終煙怪奇譚:「虚実」目をぱちぱちと瞬かす。
疲れているのかと思った。気のせいなのかと思った。幻覚でも見ているのかと思った。
部屋の隅、言いようもないくらい真黒いそれがじっと此方を見てくる。真黒なのに、なぜかこっちを見てると認識できて。しかもそれがじりじりとこっちに迫り来ている気がして。
だからもう眠る事にした。きっと気のせいなのだから。仕事続きで自分は疲れているからきっとそれが影響しているのだ。
「あ、よかった。やっぱり気のせいだったのか」
休日にそんな出来事があったのだと、同僚が言ってきたのだ。休憩時間も終わりかけ、さっきまで話のネタにと揚々と話していた語り手が、飲み物の缶を捨ててその場を立ち去っていく。
「……なぁ、あいつの後ろの黒いの何?」
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