猫 俺の家は日が傾けば傾くほど、部屋の中にオレンジ色の光が差し込んでくる。西向きにバルコニーがあるこのアパートメントを、俺は案外気に入っていた。
「にゃあ」
「あ、あんた、また来たのぉ?」
洗濯物を取り込んでいると、いつもバルコニーにやってくる、少しばかりふくよかな灰色の猫がいる。首輪はついていないので、飼い猫なのか自由猫なのかは判別できないけれど、日当たりを求めてこの場所へやってくるのが日課になっているようだ。ご飯はもらっているのか、ちゃんとした家はあるのか……気にはなっているけれど、変なものを与えるわけにもいかないので今のところは声を掛ける程度に留まっている。
お邪魔しますよ。とでも言うように俺に向かって声を掛けてくる。そして、陽だまりの中に入って丸まって眠るのだ。フィレンツェでの生活は、毎日が慌ただしくて一日のうちのんびりしている時間もそう多くはない。その中で、ただ丸くなっている猫を見ている時間というのは、アニマルセラピーというべきか、自分の中で案外癒やしになっていたので、ペットを飼うのも悪くないと思う。
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