O mio babbino caro本人曰くナギ先輩のことを心の底から愛しているらしいおひいさんだが、ある歌をきくと決まって機嫌を悪くする。そして不思議なことに茨も同じ反応を示すものだからオレは長いことそれが不思議でたまらなかった。
「そんなにこの歌嫌いなんすか?」
茨も嫌っぽいんですけど、と続けると苦虫を噛み潰したような顔のおひいさんがぎろりとオレを睨んだ。
「茨が? 喜んでるんじゃなくて?」
「え、すっげえ嫌がってましたけど」
「……ジュンくん、茨呼んできて」
「ええ……」
失敗したなあという気持ちが露骨に顔に現れていたのだろう、機嫌の悪いおひいさんは遠慮なくオレの頬をつねった。
「この歌詞知ってる?」
「知りませんけど」
「父親に結婚の許しを得ようとする歌だね」
「はあ」
「全然ピンときてないね! この朴念仁!」
◇
「てことがあって、おひいさんが怒ってたんですよね」
「見解の相違ですね」
後日茨に聞いてみるとこっちはこっちでまた機嫌悪そうに腕を組んだ。
「アレは父親に甘えてる歌ですよ。甘ったれ令嬢の甘ったれた歌。つまり、いつものアレと一緒です。本当に最悪な歌ですよ」
トントン指を叩きながらこちらもやはりオレをぎろりと睨む。いつものアレとは何か尋ねてみるとライブの前の閣下のルーティンですよと茨が刺々しく答えた。
「まあこちらは閣下の最高出力が手に入れば何だっていいんですよ。腹は立ちますが、自分の求める結果さえ出してもらえれば文句は言いません。神だろうが父だろうが勝手にやっててください」
「……めちゃくちゃ文句言ってるじゃないですか」
顔が。
そう言うと、茨にも思いっきり頬をつねられた。