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    ayase

    サスナル小説置き場

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    ayase

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    1.「星が鳴る」 苦悩するナルトと寄り添うサスケ(おじサスナル)
    2.「レゾンデートル」 ちょっといかがわしい二人(大戦後の二人)
    3.「晴れの日」 里に戻り、日常を過ごす二人のひとこま(大戦後の二人)

    サスナル短編集をひとつにしました。

    #サスナル
    sasunaru
    #おじサスナル
    uncleSasnal

    僕らの道行[星が鳴る]
     恒久的な平和。それは皆の願いだ。
     五大国とは共にあの大戦を乗り越えたこともあり、各里の影たちと結びつきは強まった。国同士が対立することもめっきり減り、わだかまりはほぼ解けたと言っても過言ではないだろう。だがそれは、あくまでナルトたちの世代の話だ。次に続く世代がそうとは限らない。ナルトたち穏健派に続く者もいれば、自国の利益を巡って画策する者もいる。
     どちらも間違いではない。だが、永続的な平和を願うなら不安要素はできるだけ排除して次世代に繋げたい。そう考えて毎日火影業に勤しんでいる。しかし、理想とは裏腹に簡単にいかない問題であるのも事実だ。
     そもそもナルトは政治要素が絡んだ化かし合いなど最も不得意な分野だ。専らシカマルの助言でなんとか乗り切れているが、いつ手のひらを返してくるかも知れない大名たちに最近は辟易してきている。わかっている。それが自分の仕事だ。地道に道を作っていくしかない。それでももどかしさに歯噛みするときもある。
    「ナルト」
     ふいに名を呼ばれて、ナルトは顔をあげた。仏頂面のサスケが今日はまた一段と難しそうな顔をしている。サスケとなんの話をしていたんだっけか。こいつ、なんでここに立ち寄ったんだっけ。それすら思い出せないくらい深く熟考していたらしい。いまだぼうっとするナルトに痺れを切らしたのか、サスケはあからさまに大きく息をはいた。
    「ナルト、少し付き合え」
    「いや……まだやることあるんだけどよ」
    「行くぞ」
     聞きやしねえ。机の上にはまだ目も通してない書類が散らばっている。伺いを立てるように恐る恐る部屋の隅で書き物をしているシカマルへナルトは目をやった。シカマルは顔も上げないまま手を空中でひらひらと泳がせる。ここはいいから行けということらしい。ナルトは若干後ろ髪を引かれながらも、サスケの後を追って火影室を出た。
    「なあ、一体どこ向かってんだってばよ」
     道中、サスケに幾度か声をかけたが全て無視だ。こいつ、昔から変なとこマイペースだよなあ。すでに夕飯時を過ぎてもなお人通りの多い商店街に差し掛かると、周りから「火影様」と声をかけられる。ナルトは笑みを浮かべてそれに応える。一方サスケは群衆など元より目に入っていないようで、歩く速度を緩めない。
     民家もまばらになって、雑木林を抜けたところでナルトはサスケがどこに向かっているのかようやくわかった。演習場。すっかり近代化で姿を変えた里の中でも一切変わらない場所だ。
     サスケは勝手知ったる顔で演習場の中に立ち入ると、均された地面に腰を下ろした。黒の外套が汚れるのも厭わず、器用に片腕を枕にして寝そべる。てっきり手合わせでもするつもりなのかと思っていたナルトは瞠目した。
     こいつはなにがしたいんだってばよ。胡乱げに寝転ぶ男を見下ろすとサスケが顎をしゃくった。隣へ座れと言いたいらしい。
     なんで偉そうなんだ。そう思ったが、サスケの我が道をいく態度は今に始まったことじゃない。ナルトは諦めて隣に腰を下ろす。茂みから虫の鳴く声が聞こえてくる。二人の間にしばらく沈黙が続いて、先に口を開いたのは意外にもサスケのほうだった。
    「お前一人にできることなんて限りがある」
    「それは……わかってる」
     そう、だからこそシカマルやサイやカカシ先生……沢山の仲間や恩師、家族に支えられて、今立っていられるのだ。それを忘れたことはない。サスケの兄にも教えられたことだ。
