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    chinohen

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    chinohen

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    ロキとメビウスがパイを食べてお話ししてるだけ。こんな風に平和な二人がいて欲しいですよね……

    ロキとメビウスTVA職員が気軽に食べられるデザートは、あの部屋に常に用意されているキーラムパイだけだった。ロキが知らないだけなのかもしれないが、メビウスが気晴らしに「パイを食べよう」と言って備え付けられたボックスから取り出すのは人工的な緑色のフィリングに白いホイップが乗ったパイのみだった。
    一度ロキもメビウスと一緒に食べた事があったが、一口食べただけで二度と口に入れたいとは思えず、フォークでつついては上に乗っていたホイップだけを掬い取って食べているふりをしてやり過ごしたくらいだった。だが、メビウスはとても気に入っているようでニコニコと笑顔を浮かべては美味そうに口に運んでいた。

    「お前が気に入っているパイ。あれは何という名前なんだ?」
    ある日、また同じようにメビウスが「パイを食べに行こう」といい、リフレッシュルームへと二人で歩いていた時だった。ふと、ロキはあれだけ何度も目の前にしていたのに、その食べ物の名前すら知らなかった事に気がついた。別に知らなくても何も問題はないのだが、あの美味くないのにメビウスがやけに食べたがるあの緑色の妙な菓子を少し知りたいと思った。それはあのパイ自体にではなく、メビウスという少し変わった男を知りたいと思ったからだった。
    ただの人間風情でしかないメビウスが、ロキ自身気が付かぬうちにロキの心の中に入り込んでいた。メビウスはロキの過去も経験の出来ない未来もなにもかもを知っていると言うのに、自分はメビウスの事をほとんど知らない。それはこうやって相棒としているのに不公平なのではないかと、ロキは感じていた。
    リフレッシュルームに続く狭い通路を二人で歩きながら、メビウスは自分の後ろを歩くロキを振り返り少しだけ呆れたような顔をして見せた。
    「僕が前にも言っていたのに、覚えていなかったのかい?まあ君は興味のない事は記憶に留めたりしなさそうだものな」
    「その通りだ。だが、今は興味がわいた。だから教えてくれ、それは何というんだ?」
    「これはキーライムパイというんだよ。覚えておいて」
    オレンジ色のライトが照らすリフレッシュルームの壁にずらりと並んだボックスの一つからメビウスはパイを二つ取り出して、一つをロキの目の前に差し出す。ロキが何も言わずにそれを受け取るのを見てからメビウスは手近な椅子に腰を下ろした。
    「キーライムなら知っている。だが、これはキーライムの味など全くしないだろ」
    メビウスの向かいの椅子に座ったロキは、さっそくフォークで一つ掬ってパイを食べ始めているメビウスに言う。もぐもぐと口を動かしながら、ロキの言葉にメビウスは反論する。
    「ちゃんとしているじゃないか。ほんのり酸っぱいだろ?これがキーライムの味じゃないか」
    「いや、これは人工甘味料の味だ。本物じゃない」
    「なんだよ君も気に入ってくれてるんだと思っていたのに」
    メビウスの穏やかな目がほんの少しだけ悲しそうに歪んだのを見て、ロキは自分の言ってしまった言葉がメビウスを不用意に傷つけてしまったと後悔した。
    「すまない。実を言うと、私はあまり、その、気に入ってはいなかったんだ。お前があまりにも美味そうに食べるものだから、お前を傷つけたくなくて嘘を言った」
    そう言ってばつが悪そうに視線をそらしたロキの腕にメビウスの手がそっと触れた。
    「ありがとう。僕を気遣ってくれた君の優しさに感謝するよ」
    まるで父親が息子を見るような、愛情のこもった優しいまなざしでメビウスはロキを見つめていた。思ってもいなかったメビウスの反応に、ロキは頬が少し熱くなるのを感じた。
    「私だってそのくらいはする」
    「そうか。それでも、僕は嬉しいよロキ」
    メビウスは優しい男だという事はこれまでの付き合いでロキも随分と知っていた。だが、こうやってその優しさを面と向かって自分に向けられると、嬉しさと同時に気恥ずかしさがロキの心をくすぐった。
    「ああ、わかったわかった。だがな、メビウス。私はこのパイ自体を気に入ってはいなくとも、お前と一緒にこうやってパイを食べる事は気に入っているんだぞ」
    「そうなのか?」
    「ああ、そうだ。だから、今度はもっとまともなパイを食べよう。TVAではこれしか食べられないのか?」
    「そうだな、ここではこれしか出てくるのを見た事がないかも」
    「なんだ、ここの人間は美食というものを知らないのか」
    「そもそも、娯楽らしいものが少ないからね。ここだって福利厚生の一環でしかないわけだし」
    そう言うと、メビウスはまた一口キーライムパイを口に運んだ。
    「そうだな。食堂で出る食事もろくなもんじゃないしな」
    「僕は満足しているよ」
    「お前はそうだろうが、私は違う。タイムパッドがあるんだ、好きな時間の好きな場所に行ってこれよりももっと美味い食事を持ってくればいい」
    「TVA内に持ち込みは出来ないよ。すべて報告して提出しないと」
    「じゃあ持ち込みなんてせず、その場で食べてしまえばいい」
    「まあ、それなら規則違反にはならないかな」
    もぐもぐと口を動かしながら、メビウスは視線を左上に向けてロキの提案がTVAの規則上問題ないかを考えていた。ロキはメビウスの言葉を聞いて、パンッと手を一つ叩いた。
    「じゃあ食べに行こう!メビウス、タイムパッドでは地球以外にも行けるのか?」
    「ああ、行ける」
    ロキはメビウスのその言葉を聞いて「素晴らしい!」と言って腕を大きく広げて見せた。
    「ではアスガルドへ行こう。あそこには美味い食事がある。お前にも食べさせてやるぞ」
    「変な事はするんじゃないぞ?」
    「当たり前だ。今更お前やTVAを出し抜こうとは考えていない」
    「そうか、よしじゃあ今度行ってみよう」
    皿の上のキーラムパイをすべて食べ終えたメビウスがそういうと、ロキは軽く首を振った。
    「メビウス、善は急げだ。今から行こう」
    「今からかい?たった今パイを食べたばかりだ」
    「いいだろう?なあメビウス、私はお前とこうやってTVAでこのパイを食べているのも好きだが、好きな場所で好きなものをお前と食べる方がもっと好きだ」
    立ち上がったロキはためらうメビウスの手を取り「さあ、行くぞ!」と引っ張り上げると、手をつないだままいそいそとリフレッシュルームを出て行った。
    「なあロキ、本当に行くのか?」
    「ああそうだ。お前に資料としてじゃない、私の故郷をその目で見てもらいたいしな」
    そう言ったロキは自分でも気が付かない内に、自然と笑みがあふれていた。メビウスを知りたいという欲求と同じだけ、自分をもっと知って欲しい。決して口にする事はないが、ロキの心の奥底にある願望が自然と歩みを早くさせる。アスガルドのどこへ行こうか、ロキはメビウスの笑顔と懐かしい故郷を同時に思い浮かべていた。

