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    あまや

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    あまや

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    オムニバス/凪茨?
    ⚠︎凪砂が年齢退行する話/Edenのみなさんとモブ

    ##凪茨

    1.乱凪砂

    時折茨が私を「凪砂」と呼び捨てにすることが、思ったより好ましく感じられることに気がついたのは最近だ。凪砂、ナギサ、なぎさ。神なる父から授けられた私の名前。私の大切な人はみな私を名前で呼ぶけれど、茨だけはいつも彼の特別な名前で私を呼んでくれた。それはそれで少しだけ優越感があって好きだけれど、やっぱり名前で呼ばれるのは、なんというか、馴染みがある分親しみが湧くとでもいうのだろうか。例えるなら、素肌と洋服の違いのような。出会った年数に反して茨が飽きるほど毎日呼んでくれるから「閣下」も大分骨身に染みてきているものの、まだほんの少し「凪砂」の方がシームレスに「私」と繋がっていた。
    「眠っていてよろしいですよ」
    着いたら起こしますと、うとうとして傾いでいた私の体を自身の肩にもたれかからせて茨が小声で言った。電車に乗っていた。東海道本線、下り、二十二時五十二分発。辺りは真っ暗で車窓からの眺めは良くない。車内に人はまばらだったけれど、私は目立つ髪の毛を帽子の中に纏めて隠し、着なれないパーカーとジーンズ、スニーカーを着用していた。誰からともなく逃げている。理由は、私にあった。
    「でも」
    「そのお身体ではとっくに限界でしょう」
    「まだ寝たくない」
    「置いていったりしませんよ」
    「その心配はしていないよ」
    「さようですか」
    「うん」
    信じているのかいないのかスマホを見つめたまま素っ気ない茨が面白くなくて、私は茨の腕に抱きついて子どものように身を寄せた。
    「閣下」
    「凪砂」
    「閣下……」
    「今は凪砂だから君に甘えたいし、君がもたれて眠っていいというから、寝てる」
    目を瞑って茨の言葉少なな申し立てを却下した。上からため息が聞こえるけれど腕を外されることはなくて、それが少し嬉しい。車内の暖かさと程よい振動、それから大好きな茨の匂いに包まれて安心した私は、本当にそのまま眠ってしまいそうだった。
    私と茨は何かから逃げている。何かはわからないけど、それが私の寿命の形をしていることは確かだった。
    私の体は若返っていた。二十を過ぎてから、この体は老いることを忘れ一年ずつ時間を巻き戻している。理由はわからない。いろいろな病院を梯子してたくさん検査をしたけれど医者は誰もお手上げだった。もちろんそんな体でアイドルなんてできるはずもなく、私たちは世間から身を隠すようにして静かに暮らしていた。静かなのは、私だけかもしれないけれど。
    「きょうは、どこまでいくの」
    眠りの淵に半分身を乗り出しながら私は目的地を訪ねた。もうほとんど眠っているからちゃんと質問できたかわからないけれど、答えが返ってきたからきっと声は正しく届いていたのだろう。
    「……行けるところまで」