     ただ、もどかしいのだ。文明はめざましく発達して世界は少しずつではあるが明るいほうへと歩んでいる。でもそれは仮初めの平和だ。火種はまだ各地に燻っていて、復興が進まない地域での内紛や戦争孤児など問題は山のようにある。それらを解決しない限り、遠くない未来でまた戦争は起きる。
    「たとえ恒久的な平和が訪れたとしても、戦争は起きうるぞ」
    「それはっ……」
     ナルトの考えを見透かしたようなサスケに言い返そうとしてやめた。実際、サスケにはナルトの思いも苦悩も全て筒抜けだろう。
    「世の中には戦争をしたい奴、なにかを恨んでいる奴は腐るほどいる。それら全部にお前が向き合ってひとつひとつ解決するのか。そんなこと本当にできると思っているのか」
     頭がカッと熱くなった。両の手に抱えたものを他ならぬサスケに踏みにじられた気がした。綺麗ごとだと周りに幾度言われたか知れない。希望を抱いてなにが悪い。もう二度と悲劇を繰り返したくないからこそ、綺麗ごとを現実のものにしようとしているのだ。怒りがふつふつと湧いてくる。お前にだけは言ってほしくなかったという気持ちと、お前ならそう言うだろうという気持ちがせめぎ合う。
    「わかってる! わかってるってばよ! でもオレはっ……! オレは……」
     ナルトは目を伏せて、右手で顔を覆った。抜本的な解決は難しいことなんて、火影になってから痛いほど経験してきた。政治も人も一筋縄ではいかない。わかっている。でもいつかたどり着きたい未来なのだ。
     サスケがチッと舌を打つ。無遠慮にナルトの襟首を摑むと、そのまま後ろへ乱暴に引き倒した。
    「うおっ!?」
     ナルトはろくに受け身もとれないまま、強かに地面に背中を打ちつけた。思わぬ衝撃に息が詰まる。
    「いってえ……! お前なあ!」
     何食わぬ顔で隣に寝そべる男をナルトは涙目で睨んだ。男の黒曜石のように輝きを放つ瞳と視線がかち合う。思わず息をのんだ。サスケの瞳の中にはいくつもの瞬く星があった。
     ナルトはふいに夜空へと目をやった。空に散らばった星々がきらきらと輝いている。夜空なんて昔から幾度となく見たことがある。でも今や近代化で夜更けまで煌々と明かりが輝く街中からは立派な星空は拝めくなってしまった。
     振り返れば最近はずっと火影室の机とばかり睨み合いをしていた。なんだ、こんな綺麗な夜空を見る余裕もなくなってたんだな。ナルトの全身からどっと力が抜けた。
    「あーあ」
     所在なく地面に落ちているサスケの左袖を引っ張って、頭の下に敷く。隣から「オイ、重い」と声がかかるが無視だ。無視。
     気づいたらグルグルと自分の中に渦巻いていた思いが軽くなっている。サスケといると不思議だ。気持ちが軽くも重くもなる。そういえば十代の頃は散々こいつに感情を振り回されたもんだ。懐かしい過去に思いを馳せれば、サスケがまた「オイ」と声をかけてくる。ナルトは顔だけ横に向けて、黙って続きを促した。サスケはナルトから決して視線を外さない。
    「その日がくることをオレも信じている。だから共にあるんだ」
     黒曜石の中の星が瞬いて、一筋流れていった。あれは流れ星だったのだろうか。消えない煌めきがサスケの中にある。居ても立っても居られない気持ちになった。ナルトは枕にしているサスケの左袖をぎゅうと握った。
    「だからさ、お前はいつもわかりにくいんだってばよ」
    「……今伝えただろ」
     サスケは鼻を鳴らして、そっぽを向く。照れたのだ。少年のときから変わらぬ素振りも今や可愛いと思えるのだから、慣れとは恐ろしいものだ。
    「やれることをやるかあ。間違えたって、シカマルもサスケもいてくれるもんな」
    「あんまりシカマルに迷惑かけんじゃねえぞ」
     ナルトは「それは約束できねえなあ」と笑って立ち上がる。羽織についた土を軽く払って、隣に座るサスケに手を差し出した。サスケは躊躇いなく手を取って、同じように外套についた土を払う。
    「サスケ、次帰ってくるときは明るいうちにしろよ」
    「どうしてだ」
    「青空もたまにはいいもんだろ」
     ナルトはニッと朗らかに笑った。サスケがほんの一瞬だけ驚いたような顔をする。だが、すぐにいつもの人を食ったような笑みを浮かべて「それもそうだな」と零した。
     未来は明るいほうがいい。サスケ、お前がそう言ったんだ。青々と晴れた空を次の世代に渡すために、踏ん張って生きていく。ナルトの中にもう迷いはなかった。