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    chinohen

    DOODLES2の5話でロキの本心をシルヴィが引き出した、あのシーンがもし続いていたらな捏造。ロキメビのつもりです。メビウスを愛おしいと思うロキと、話を聞くシルヴィ。短いのとちゃんと読み返してないのですみません。
    ロキ→メビウス流れてくる昔のロックミュージック、ビリヤードの球が弾ける音、昔のゲーム機から恐ろしそうな声が聞こえてくる。アンティークと呼ぶにはまだ若い、一昔前のものに囲まれているバーの中で、シルヴィはバーボンをワンショット一気に飲み干してからバーテンダーに「もう一杯もらえる?」と言った。
    「それで、詳しく聞かせてよ」
    隣のスツールに腰掛けて項垂れているロキに好奇心一杯に目を輝かせながらシルヴィは言った。TVAを救わねば、とシルヴィの前に現れたロキに何度もやり直しをさせて何度目かにようやく「友達を取り戻したい。独りは嫌だ」と本心を引き出したシルヴィは、さらに深い本心を聞き出したくてうずうずしていた。シルヴィにとってはロキの言う崩壊しかけているTVAの行く末などどうでも良く、ただ別な世界の自分がここまで言い切った相手について知りたくて仕方がなかった。チラリとロキはシルヴィへ視線を向けたが「今はそれどころじゃない」と言って突っぱね、立ちあがろうとした。だがシルヴィはそれを許さずにロキの腕を掴んで「今だから、だって」と、そのままスツールに引きとどめる。
    2023

    chinohen

    DOODLEグランツーリスモの映画のやつです。ドバイのレースの夜にジャックとダニーがお話してる、こんな夜があったのならなifなやつで。二人がヤンについて話してるだけで、特に何も起きません。あと、無駄に長くなり終わらせられなかったので最後の方はグダグダしてるのと、ちゃんと読み直してないので適当なところは見逃してください。
    用意された豪華なホテルの一室でジャックはミニバーの中にビールがあるのを見つけると、それとグラスを手に取り窓のそばに据え置かれたテーブルへ並べた。窓からは異世界のように見えるドバイの夜景が見下ろせる。椅子に腰掛けて外を眺めながら冷えたビールのプルタブを引き、ジャックは中身をグラスへと注いだ。いつもなら缶に直接口をつけて飲んでしまうが、今夜はめでたい夜だ。先ほどまでヤンが見事に日産からの要求に応えライセンス獲得を達成できた祝いにと、ホテルのバーでパーティが催されていた。
    レース主催者が手筈を整えていたようで、ヤンやジャックのチームだけでなくどこから現れたのかドバイのカーレース好きの金持ちやその取り巻き達、明らかにこの国の人間ではないインフルエンサー、モデルかなにかだろう露出の多い着飾った女達、その他もろもろの得体の知れない人間達がその場で音楽と酒とヤンが引き寄せる「勝者の空気」を求めて薄暗い部屋の中で蠢いていた。
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