    2.名もなき人

    こんな田舎には珍しい可愛い子だなと思いました。それから、似てない親子だなと。家を借りにきたサエグサという男とその子どもの第一印象はそんなものでした。
    最近はUターンだかIターンだかテレワークだか転職だか、諸々の影響で都会から田舎に移住してくる若者がそこそこいたので彼らもその類なのだろうと思っていました。父親の方はいかにもテレビで見るようなIT会社の社員といった風貌でしたし。それに、実家を頼って地元に戻ってくるということは、昔から片親の家庭には良くあることでした。
    とはいえ、子どもが家から出かける様子がないのが気にかかっていました。可愛い顔をしていて男の子か女の子かもわからないくらいでしたが、明らかに就学児です。朝も昼も夜も父親にべったりのようで、彼が出かけるときは必ず隣にいるのを見ていましたから、学校に行っていないのは確実でした。最近は不登校児なんてニュースもよく見ますし、そういったことに踏みいられるのを良く思わない若者は多いと聞きます。ですから確かめることはできませんでしたが、子どもがこの辺りでは見かけないほど美しいこともあって、ご近所でももっぱらの噂でした。
    「あらサエグサさん、こんにちは」
    「ああ、これは大家さん、こんにちは」
    買い物帰りなのか、珍しく大荷物でした。子どもの方は大きな……だんごむし、でしょうか、見慣れない形のぬいぐるみを抱えていて顔が半分見えていません。小さい子が自分の倍以上ある大きな物を大事に抱えている姿はいたく可愛らしく、つい微笑んでしまいました。気がついた父親が子どもの背にそっと手を添えます。
    「失礼しました。さあ凪砂、挨拶しなさい」
    「……こんにちは」
    「はい、こんにちは」
    可愛らしい声でほんのり微笑まれると、なんだか天使でも見たような心地になります。もっと声を聞きたいし、もっと顔を見せてほしい。そういう欲求が無限に湧いてきます。けれど父親も慣れっこなのでしょう、会釈をするとすぐに子どもの手を引いて部屋に帰ってしまいました。ああいう子どもを持つと親は大変です。もしかしたら引越し前に何か問題があって、それでこんな田舎に越してきたのかもしれません。だからあの子も学校に行っていないのかも。妄想は膨らみますが、誰も答えを知りません。そうしてまた噂に尾鰭がつき信憑性のかけらもなかった話が本当の顔をして町に流れていくのです。
    それが原因なのかはわかりませんが、一年を待たず、二人は混沌とした町を離れていきました。



    3.七種茨

    凪砂と呼ぶ時、ほんの少し嬉しそうに目尻が緩むことを知っていた。こちらとしてはやむにやまれず苦肉の策で親子のふりをしているというのに、そんなところで喜ばれるのは遺憾だった。
    閣下を初めて名前で呼んだのは、警察の職質にあった時だった。昼日中で、怪しい路地を歩いていたわけでもなく、一般人がそうするように普通に道を歩いていただけなのに呼び止められた。思い詰めた暗い顔をしていたからでは、とは閣下の言だが、俺はいつもこの顰めっ面だ。何も楽しくないのににこにこしている方が怪しいだろう。そうは思うが、引っかかってしまったものは仕方ない。早く終わらせようと適当に答えを並べていたが最後にこの子は、と閣下を指さされた。
    「……自分の子ですが」
    その時の俺がものすごくいやそうな顔をしていて面白かったと、話題に上るたびに閣下は大笑いした。
    「ねえ、また名前で呼んでくれる?」
    「閣下」
    「凪砂」
    「それは、必要な時にしか呼びません」
    「職質された時とか?」
    「そうです、あなたを俺の子として扱わないと逮捕されそうな時です」
    「ふふ」
    「笑い事じゃあないんですよ、まったく」
    何が悲しくて閣下を自分の子だと言わねばならないのか。昔から自由奔放で好奇心が強くて子どものように素直だとは思っていたけれど、本当に子どもになってしまうだなんてそんな未来は考えたことがなかった。それが普通だ。時間は前にしか進まないし、二十二世紀は目前だというのに過去に帰る方法は未だ編み出されていない。ネコ型ロボットももちろんいない。人生は巻き戻ったりしない。
    「あなたは」
    どんどん幼くなっていく閣下が知能・身体能力共にどうなっていくのか、誰にも分からなかった。初めての事例だから当たり前だ。彼が第一の被験者なのだ。肉体の退化に伴って、これまでできていたことができなくなっていくこともあるだろう。この人はなんでもできる人であったけれどおおらかで受容の得意な人でもあるから、もしかしたらできない自分も素直に受け入れられるのかもしれない。今だって自分のことなのにあまり不安がった様子は見られない。そういうところは、この人が超越した存在なのだと言われているようで少し安心する。
    そう、超越した存在なのだ。この人は誰よりも強く、美しく、賢く、清廉な人。世界の頂点に立つのが似合う人。
    「あなたは、どんな形をしていても、俺の閣下です」
    きょとんとした閣下がじいっと俺を見上げた。この間誕生日を迎えてまた一つ幼くなってしまった体は、俺の腰ほどしかない。俺より大きかった手のひらも片手ですっぽり包み込めるようになってしまった。声もあの深く落ち着いたテノールから、少年特有のアルトに。それでも、この人はかつて俺が選んだこの世でたった一人の特別な人なのだ。
    「うん、私は、君の閣下だよ」
    閣下が嬉しそうに目を細めた。凪砂と俺が呼ぶ時よりもずっと嬉しそうで、それだけが救いだった。



