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    esukiyu3

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    ハロウィンかきたかったんですけど、オチが行方不明になりました……

    #狂聡
    madGenius

    トリックオアトリート「俺な、聡実くんとコスプレエッチしたいんやけど」
     狂児がそう言ったとき、聡実はちょうど狂児が持ってきた高そうなココアをマグカップで練っていたところだった。
    (ココアって練ると美味しくなる言うけど、ほんまなんやろか?)
     半信半疑、それでもせっかくのココアなんだから美味しい方がいいだろうと、ココアをねりねり、ねりねりしていたときに、四畳半の部屋の中で狂児がそんなことを切り出したのだ。
     聡実はココアを練りながら狂児に問う。
    「なんでコスプレエッチ?」
    「もうすぐハロウィンやから」
     すぐに狂児は答えた。
    「どんなの僕に着せたいん?」
    「こう、露出の多そうなやつやな」
    「え、僕、女やないんやけど。乳ないで」
    「別に乳なんていいねん。聡実くんのそのスラッとした首とか、握ったら折れそうな腕とか、めっちゃ舐めまわしたいんよ」
     聡実はココアを練っていた手を止めて、じっと狂児を見た。
    「なんちゃって」と狂児が言うのを待っていたのだが、そう言う様子はない。
     狂児は本気のようだ。
     聡実はため息をついて、またココアを練り始める。砂糖を加えた。
    「あのな、狂児さん」
    「うん」
    (うんてなんや、うんて)
     子供みたいに返事をする狂児は、どうやら聡実の返事を待っているようだった。
    (え、僕、狂児さんとコスプレエッチをするかどうか返事せなあかんの?)
     驚きで言葉も出ない。
     なのに、狂児はソワソワとしながら、聡実に一心に期待の目を向けている。
    「あのな、狂児さん」
     もう一度、聡実は言った。
    「僕たち、つきおうてないよな?」
    「ないな」
    「なんでそれで僕とコスプレエッチしたい言おうと思った?」
    「ハロウィンやから!」
     自信満々に答えられて、なんと返していいのか分からない。
     夏前まではもう少し互いに手探りだった気がするのだが、このごろ、狂児は明け透けに自分への感情をむき出しにしてくる。
     彼の中で何かしらの劇的な変化があったのかも知れない。だが、その変化がいつ起きたのか聡実には分からなかったが。
    「あのな、狂児さん」
     もう一度、本当にもう一度、聡実は言った。
    「エッチするまえにすることあるやろ?」
    「大丈夫や。ゴムもローションも買うてきた。あと、聡実くんに着せたい服も」
    「え、準備万端とかこわ。――そうやない。僕はセフレになるつもりはないんやけど」
    「俺も聡実くんをセフレにするつもりないけど?」
     おかしなこと言うなあ、聡実くんは――と狂児が続けていったので、聡実はココアをまた練り始めた。
    「なあ、聡実くん」
    「……」
    「俺な、聡実くんとコスプレエッチしたいんやけど」
    「無視したのに、ぶりかえすその胆力、すごいな」
    「ヤクザやからね!」
     ドヤ顔の圧が強い。
    「ハロウィンやからしたいんやな?」
    「うん、そう」
    「なら、ハロウィンにはなんていうんや、狂児さん」
    「それぐらい、知っとるよ。トリックオアトリートな」
    「はい、トリート」
     すかさず開いていたその口にココアのスプーンを突っ込む。
    「んぐ」
    「悪戯できんくて残念やったね」
     聡実はスプーンは狂児に預けて、台所にお湯を入れに行った。
     先程沸かしたヤカンのお湯をそのままマグカップに注ぐと、フワリとココアの甘い匂いがする。ふう、と息を吹いてココアに口をつけると、ほんのり苦いが甘い味が咥内に広がる。
    「えー、聡実くん、コスプレえっちしないのぉ?」
    「大きい声で変なこと言うてんなや。出禁にすんぞ」
     そう言うと、狂児はおとなしく黙った。
     しかし、次には何を思ったのか、狂児はすくりと立ち上がるとニコニコしながら台所にやってくる。
     無駄にニコニコしながら歩いてくるので、圧が強い。聡実は思わず身構えた。
    「ねえ、聡実くん」
     いつもより半音高い猫なで声にぞくりとする。警報がけたたましく脳内で鳴り出す。
     ああまずいな、と思った時には、流し台と狂児の間に挟まれて、逃げ場がなくなっていた。
     それほど身長差はないはずなのに身体の厚みがまったく違う。覆い被されるように両腕が聡実を挟んで流し台のへりに置かれる。
    「聡実くんはトリックオアトリート、してくれへんの?」
    「は?」
     怪訝な顔で見上げれば、にんまりと裏のある笑みを向けられる。
     ヤクザ、こわ……と素で思った。
    「トリックオアトリート、してよ」
    「なんで僕がせなあかんの」
    「俺にしたんやから、聡実くんもせんと」
    「……」
     狂児が甘いものを持っている様子はない。悪戯しようにも、流しとの間に挟まれて身動きできない。
    (え、コレ、僕、不利とちゃう?)
    「はよして」
     急かされて、何も考えずに一言、唱える。
    「トリックオアトリート」
    「トリート」
     あ、と思ったときには、狂児の顔は目の前で、逃げる間もなく食べられた。
     口の中のどこに仕込んでいたのか、狂児のベロとともにあめ玉が転がり込んでくる。
    「こ……の……ど……アホ!」
     パコーンとヤクザの頭を遠慮無く叩いてやった。手が流しから離れた瞬間に、その腕の囲いの中から抜け出した。
    「ちょ、痛あ! 痛いて、聡実くん。ひどいわぁ!」
    「どこの世界に、飴ちゃん口渡しするヤクザがおんねん!」
    「ここにおるやろ」
     にたあと笑った顔が極悪すぎて、本気でドン引いた。
    「まあ、でも、まだ早かったみたいやし、今年はこの辺で帰るわ」
     狂児はそう言うと、長い足で何歩もかからない部屋に戻って荷物を持つと、そのまま玄関へと向かう。
    「え、どこ行くん?」
    「ん、帰るよ?」
    「は?」
    「元々、少し遊んだら帰るつもりやったんよ」
    (少し、遊んだら、ね)
    「へぇ、そうですか」
     プチンと聡実の頭の中で何かが切れる音がした。たぶん、堪忍袋の緒というやつだ。
    「狂児さん」
    「おん?」
     靴を履いている狂児に向かって、言う。
    「トリックオアトリート?」
     少し屈んで、聡実より小さく丸まったその背中の上、ちょこんと乗った頭の上に――
     ボタボタボタ。
     躊躇いなくココアをぶっかけてやった。上質なスーツはあっという間にココアだらけだ。
     頭からココアを、答える間もなくかけられた狂児は、一瞬、動きを止めた後、ゆっくりこっちを見上げた。
     ヤクザの本気の眼光は、半端なく怖い。
     けど、狂児の眼光はどんなに怖かろうが、聡実は負ける気はしなかった。
     例えここで腹に一発、きついのを見舞われようが、ボコボコにされようが、それでも譲れない物はある。
    「さっき、足らんかったみたいやから全部あげるわ」
     そう言って、今度は自分の頭に向かって残ったココアをぶっかける。
     狂児にほとんどかけてしまったから、たらぁと少ない雫が髪の毛を伝って眼鏡に落ちるくらいで、狂児ほどは汚れなかったのが悔しい。こんなことならもっと多めにココアを入れておけば良かった。
     狂児はまさか聡実が自分も被るとは思わなかったらしく、射殺さんばかりの鋭い眼光は、すぐになりをひそめて唖然とした顔になる。
     聡実はその首元を引き寄せて、キスぎりぎりの距離まで近づいて狂児に言う。
    「ご褒美、ほしくないんか?」
     聡実にしては低い声は、存分に甘味を含んだ声で。
     狂児は毒気を抜かれたように、ふはっと息を笑いながら吐くと、
    「ほんに、聡実くんにはかなわんな」
     と、呆れたような、それとも違う声で呻いた。
    「全部食べてええの?」
    「遊びでないならええよ」
    「ああ、そういう。ごめんな。聡実くんで遊んだつもりはなかったんよ~」
     狂児は聡実が何に怒ったのかようやく気づいたらしく、肩の力を抜くと、汚れたスーツをそのまま玄関に落とした。
    「うわ、ベタベタ~」
    「風呂入りますか、先に」
    「一緒にはいろ♪」
    「いいですよ」
    「んふ。それはええってことよね?」
    「さあ、どうでしょう」
     そのまま二人は風呂に行き、あとにはココアにまみれたスーツだけが残った。
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    Replies from the creator