    [レゾンデートル]
     うずまきナルトはどうしたものかと思案していた。
     仲間にはよく楽観的だと言われはするが、全く考えていないわけではない。たしかに悲観的に物事を捉えるタイプではないがごく普通に悩んだりする。
     どちらかと言えば悩みすぎると自家中毒に陥るきらいがあるほうだ。それでもこれまでやってこれたのは頼れる仲間たちの支えや何があろうと己の掲げる忍道を貫く覚悟があったからだ。
    「ナルト」
     しかしながら、この男を相手にするとナルトはいつも頭を悩ませる羽目になっている気がする。そう、今回もひとえにこの男、うちはサスケが原因である。

     大戦からサスケとの戦いで沢山こさえてしまった傷もようやく快方へ向かい、退院が許可された。元々じっとしていられない性分だ。いくらみんながかわるがわる見舞いにきてくれたとしても病室に閉じこめられる日々は退屈であった。おまけに病院食は味気ないものばかりでそろそろラーメンが恋しかった。たしか流しの下の収納に買いだめしたラーメンがあったはずだ。ナルトは浮き立つ気持ちのまま、足取り軽く久方ぶりに自宅へ帰った。そして愕然とした。部屋の中はそれはもう驚くほど散らかっていたのだ。
     記憶を遡ると、部屋を後にする前に生ゴミは処分した覚えはある。なにせ急いでいたから、とりあえずものが腐らなければいいやと思っていた気がする。…………正直、回れ右をして見なかったことにしたい。ナルトは玄関先で足を止めて、片手で印を結んだ。するとボンッという音と共に真横にもう一人の自分が現れる。
    「よし! もう一人のオレ! 一緒に片付けてくれ!」
    「はー!? ふざけんなってばよ!」
     分身のくせに自己が強い。ナルトの分身はいつもそうだ。しかし、片腕ではまだ満足に動けない。入院中に綱手から義手をつけたらどうかと打診されたが、その義手が出来上がるのも当分先になるようだ。いっそこれを機にしばらく片腕で修行にでも励むべきだろうかと考えていると、コンコンと玄関扉が叩かれる。
    「ナルト、いるか」
     サスケの声だ。ナルトは「はいはーい」と軽い調子で答えて、ドアノブに手をかけた。そしてまさに扉を開ける寸前となって、はたと気がついた。振り返れば、床に散らかったタオルやちり紙を握りしめた分身が「これ、どうするよ」と言いたげな眼差しでこちらを見ている。
     サスケにこのとっ散らかった部屋を見られるとまた呆れた顔をされそうだ。いや、あの男の呆れ顔など慣れっこなのだが、全く成長していないなという雰囲気を出されるのはちょっと癪に触る。
     ナルトは無言のまま顎でベッドの下を指した。もう一人のナルトがコクリと首を縦に降る。それを合図に二人は目にも留まらぬ速さで床に散らばったものをベッド下に押しこんでいく。ちり紙や袋ゴミはさすがにゴミ箱に入れてくれと思ったが、とりあえず見た目上は綺麗になっただろう。
     何食わぬ顔で分身を解いて扉を開けると、仏頂面の男が所在なさそうに立っていた。上下黒の長袖に身を包んだサスケは嫌味なくらい様になっていて、こいつは何を着ても格好がつくなあと腹立たしさを覚えた。サスケの顔は精巧な人形のように整っている。こればかりは疑いようのない真実だ。本人としては瑣末なことなのだろう。しかしながら、どこに行ってももてはやされるのは全くもって面白くない。ナルトは幼少期の苦い記憶を思い出して口を尖らせた。その様子にサスケが少し怪訝そうな顔をする。
