手「おはよう、ライ。」
優しい声が降ってくる。柔らかな温もりに包まれて、ふわりと自分の中に光が充ちていく感覚がする。パチリ、と目を開けていつもと同じ言葉を口にする。
「おはようございます、マスター」
大きな手で優しく抱き寄せられて額にキスを落とされる。思わずふにゃりと頬が緩む。
マスターの手は、大きくて大好き。
ぱら、ぱら、と紙を捲る音が不規則に響く。紙の端を摘んで、捲って。綺麗だな、なんて思いながらその繰り返しをじっと目で追う。
ふと、摘みかけた紙の端から手が離れて自分の手を包む。優しく絡められる指がくすぐったい。
マスターは本からは顔を上げないけど、ちょっぴり、優しく笑ってる。
マスターの手は、綺麗で大好き。
足元に積もるふわふわを掬ってはぽむぽむと積み上げて、ぎゅっぎゅっと手で固めながら形を作っていく。
「あら、上手な雪だるまですね」
声に振り向くと、マスターがサクサクと雪を踏んでにこやかに近づいてきた。
「ふふ、冷たいおてて。」
マスターの手に自分の手がぎゅっと包まれて、じんわりと指先から暖かくなる。
マスターの手は、暖かくて大好き。
「『…こうして、2人はいつまでも幸せに暮らしました。』…おしまい。」
優しい声がおしまいを告げて、ぱたんと本が閉じられる。
「…ねぇ、マスター…」
「どうしました?」
「ぼくたち、も…ずっと、しあわせ?」
「…ええ。ずっと。」
そっと布団がかけ直される。あったかい。
「もうおねむでしょう?ほら、今日は…おやすみなさい。」
優しく頬を包まれて、ふわりと落ちていく感覚がする。
「ん…おやすみ、なさい」
マスターの、手は、優しくて…
苦しい。
酸素枯渇を知らせる警告音が頭の中でぐるぐる回って痛い。
耳を塞ぎたいのに、痛いくらいに強く掴まれた手はどんなに引っ張ってもビクともしない。
どうして、どうして?
「…むらさ、き…さんっ」
手、痛いよ、ねぇ、なんで
「かひゅっ」
苦しいよ、怖いよ、死にたくな__
「おはよう、ライ。」
優しい声が降ってくる。柔らかな温もりに包まれて、ふわりと自分の中に光が充ちていく感覚がする。パチリ、と目を開けていつもと同じ言葉を口にする。
「おはようございます、マスター」
マスターの手。
世界でいちばん、大好きな手。