おやすみなさいルツ【非エロ】小ネタ 非エロルツ
気軽に書けるやつだけ
風邪をひいた神代の面倒をみる司
類司と言い張ります
「すない」
「いいから喋るな」
日頃の不摂生が祟ったのか、かなり体力ゴリラなはずの類が、風邪をひいた。
いつもの滑らかな声はなりを潜め、腫れた喉のせいでカッスカスの声を出す類の、頭の下にあるアイスノンを司は交換した。
「まあ、なんだ、ご両親が学会で不在の時に風邪をひくのは不憫だからな。座長のオレ! がしっかり看病してやろうではないか」
ドンと胸を叩く司に、類は物憂げな表情を見せた。
「ん? 何だ? 何か果物が欲しかったらお好みの形態で用意してやるぞ? 切ってもいいしすりおろしても……」
ふるふる、と類は首を横に振って、スマホにたぷたぷとメッセージを打ち込む。
『司くんにうつってしまうから、その飲み物と食べ物だけ置いてったら、帰ってもらって大丈夫だよ』
そのメッセージを見て、きゅ、と司は眉を寄せる。
そうして、類の腋に無造作に、しかし完璧な角度で突っ込んだ体温計の電子音を聞いて、ずぼっと取り出した。
「……37.8℃。寝言は寝てから言うんだな。まずその汗をかいた服を着替える!!」
どこから持ってきたのか類のルームウェアをバッサ! と拡げると、あれよあれよというまに類の服を脱がせて、着替えさせてしまった。
異常にテキパキした動作で簡易のおかゆと水分を用意して、あーん、はいあーん、と介護職員のように類に食べさせていく。
あっけにとられた類が脳死状態で口をパクパクしている間におかゆはなくなり、喉のお薬(錠剤)をゴクンと飲ませられる。
類が何か言う間もなく、ベッドにパタンと倒されて、お布団でマフンと包み込まれるまで、わずか30分。
いつもは饒舌な類が、口をぱくぱくさせながらぎこちなく司を見上げた。
「余計なことを考えるんじゃないぞ、お前は頭を回しすぎてるんだ。眠れるまでオレが即興のお話を聞かせてやろう」
ぽふ、ぽふ、ぽふ、と類を包み込んだお布団をリズミカルにあやすように叩く。
「昔むかしあるところに、頭が良すぎて異端とされた少年が両親を亡くし、村からも追いやられ、ぼろぼろの体で森をさまよっていました――」
「つ、司くん、」
「気にするな類。お前が寝ても、最後までちゃんとお話をしてやるから」
いつもからは想像しがたいほどに、柔らかい声で司が語り掛ける。
類はまぶしそうに目を細めると、じゅわっと熱くなった目元を隠すように目を閉じた。
頼んでも逃げない人。
何も考えず手を伸ばせる人。
(あ)
(本当にずっと、一緒にいたい、な)
あんまり考えると本当に涙が出てしまいそうだったので、類は司の声に集中して、ぎゅっと布団を握った。
司の声は波のようだった。
近くに、遠くに、さざめくようにやさしく撫でてくる。
その温度が心地よくて、この居心地が良すぎて、類はあっけなく意識を波にゆらん、と委ねた。
司くん、聞いて、僕ね。
話したいことがたくさんあって。
全部聞いてくれるのかい? ほんとうに?
うれしいなあ、何から話そう。
あのね――
「……お、寝たか」
朗々と即興のお話を聞かせていた司は、すぐ近くから聞こえてきた規則的な寝息に、ふっと微笑んだ。
ずいぶん緩んだ表情で寝ている。
普段の大人びた様子よりも、あどけない寝顔がそこにあった。
「……約束だからな。幕が下りるまで話すぞ」
司は、ラグに腰を下ろしたまま、類が眠るベッドに軽く背を預ける。
この話はハッピーエンド。だから安心して聞くといい。
話の続きを、少し落とした声のトーンで話していく。
外がシンとした夜の藍色に包まれて、時計の音がひとりで舞台に出てくる頃。
類のベッドに頭を預けたまま、司もすう、すう、と寝入っていた。
かち、こち、かち、こち
二人の意識はおやすみの揺り籠に、ゆらん、ゆらん、と優しく揺られて、夜の波に乗っていった。
<おやすみなさい>