    「上がってもいいか」
    「おう」
     早速三和土に上がり、サスケは視線を部屋の中へ巡らせた。
    「……意外と片付いているな」
    「だ、だろー!?」
     意外との部分に嫌味がこもっている気がしたが、あえて気にしない振りをする。
    「そんで? なんかあったか?」
     とりあえず話題を変えよう。先程無理やり詰めこんだゴミに目ざとい男が気づかないよう、ナルトは慌てて話をすり替えた。
    「用がないと来たらダメなのか」
    「いや、そういうわけじゃねえけど……。どうした?」
     幼い頃から幾度となく皮肉は言われたものだが、あまり揚げ足取りをする男ではない。サスケはいつも直接的な物言いが多い。圧倒的に言葉が足りないヤツではあるが、用件があるときは簡潔に言う。もしや、また一人で悩んでいることでもあるのだろうか。ようやっと己の半身を取り戻したばかりだ。もう復讐に走ることもないとは理解しているが、意外にもこの男は繊細だ。繊細で優しいから目を離すとすぐに抱えこんでしまう。
    「サスケ、隠しごとはなしだ」
     焦燥感に駆られてナルトはサスケの手首を摑み、左右で色の違う輝きをする瞳を見つめた。勝手に抱えて、離れていかないでくれ。そんな気持ちが伝わるように視線は逸らさなかった。
    「そうか……」
     サスケは引き結んでいた唇を緩めて、肩の力を抜いた。今にも聞き漏らしてしまいそうな細い声で呟いて、ナルトのほうへ顔を寄せてくる。そのまま動かないでいれば、そっと額が触れ合った。言葉もないまま、二つの眼がジッとこちらを見つめてくる。十秒……いやもう一分くらい経ったんじゃなかろうか。流しの切れの悪い蛇口から水が垂れる音が部屋に響いた。
    「サ、サスケ?」
     ナルトはいよいよ沈黙に耐えきれなくなって目の前にある身体を押しのけようとする。今日のサスケはちょっとおかしい。失っていない片方の手でとりあえずこの状態から脱しようと試みる。しかしサスケは退くつもりがないらしい。それどころかどこかしおらしい様子で首筋に顔を埋めてきた。
     正直言ってナルトは困惑していた。サスケは露骨に甘えたり、弱いところを曝け出さない。特にナルトの前ではかっこつけが顕著だ。一体どうしたことか。
    「サス……うあっ!?」
     脳裏に幼いサスケが背を向けて暗闇へ歩んでいく姿が浮かんだ。もう後悔はしたくない。無理にでも引っぺがして言葉をかけたほうがいいかもしれないと思ったとき、鎖骨を生暖かいものが這う感覚があった。
     ナルトがはっ!? と驚いて瞠目しているのをいいことに、男は赤い舌を覗かせて鎖骨から首筋にかけてつぅっとねぶる。
    「お前、汗かいてるぞ」
    「いやいやいやいや……」
     いやいやいやいや、もっと言うことがあるだろ。どんな窮地に立たされ、幾度となく困難を乗り越えてきたナルトもこれには驚きすぎて言葉がなかった。なぜ今舐められたのか。脳みその処理が追いつかない。狼狽えて一歩後退る。
    「ひ、あっ……!?」
     すると今度はふうと耳の中に息を吹きかけられて耳朶を甘噛された。気持ち悪さとは別のぞわりした感覚が尾骶骨から背中まで電流のように走る。
    「えーと、そのサスケ……? これは一体なんなんでしょうか」
