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    ゆき📚

    ひっそりと文字書きしてる

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    ゆき📚

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    【血界】【その手を掴む、】
    ある日に何の気なしに見てみたら一気に見てハマりました。
    めっちゃ雰囲気小説です。なんかこういうの書きたくなる。自分の気持ちを昇華するような感じで書きたいように書きました。
    大丈夫、どんなものでもどんとこい!という心の拾い方がいらっしゃたらよかったら読んでやってください。

    ##BBB
    ##STLO
    #雰囲気小説
    atmosphericNovel

    【その手を掴む、】 見えないものを見ようとするのは、きっと貴方の本音を聞き出すより簡単だ。

     【その手を掴む、】
     
     「君は強いな、少年」
     不意に、本当に不意に言われた言葉だった。

     その日は朝から雨が降っていて目が覚めて外から聞こえるくぐもったザーッという音が耳に届けばまだ逃げてくれない眠気の中で憂鬱な気持ちが降り積もる。されど雨だから、雨だったからという安易な理由でバイトを休むわけにもいかない。こちとら金欠、稼がねばならない。
     自分自身に気合を入れるとレオナルド・ウォッチは簡素なベッドから半身を勢いよく起こし立ち上がった。
     
     出かける少し前に降っていた雨は止んでいた。レオナルドはラッキーと内心思いながらバイトへと出かけて行った。雨に湿ったコンクリートから特有の匂いが鼻に届くのを感じながら異常が日常の一日が今日も始まった。
     
     「さいあッッくだッ!!」
     午前中で終わったバイトからの帰り道、再び降りだした雨にレオナルドは雨宿りできる場所も見つけられず傘を買うのもためらってしまい―なんせ万年金欠なんで―仕方なく走って少しでも雨から逃げるという手段で何とか乗り切ろうとしていた。
     が、そんな事で濡れる事から逃げられるはずもなく、ましてやここは異常が日常のHL、走っている途中でどこからかミサイルが飛んできたかと思うと噴煙が目の前に舞って気を取られたレオナルドは道にできていたくぼみに足を引っかけると顔面こんにちは如く盛大にずっこけた。
     「ぐえッ」
     コンクリートに降りそそぐ雨が跳ねて小さなクラウンを作るのを間近で見ながら自分の体にも雨が同じように降り注ぐのがわかる。
     冷たさと痛さにレオナルドは傘、買えばよかった。と今更ながらな事を思っていた。
     
     「随分と素敵な格好で来たな」
     室内に入ってきたレオナルド・ウォッチを見てデスクで事務作業をしていたスティーブン・A・スターフェイズはぱちくりとまばたきをした後呆れたような笑みを浮かべて声をかけた。
     「すいません。家に戻るの億劫になっちゃって」
     一張羅のように着ている服は泥で汚れ、髪は雨のおかげでぺったりとつぶれて普段のふわりとした姿はなりを潜めていた。そして―
     「顔、どうした?」
     「ちょっところんじゃって」
     「痛そうだな」
     右頬全体にできた擦り傷のようなものにスティーブンは心配そうな視線を送るとその視線に気が付いたレオナルドがへらりと笑った。
     「まっ生傷なんてしょっちゅうできてるんで今更っすよ」
     「…タオルを持ってこよう。あと着替えも」
     そう言ってデスクから立ち上がったスティーブンにレオナルドは両手のひらを見せるようにして制止する。
     「いいですよ。自分でやりますから」
     「いや君はそこから動くな。水が滴りすぎだ。そんな状態でうろうろされたら後の掃除が大変だ」
     そう言われレオナルドは自分の足元に視線を落とす。スティーブンが言う通り自分からぽたりぽたりと水滴が落ちている様子にレオナルドはあちゃ~と内心思った。
     「すいません…」
     素直に謝るレオナルドにスティーブンは静かに笑うと「構わない、少し待ってろ」そう言って奥の部屋へと姿を消した。
     
     「今日は皆さん、いないんですね」
     レオナルドの不意な問いかけにスティーブンは「あぁ」と短く返した後
     「それぞれ各々の用事で出払っていてね。静かに事務処理がはかどりそうだと思ったんだが、まさかこんなずぶ濡れ少年がやってくるとは」
     言いながらタオルを頭からかぶせるように投げたスティーブンは「うえっぶッ」と情けない声を出してそれをダイレクトに受け止めたレオナルドの声にくすくすと笑った。
     「すいません、せっかく仕事してたのに」
     「いいよ、ちょうど休憩しようと思ってた所だから」
     「じゃあ余計な手間取らせちゃって休憩の邪魔しちゃいましたね」
     スティーブンの手のひらが白いタオル越しに動く中されるがままのレオナルドは呟くように言った。
     「息抜きにはなってるかな」
     「そうですか」
     「あとで傷の手当てもさせてくれ」
     「至れり尽くせりっすね」
     「あはは、君は面白い事を言うな。少年」
     わざと粗雑に撫でるように動かすとタオルの中のレオナルドから情けない声が短く出た。
     「遊んでますね」
     「息抜きだから」
     「そうっすか」