    esukiyu3

    PROGRESS7月マ!5発行予定の、モブ視点全年齢の書き下ろし部分の草案です(大幅に加筆修正あるはず)。
    タイトル『名前のない僕はいない』全年齢
    マロでお題くださった方、ありがとうございますね! 
    再録予定は↓
    ・縁の器/僕の強運/キラキラの一等星/僕の作り手/ヒガン
    で多分200p前後です。各話の間に、狂児さんの家の鏡に住む幽霊視点の話が挟みこみます。
    名前のない僕はいない「へー、こんな億ションでも首吊る馬鹿がおるんか~」
     人の声がする。随分艶のある男の声だ。オートロックの玄関がカードキーで開いたと同時に聞こえてきたので、随分五月蠅い住人が来たな、と僕は思った。
    「でも、どこで吊ったん? 随分綺麗みたいやけど」
     ドカドカと足音がこちらへやってくる。この部屋の間取りは高級マンションなだけあって、無駄に広い。玄関から入って、リビング、キッチンなどを通り抜けて、このサニタリールームに入ってくると、鏡に映しだされたのは随分顔の濃い色男だった。
     年の頃は三十代くらいか。意志の強そうな眉に、いちいち目鼻立ちの主張が激しい顔。だが、それらが綺麗に配置されているので、ハッと人の目を惹くような若い男がそこにはいた。
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