     ナルトは目を泳がせた。魂の片割れの考えていることは言葉がなくとも拳をぶつけ合えば大抵理解できる。だがさすがにこれは今までにない事態だ。未知の事態だ。もしかしてサスケは俺のことを女の子と勘違いしてる? いや、それは絶対ない。じゃあ、幻術でもかけられてる? いや、瞳術を持つうちはの一族だ。それもありえないだろう。では俺の知らない間にスキンシップ過多な男になったんだろうか。……これも違う気がする。
     ぐるぐると答えの出ないまま「ああ……」やら「うう……」やら言葉にならない音が喉奥から漏れ出る。まともに顔が見れなくて視線を彷徨わせていると、サスケが露骨に不機嫌そうに眉を寄せた。あ、これはまずいかも。そう思った矢先に躊躇なくガブリと首筋に歯を立てられた。
    「……ッ!! イッテェー!!!!」
    「お前が悪い」
    「は!? なに!? もう今日のお前なんだってばよ!」
     涙目になりながら情緒不安定かよと言いたくなるのをぐっと堪えた。思い返せばこれまで大体情緒不安定な男だった。噛みつかれた首筋が熱をもって痛む。ぜってえこれ歯型ついてる。九喇嘛も先の戦いでまだ眠りこけたままだ。普段はこんなものどうってことはないが、今は傷の治りが遅い。きっとしばらくは歯型が残るだろうことが予想できた。
    「あー、もう! ちゃんと聞くから言葉にして言えよ!」
     まどろっこしいのはごめんだ。ことこの男に関してはいつだって真っ向勝負に限る。ナルトは拳をつくって正面にある胸板をドンと叩いた。ちょうどサスケの心臓の真上にある小指の先から心音を感じる。その鼓動がどこか少し速い気がして、あれ? と内心首を傾げた。サスケが己の胸に置かれた手に目を落とす。強情ばりめ、ようやく話す気になったか。ナルトが息を吐いたそのとき、無遠慮に腕を引かれた。
    「えっ……んぅっ!」
     思わぬ出来事に踏ん張るのも忘れて、サスケのほうへつんのめった。それと同時に唇がなにかに塞がれる。は? と意識が硬直した。目の前にサスケの伏せられた長い睫毛がある。
     ん? あれ? これってもしかして俺たちキスしてねえ? と気づいたのは、口と口がくっついてしばらく経ってからだった。怒りとも恥ずかしさとも言い得ぬ感情が腹の底から湧いてきて声をあげようと口を開けた。すると、その隙を突いてぬるりとしたものが唇を割って柔く歯列をなぞっていく。舌だ。サスケの舌。
    「んー!!!!」
     抗議を含めて身を捩るも、より腕を強く引かれてサスケに密着してしまう。
    「ン……ふ、あ……」
     舌を吸われて、絡めて、また背筋に妙な寒気が走った。次第に頭の中がふわふわと心地良くなってくる。いつの間にやら腿から腹へゆっくりと這っていた手が、服の隙間を縫って内側へ入ってくる。温度の低い指先で直に腹を撫でられて「う、あっ……」と漏れ出た声もサスケの唇に吸われてしまった。臍の周りで円を描いた手が、背中へとまわる。背骨のひとつひとつを確かめながら、明らかに性的な意図を持った触れ方にビクンッと身体が快感に震えた。
    「サ……スケ、ん、やぁっ……」
     やっとのことで顔を背けると、口の端を軽く吸われた。そのまま唇が下へ降りていく。晒された喉元にサスケが吸いついて、ぺろりと舌先で舐められる。はぁ……と悩ましい吐息が聞こえて、身体が火照るのがわかった。サスケは器用に片腕でナルトの背を抱いたまま、歯を立てずに柔く喉元を食む。まずい、流される。欲に負けそうだった。奥歯をぐっと噛み締めて、ナルトは頭の隅にかろうじて止まっている理性を働かせた。ドンと左手でサスケの肩を思いきり叩いて、どうにか身体を突き放す。触れ合っていた互いの間に透明な糸が一筋垂れて、カッと頬が熱くなった。顔から火が出そうだ。ナルトは羞恥に耐えかねて眦をつり上げた。