    4.巴日和

    茨がぼくの屋敷に帰ってきたのは最後に顔を合わせてから五年の月日が経過した後だった。おくるみを大切そうに抱えてぼくの前に現れた茨は、赤ちゃんの世話の仕方を教えてほしいとやけに素直に助けを求めた。凪砂くんが若返り始めて二十年。若返り続けた先で彼はそのまま精子と卵子にまで還って死んでしまうのか、それとも赤子になって再び時間を刻み始めるのか、それはこの問題が発覚した時から最大の懸念事項だった。しかし、どうやら結論は後者だったらしい。彼は命を絶やすことなく、再び成長を始めていた。
    「凪砂くん、ぼくとお散歩に行こうね」
    この屋敷で一番日当たりの良い部屋に寝かせていた凪砂くんを抱き抱えて庭に降りる。初夏の陽光を浴びて鮮やかに咲く薔薇園は、かつて彼と二人手を取り合って駆け回った時のまま変わらずに巴の屋敷にあった。赤、ピンク、黄。種類も色もさまざまな薔薇の中を歩いて、ガゼボで少し休憩をする。凪砂くんは順調に育っていて、昨日より今日、今日より明日、毎日少しずつ命の重みを増していた。
    「むかあし、ここでお茶会をしたねえ」
    何かを求めるように彷徨うもみじに人差し指を差し出しながらそう語りかける。あの時はまだ食事のマナーも分からなくて、ケーキを手づかみで食べ始めたからぼくはすっかり驚いてしまった。無表情なのに口の周りをベタベタにしながら黙々と食べ続ける凪砂くんのその自由な姿が面白くて、もしかしたらそちらのほうが美味しく感じるのかもしれないと思って真似してみたら、様子を伺いにきた執事に二人して怒られてしまったのもいい思い出だ。
    「次はここでどんな思い出が増えていくと思う? ねえ、凪砂くん」
    もみじに握りしめられた指を曲げたり伸ばしたりしながら赤子をあやす。凪砂くんは実に彼らしくおとなしい赤ん坊で、茨にお世話の仕方をレクチャーしている年嵩のメイドもこんなお子さんは初めてですと驚いていたほどだ。もしかしたら大人だった頃の記憶があるのかもしれない。脳の構造的に難しいとは思うけれど、なんていったって彼は凪砂くんなのだ。記憶があると言われても、そういうこともあるかもしれないなと納得してしまう雰囲気があった。
    茨はここに帰ってきてから熱心になんらかの研究をしていた。もちろん凪砂くんのお世話が第一ではあるけれど時々どこかに出かけては肩を落として帰ってくる。何をしているかはなんとなく察しがついたけれど、凪砂くんを疎かにするわけではないので口を挟まず好きにさせてやっていた。
    「殿下、こちらでしたか」
    「おや、おかえり茨」
    「ただいま戻りました」
    「あう」
    「閣下も、お出迎えありがとうございます」
    ぼくの指で戯れていた凪砂くんが、ぱっと手を離して茨に反応する。ばたばたと腕を動かすので、ぼくは目で合図して茨に彼を託した。
    「あーあ、やだやだ、凪砂くんはすっかり茨に絡めとられちゃって、今から将来が心配で仕方ないね!」
    「冗談はよしてください」
    「今のを見て冗談だと言い切るきみのほうが冗談みたいだね」
    ぼくは凪砂くんを抱っこしていて固まってしまった体をほぐすように伸びをした。隣では慣れた手つきで茨が凪砂くんをあやしている。もともと小器用な子ではあったけれど、茨もだいぶ赤ちゃんのお世話が板についてきた。
    「……進捗はどう」
    「芳しくありません」
    「そう」
    一瞬あやす手が止まったが、何事もなかったかのように再開する。ぼくも気がつかなかったふりをして言葉を紡ぐ。
    「まあそう焦る必要はないね。きみと凪砂くんに必要なのは二人で一緒にいる時間。ここでゆっくり過ごすといいね」
    「……はい」
    茨の頭をそっと撫でる。嫌がるかと思ったけれど茨は大人しく撫でられたままだった。きゃらきゃらと笑う凪砂くんの声だけが年季の入ったガゼボに響いた。



