく仕上がっていた。クッキーは噛んだ瞬間にほろほろと崩れ、バターの香りと強めの甘みが口内に広がる。

    「わぁ……!とっても、とっても美味しいでちゅね!」
    「やはり店を構えても良いのでは?」
    「うーん……それも楽しそうですけど……」

     一箇所に止まる事ができない性分だからなぁ。苦笑からか漏れ出たため息は、満更でもないような色を乗せていた。手に持ったカップからは、少し火傷しそうな程の熱が伝わり、冷えた手を暖める。

     ぽつぽつと会話をしながらささやかな茶会を開いていたが、すっかり皿の上のクッキーとカップの中身は空になった。そろそろお開きというところで、冒険者が立ち上がる。まだ網の上に乗せていたクッキーをトングで掴み、包みに入れる。以前と同じように、淡いピンク色の可愛らしいリボンで包みの口を閉じ、それを小さめの袋へ入れ、エル・トゥへと手渡した。

    「中に今日作ったレシピも入れておいたから、また作ってくれると嬉しいな」
    「ええ、ええ!勿論作りまちゅわ!ありがとう、エイユウ!」
    「うん、アルヴィデさんとオーディロンにもよろしく言っておいてね」
    「わかりまちた!じゃあまたね!」

     喜びを表すように宙返りをし、その勢いのまま広場へ戻っていく子竜へ手を軽く振り、小さくなる背を見送る。すっかり辺りも陽が落ち、夕焼け色に染まっていた。昼時に始めたとはいえ、時間が経つのは早いものだ。自分やエル・トゥはまだしも、書類仕事や議会で忙しいはずのアイメリクが長い間この場にいるのは大丈夫なのだろうか?
     途端に不安になった冒険者は、顔色を伺うように未だ椅子に座ったままであろう美丈夫へ視線を向けると、当の本人は緩く口端を上げこちらをじっと見つめていた。普段のあの柔らかな色を乗せたアイスブルーの瞳は、爛々とした熱を孕んでおり、目を逸らす事ができない。あのじっとりとした熱は気のせいではなかったのだと思い知らせるかのように、湿度を増している。何かを言おうとしても口からは空気しか漏れ出ず、立ち上がり、かつかつと近付いてくるその人を見つめることしか出来ない。
     不意に、大きな手が冒険者の左手を恭しく掬い上げ、静かに瞼を閉じながら顔を下へ向ける。あ、と思う頃には既に手の甲へと口付けを落とされていた。ただ触れただけのそこから、血液が燃え上がるように沸騰し、呼応するように心臓はバクバクと脈打っている。予想だにしていなかった事に、ただただ口を開閉させる冒険者に、目の前の美丈夫はうっそりと目を細め、吐息混じりに音を紡ぐ。

    「このままでは埒が開かないと思ってな」
    「……ええと……その、何が………?」
    「君の事を愛している。無論、友愛ではなく恋慕としての意味で」
    「へっ…………ぇ……ええっ!?」

     待ってほしい。まさかそんな、まるで譜や詩、物語の中でしか見ないような想いの伝え方もそうなのだが、実直過ぎるにも程がある言葉が飛び出た事にも驚いた冒険者の頭は混乱し、なんとも情けない声を上げるしか出来ない。

    「あの、お仕事は大丈夫ですか……?」

     とにかく何か言わねばと、どうにか絞り出した言葉に頭を抱えたくなった。どう考えても今の雰囲気で聞くような言葉ではないし、目の前の美丈夫もびっくりしたようで細められていたアイスブルーの瞳が大きく見開かれる。そして身を小さく屈ませ、何かを堪えるかのように体が震える。微かにくつくつとなる音から、どうやら笑いの琴線に触れたようだ。少しばかりの静寂が今はとても苦しい。
     大通りに面していないとはいえ、借りた屋台付近には住宅地がある。幸か不幸か、通りすがる人の気配はないが、見られては事だ。今すぐにでもその場を離れたい気持ちはあるが、左手を握る大きな手は、ちょっとの力では抜け出せないほどに強く握りしめてきて、ぶわりと汗が噴き出る。
     そんな、ある種の拷問のような空間の中、知ってか知らずか、アイメリクは顔を上げ、笑いを堪えきれずも唇を開く。

    「君は……ふふっ……こんな時まで私のことを心配してくれるのだな」
    「だって……その……お忙しい身じゃないですか」
    「その心配はありがたいが・・・何、大事な事に時間を割く余裕くらいはあるさ」

     先ほどの返答を聞かせてほしいのだが。爛々とした熱はそのままに、どこかこちらを心配するかのような色が混ざった瞳を真っ直ぐこちらに向けてくるものだから、もう逃げられないのだなと悟る。

    「……根無草の冒険者の身ですが、それでも良ければ」
    「勿論だとも。何より、私は君のそういうところが一等好きだからね」

     願わくば、自由の翼を持つ冒険者の止まり木くらいにはなりたい。そう思いを込めて目の前の青年を抱き締めれば、それに応えるようにおずおずと背中に腕を回し、柔らかく抱き締め返される。腕の中の温もりは、確かに今も生きている事をありありと証明しており、安堵に瞼を閉じた。

     翌日。どこからか噂を聞き付けたエマネランが、キャンプ・ドラゴンヘッドから冒険者の泊まる忘れられた騎士亭へ駆けつけたのはまた別のお話。
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