    「……ッ! お前っ! どういうつもりだよ!」
     サスケは動じる様子もなく、濡れた唇を親指で拭った。その動作に強烈な色気を感じて、耳が熱を持つ。まだ身体の中をつい今しがた味わった感覚が抜けずにいる。それを悟られたくなくて、ナルトは強く拳を握りしめて俯いた。早く熱が冷めてほしい。そうして幾ばくかの沈黙のあとサスケが重い口を開いた。
    「……オレにもよくわからない」
    「…………ハァ??」
    「気がついたら足がここへ向かっていて、お前の顔を見たらしたくなった」
    「おっまえ……」
     ナルトは脱力した。言うに事欠いてわからないとは。わりと思うがままに行動する節があるとは思っていたが、さすがに頭が痛い。
    「じゃあなんだ? サスケ、お前単純に性欲溜まってたのか? それでオレんとこきたの? あの、さすがのオレもそれは面倒みきれな——」
    「そうじゃない」
     言葉の途中で遮られた。そうじゃないならなんなのだ。言ってやりたいことは色々あったが、やめた。サスケが肩を落としているのがわかったからだ。ナルトは溜息を吐いた。これをもし意図的にやっているのならとんだ策士だ。一発は殴っていただろう。いや、多分数発殴っても許される。しかしながらナルトはサスケのこの顔に弱い。不幸を全て背負ったような顔で、寂しげにする姿に弱いのだ。そんな顔をされると怒る気も失せた。
    「嫌いになったか」
    「……嫌ったりしねーよ。そもそも! お前とは一回目も二回目も済ませてんだから、三回目も気にしねえよ。……いやまあ今回はちょっと今までのとはまた別だけどよ」
    「……そうか」
     ナルトの言葉で少しだけサスケの表情が和らいだ。ここに来てからずっと言葉少なに難しい顔をしていたのはサスケなりに悩んでいたからなのかもしれない。ナルトは乱暴に頭を掻いて、また溜息を吐いた。
    「あのさ、なんかまたお前勘違いしてるかもしんねーから言うけど、オレはお前のことほんとに大事に思ってる」
    「それは、友としてか」
     今度はナルトが返す言葉に詰まった。一括りにすればそうなのかもしれない。
    「……少なくとも、生きるも死ぬも一緒がいい」
     サスケへのこの思いはうまく言葉で言い表せない。磁石のように互いにぶつかり合えど、離れられない。嬉しいも寂しいも愛しいも分け合って生きていきたい。それを人はなんと言うのだろう。この関係性にはどんな言葉がふさわしいのだろう。サスケはそれを確かめたかったのかもしれない。馬鹿だな。どんな形であってもお前とは切れねえよ。ああ、でも。たしかに言えることがひとつある。
    「サスケ、オレはお前に出会えて良かった」
     以前にも男に渡した言葉だ。生涯変わることのない思いだ。サスケは虚をつかれたように目を丸くする。そして、口の端を少しだけ持ちあげて「そうだな」と笑んだ。
    「ナルト、オレもお前に会えてよかった」
     サスケの穏やかに笑う顔が好きで、もっと見ていたいなと思う。だから、この男が隣で笑ってくれるようにナルトは前を向いて走るのだ。友人だけじゃ事足りず、ライバルでは物足りない。親友にしては抱くものが重いのかもしれない。二人の間にある距離を世間の物差しで測るのは難しそうだ。多分、そんなもので測れないくらいでちょうどいいのかもしれない。