    5.漣ジュン

    「いばらはどうしてわたしのことをかっかとよぶのだろう」
    しってる? ジュン。
    純粋な二つのガラス玉に見つめられて、オレは少しだけ答えに窮してしまった。ナギ先輩が七つの頃の話だ。
    「えーっと、それは、うーん……」
    「ジュンもしらない?」
    「知らないわけではないんですけど……」
    なんと説明したものかと首を捻ると、答えがもらえると思ったのか心なし瞳が先程よりキラキラしているように見えた。これは間違ったら茨にどやされるなあと思いつつ、ひとまず話を少しだけ逸らしてみる。オレもそこそこ人生経験を積んで、茨曰く“小賢しくも”分が悪い時にかわす技を覚えた、そうだ。
    「ナギ……さくんは、茨になんて呼ばれたいとかあるんですか?」
    「わたし、なまえでよんでほしい」
    ナギ先輩はその小さい手でゆっくりティーカップを持ち上げてこくりと喉を鳴らした。二人でお茶会を開いた回数は、もう両手の指では足りなくなった。オレはお茶会ってタイプじゃないけれど、ナギ先輩はこの家から出られないからちょっと時間がある時や秘密の話がある時はいつもこの庭の隅にあるガゼボに誘われる。お陰でティースタンドの組み立て方もナイフとフォークの位置もすっかり覚えてしまった。
    「みんなわたしのことをなぎさってよんでくれるのに、いばらだけちがうでしょう? りゆうがあるのかとおもって」
    「あー、なるほど」
    「わたしのなまえ、へんなのかな?」
    「そういうことじゃないですよお」
    オレは目の前のケーキをフォークで切り取って口に運ぶ。ナギ先輩も真似してクリームのたっぷり乗ったケーキを一口分切り分けて口元を汚さず綺麗に食べた。ナギ先輩はおひいさんに行儀作法を習っているそうで、食べ方がスマートで上品だ。もっと小さい頃、食べ方が分からず手づかみでキッシュを食べて怒られていたのが懐かしい。
    「なんて言えばいいんすかね、えっと、茨にとって“閣下”は特別な名前なんですよ」
    「わたしのなまえはなぎさなのに?」
    もっともだ。
    「そうなんですけど、うーん、オレがおひいさんのことを“おひいさん”って呼ぶのと同じっていうか」
    「そういえばジュンはどうしてひよりくんのことをなまえでよばないの?」
    「まあそれには深いわけがあって」
    「ふかいわけ」
    何か面白い話の気配を察知したらしいナギ先輩の顔が好奇心で輝いている。こういうところは幾つになってもナギ先輩だなと感じた。一度赤ん坊になって再び成長し始めたなんて聞いた時は目玉が飛び出るほど驚いたが、でも死んでしまうより良かったと思う。アイドルじゃなくても、年がバラバラになっても、それでもやっぱりオレたちは四人でEdenだから。誰が欠けてもそうはならない、オレたちがオレたちの努力で作り上げた楽園。
    「深いわけについてはまたいつか話すとして、“おひいさん”っていうのは、オレの中であの人が一番特別な存在だから、オレはあの人のことを特別なあだ名、特別な呼び方で呼んでるんですよ」
    「いちばんとくべつ」