     「……君はさ」
     ふと静かな空間の中でスティーブンの声がレオナルドの耳に届く。
     「タオルで頭からすっぽり包まれて…」
     言いながらスティーブンは思考する。
     このまま僕が君の首に手をかけたらあっさり君の首は締まるだろうし折れる可能性もある。もしくはこの状態で拘束して顔に水をかければ地上にいながら溺死する。もしくは―
     「スティーブンさん?」
     頭の中に巡るいろいろな可能性はすべて相手を“処理”する方法で
     「おばけみたいだね」
     誤魔化す為に言った戯言は軽く流されるだろうと思っていると
     「怖いですか?」
     思ってもみなかった返しにスティーブンは驚いた。自然と動きが止まった中でレオナルドの手がふわりと動いたかと思うと
     「Boo~」
     わざとらしく低い声を出しておばけの様相をして見せるレオナルドにスティーブンは間を開けてぷっと噴き出すと大きく笑った。
     「随分と典型的なゴーストだな」
     「ちっちゃい頃ふざけ半分でシーツをかぶってミシェーラをおどかした事があるんです。あいつめっちゃびっくりしちゃってすっごく泣いて、そんなに泣くのかってくらい泣いちゃって、その後当然っちゃ当然なんですけど両親にこっぴどく叱られて」
     「懐かしい思い出だな」
     ひとしきり笑った後スティーブンの視界にずれたタオルの隙間から擦り傷で赤くなった頬が飛び込んできた。そうだった。けがをしていたんだった。と思い出して目を細める。
     「痛いだろう、頬」
     スティーブンの問いかけにレオナルドは「大丈夫です」とシンプルに答えた。
     「そうか、まぁ、それならいいんだけど」
     スティーブンはそう言った後タオルをレオナルドの頭から剥いで
     「君は強いな、少年」
     ふと出た言葉はどこか雨の湿度と似ているような気がした。

     「急にどうしたんですかスティーブンさん」
     「ん?」
     「俺の事強いだなんて、スティーブンさんが言うような言葉じゃないですよ」
     「えー?そうかなぁ?」
     適当に返しながらスティーブンは頭の中でタオルで全身をくるんで抱えて休憩室に連れていくかと考えながらそれを実行に移すために屈んだ。視線がレオナルドと同じぐらいになった時不意に彼から「今日―」と声が聞こえ視線を彼の顔へと向けた。
     「朝起きたらそん時から雨降ってて、あぁバイト行くのやだなって思ったんですよ」
     「うん」
     レオナルドはスティーブンのほうを見ておらずただまっすぐにどこか遠くを見るように顔を正面に向けたままで
     「でも行かなきゃなバイト、じゃないと金稼げないしって起きて準備して出かける前には雨やんでてラッキーって思ったんです」
     「うん」
     「でもバイト終わって外出て歩いてたら雨が降ってきて雨宿りできそうな場所無いし、傘も買うのもなぁって思って、走れば少しはマシなんじゃないかって、何がマシなのかわかんないけど、でもそう思って走ってて」
     「うん」
     「そしたらどっからかミサイル飛んできて煙とか埃とかすげぇなって思ってたらつまづいて転んだんすよ」
     「そうか」
     「雨冷たいし、ほっぺたも痛いし、体も痛いし冷たいし、コンクリ固いし、なんかその時、自分でもよくわかんないけど、あぁもう…もう何にもしたくないなぁって思って」
     視線の先に見えるガラス越しの外の世界は異常が日常の街―
     この世界ではこんな事、日常茶飯事なのに
     「何もかも嫌になっちゃったんです。そんなの思っちゃいけない事なのに」

     自分がそんな事思うなんて
     なんて罰当たりなんだろう
     そんな事思っちゃいけない
     だって、そうだろう?
     そうじゃなきゃ
     誰が彼女を救うんだ?

     「そんな日もあるよ。少年」
     落ち着いた、低く、どこか甘さもあるような、それが優しさなのかはたまた自分の知らぬ何かなのかわからない声が耳に響く。
     「でも少年は歩いてここへやって来た。転んで倒れても立ち上がって歩いて、ここへやって来た」
     「そしてスティーブンさんにお世話されてる」
     「まったくだ」
     そう言って先程とは違う静かな笑いをこぼすスティーブンにレオナルドは視線を向ける。
     「間近で見ると色男っすね」
     「褒めてもらって嬉しいよ」
     「本当はこういうのも家に帰って自分でやってそれからここへ来なきゃいけないっってわかってたんですけど、なんか億劫になっちゃって」
     「それで上司にされるがまま?」
     「ここに来たら誰かがいるだろうって思ったから」
     「誰でもよかった?」
     覗き込むようにして問いかける男の顔から、真意が読めずにレオナルドはふと耳奥から雨の音が聞こえてきたような気がした。
     「ここに来ている誰かなら誰でもいいからこんな風にされたかった?」
     何を、そんなにこだわってるんだろう?でもレオナルドの口からはこぼれるようにその問いの返事が出た。
     「貴方でよかった」
     「…僕もだよ」
     そう言って口角を上げて笑みを見せる表情にレオナルドの心はざわついた。
     どんな思いでそんな質問をしたのか、なんて聞けるはずもなく
     雨の音が、より強く耳の奥で響いていくような気がした。
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