     結局初めて口づけを交わした相手もお前で、その次に深い口づけをしたのもお前とだ。ついでに腕も持っていかれたし。
     はてさて、次はなにを持っていくつもりなのやら。あと数年後にはもうお前にやるもん残ってねえかもなとナルトは冗談まじりにこぼした。サスケはさも当然のような顔で「もったいつけずに全部よこせ」と言った。
     ほんとにどうしようもない奴だ。でもこのどうしようもない男のことが大切で仕方ない。お前と共に歩む未来が楽しみだよとナルトは笑った。


    [晴れの日]
     たとえ神の力を持ってしても、過去をなかったことにはできないのだと言ったのははたして誰だったか。
     サスケの犯した罪は大戦への貢献から、大赦とされている。……いや、正確にはナルトやサクラの嘆願やカカシがうまく根回しをして、綱手が取り計らってくれたおかげだ。
     しかし、公に大赦とされてもそれを快く思わない人間はいた。うちはの真実を知っている人間は里の中でも限られている。人は実態がわからないものに恐怖し、懐疑的になる。またいつ裏切るやらと疑惑の眼差しを向けられている日々が続いた。
     閉鎖的な里では噂話は事欠かない。尾びれがついた形であることないことを吹聴される。サスケは目の端に映る人々を見て、なにも変わっちゃいないなと自嘲した。
     むしろサスケの里抜け以降うちはへの見方はより厳しいものになっただろう。世界を救ったと言えども所詮これだ。戻ればこうなることは目に見えていた。過去をなかったことにはできない。
     後悔はいくつもある。数え上げたらきりがない。家族や兄のことを思うたび胸は軋む。サクラからぎこちない笑みを向けられると、なんとも言えない気持ちになる。ナルトの……ナルトの欠けた腕を見るたびに、一抹の寂しさに襲われる。そしてあいつとの繋がりを思う。どれを自身が選び取った選択がゆえの結末だ。どれほど打ちのめされようがもう一度、ここから歩んでいくと決めた。あいつの隣で見届けると、そう決めたのだ。
     されども、どこへ行っても衆目の目に晒されるというのは存外堪える。好奇、侮蔑、嫉み、憐憫……どろどろとした感情が二つの眼に浮かんでいる。これが生涯つきまとうもの。己の業か。はじめてのことではない。それこそ里抜けに至るまでよく向けられたものだ。
    「サスケ」
     名を呼ばれて顔を上げる。隣を歩いていた里の英雄と視線がかち合う。ナルトの瞳には恐れも怒りもなかった。あの終末の谷でぶつかり合ったときのような静かで穏やかな顔をしていた。ナルトはニッと人好き笑みを浮かべてサスケの細い指に己を絡めてぎゅっと手を結んでくる。
     ナルトの手は温い。いつのまにかサスケの手は指先まですっかり冷え切っていた。触れた先から次第にその熱が緩く移ってくる。強張った身体から余計な力が抜けて、気持ちが凪いでいく。不思議だなとサスケは繋がれた手を眺めた。心が揺れる理由はいつもこいつにある。嫉妬も憧憬も思慕もないまぜになった感情がサスケの中でずっと嵐のようにあった。
     しかし、あの谷で互いの全てをぶつけあってそれらは霧散した。ナルトとの絆を想う自分を肯定できるようになった。ナルトがいてくれてよかった。たくさん苦しめたんだろうという自覚はさすがにある。そして自身がこと感情表現に関して不器用な自覚もある。
    「……ナルト」
    「ん?」
    「手汗が移るから離せ」
    「またまたぁ! 可愛くないこと言っちゃって!」
     ナルトはさらにぎゅっと強く手を結んできた。サスケは鬱陶しげに絡めてくる手を振り払う。ああ、これからもこいつがずっと隣にいてくれるのか。きっと歯を食いしばっていかねばならぬ場面は山ほどあるのだろう。その度に決断を迫られ、葛藤することになるかもしれない。でももう独りではない。結んだ心は離れないのだとようやく知れた。それこそが幸いなのだとわかったのだ。
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    ayase

    DONE1月15日開催 【サスナルwebオンリー】~交差する手は絆となる3~ にて初公開の新作SSです。イベ限定公開にしてましたが、常設しときます。

    学パロサスナルです。初パロディデビューです。
    こういうサスナルかわいいな……と妄想してたら、メルヘン少女漫画になりました。

    また、現在サスナル作品は新作・既存作共にポイピクのみで展示しております。今後もこちらで活動予定です。よろしくお願いします。
    ハッピーシンドローム 古今東西、流行り廃りというものはどこにでもある。特に学生のうちは学内が全てに近しい。一種の村社会と言っても過言ではないだろう。カーストが自然とでき、噂話はあっという間に広がる。だから、今回も一過性のブームが起きていることをなんとなく察した。
    「なあ、それってなんかご利益でもあんの?」
     ナルトは怪訝そうな顔で「それ」を指さした。視線の先にあるのは、小指に輝く淡いピンクの指輪だ。飾りもない、シンプルなつくりをしている。だが、確実に存在感はあった。つけている本人……春野サクラの髪と同じ色の輪っか。ナルトは机に頬杖をついた。なにもこの小さなリングをつけているのはサクラに限った話ではない。ぐるりと周りを見渡す。うん、やはりだ。姦しく話に花を咲かせる女生徒たち。彼女たちのほとんどが小指に輝く輪をつけている。つまり今の「流行り」なのだ。唐突に投げかけられた疑問にサクラはきょとんと大きく瞬きをした。指差されたリングに目を落とす。そして少し考えるように、視線をうろつかせる。どうにも煮え切らない態度だ。ナルトはじっと彼女の小指を睨んだ。すると頬を軽く紅潮させ、ぼそぼそと小声で呟く。
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    ayase

    DONE1.「星が鳴る」 苦悩するナルトと寄り添うサスケ(おじサスナル)
    2.「レゾンデートル」 ちょっといかがわしい二人(大戦後の二人)
    3.「晴れの日」 里に戻り、日常を過ごす二人のひとこま(大戦後の二人)

    サスナル短編集をひとつにしました。
    僕らの道行[星が鳴る]
     恒久的な平和。それは皆の願いだ。
     五大国とは共にあの大戦を乗り越えたこともあり、各里の影たちと結びつきは強まった。国同士が対立することもめっきり減り、わだかまりはほぼ解けたと言っても過言ではないだろう。だがそれは、あくまでナルトたちの世代の話だ。次に続く世代がそうとは限らない。ナルトたち穏健派に続く者もいれば、自国の利益を巡って画策する者もいる。
     どちらも間違いではない。だが、永続的な平和を願うなら不安要素はできるだけ排除して次世代に繋げたい。そう考えて毎日火影業に勤しんでいる。しかし、理想とは裏腹に簡単にいかない問題であるのも事実だ。
     そもそもナルトは政治要素が絡んだ化かし合いなど最も不得意な分野だ。専らシカマルの助言でなんとか乗り切れているが、いつ手のひらを返してくるかも知れない大名たちに最近は辟易してきている。わかっている。それが自分の仕事だ。地道に道を作っていくしかない。それでももどかしさに歯噛みするときもある。
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    DONE1.「星が鳴る」 苦悩するナルトと寄り添うサスケ(おじサスナル)
    2.「レゾンデートル」 ちょっといかがわしい二人(大戦後の二人)
    3.「晴れの日」 里に戻り、日常を過ごす二人のひとこま(大戦後の二人)

    サスナル短編集をひとつにしました。
    僕らの道行[星が鳴る]
     恒久的な平和。それは皆の願いだ。
     五大国とは共にあの大戦を乗り越えたこともあり、各里の影たちと結びつきは強まった。国同士が対立することもめっきり減り、わだかまりはほぼ解けたと言っても過言ではないだろう。だがそれは、あくまでナルトたちの世代の話だ。次に続く世代がそうとは限らない。ナルトたち穏健派に続く者もいれば、自国の利益を巡って画策する者もいる。
     どちらも間違いではない。だが、永続的な平和を願うなら不安要素はできるだけ排除して次世代に繋げたい。そう考えて毎日火影業に勤しんでいる。しかし、理想とは裏腹に簡単にいかない問題であるのも事実だ。
     そもそもナルトは政治要素が絡んだ化かし合いなど最も不得意な分野だ。専らシカマルの助言でなんとか乗り切れているが、いつ手のひらを返してくるかも知れない大名たちに最近は辟易してきている。わかっている。それが自分の仕事だ。地道に道を作っていくしかない。それでももどかしさに歯噛みするときもある。
    10510

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