    「はい。まあ最初は嫌味半分ではあったんですけど……あの時、オレがどん底にいて辛いな、苦しいなって時に助けてくれたのがおひいさんなんです。きっつい扱きもありましたけど、オレの人生をまるっきり変えて、綺麗に着飾って、アイドルにしてくれたのは間違いなくあの人なんで。今ここにオレがいるのはあの人と出会ったからで、だから命をかけても良いって思えるくらいすっごく大事な人なんです」
    「それは、すき、ということ?」
    「そうですねえ、好き、ですけど、多分いろんな意味の好き、だからそう簡単に好きって名前はつけられないですねえ」
    「……よく、わからない」
    「オレも本当はよく分かってないです」
    難しい顔で首を傾げるナギ先輩に、オレも苦笑して肩をすくめる。オレがおひいさんに対して感じている感情を的確に名付けるのは結構難しい。感謝もしてるし、尊敬もしてる。時々めんどいなって思うこともまああるけど、でもあの人が助けてというなら本当に命を差し出しても良いと思ってしまうくらいには大事にしている。その感情をまだ七つのナギ先輩がわかるとは思えない。いくら地頭のいい人だといってもこういうのは経験が物を言う。だから不安に思うことは何もなくて、ナギ先輩はちゃんと茨に大切にされてるってことだけ伝わればいいなと思っている。
    「なんで、茨が凪砂くんのことを閣下って呼ぶのも、この世で一番大切な存在だから自分だけの特別な名前で呼んでるってことなんですよ」
    「そうなんだ」
    「ま、どうしても名前がいい時はそう言ったらいいですよ、あいつは凪砂くんのお願いに弱いですからねえ」
    「誰が誰に弱いですって?」
    「いばら!」
    眉間に皺を寄せて一生懸命オレの話を理解しようとしていたナギ先輩の顔がぱっと華やぐ。おひいさんに仕込まれたマナーも忘れて心のままに椅子から飛び出し茨に思いっきり抱きついた。
    「もうおしごとおわったの?」
    「はい、お待たせして申し訳ありません」
    膝をついて目線を合わせる茨の首に腕を伸ばしてぎゅっと抱きつく。昔よりスキンシップが多くなったのは間違いなくおひいさんのせいだ。おひいさんはナギ先輩に激甘だった。
    「ジュンとのお話はよろしいんですか」
    「うん」
    本当ですか?と目で訴えてくる茨に頷いてやる。
    「ではきちんと片付けをしてから参りましょう」
    「オレが片付けときますよ」
    「ジュン、甘やかさない」
    茨は意外とこういうところがきっちりしている。本人曰くオレとおひいさんがナギ先輩を甘やかすのでその分自分が厳しくしているのだという。
    ナギ先輩の腕を首から引き剥がした茨は、食べたものを片付けるように言い含めてこっちに送り出した。オレは一緒にテーブルの上を片付けながら彼に今の話は二人の秘密ですよ、と小声で付け加える。秘密という言葉にちょっと目を輝かせて、ナギ先輩は小さく頷いた。
    「さあ閣下、行きましょう」
    「きょうはどこにいくの?」
    茨はナギ先輩を諦めていなかった。こんな体質になってしまっていつ命が終わるとも始まるともわからなくなってしまったけれど、あらゆる機関に連絡をとって私財を投入し、彼の肉体を元に戻す研究を進めている。それにもし元に戻らず永遠に成長と若返りを繰り返すことになったとしてもナギ先輩が不自由なく生きていける準備も整えている。あるいはもう一つの可能性も。全部追い求めて全部掴もうとしている。そういうちょっと強欲で、どっちに転んでも得のある選択をし続けるのは茨らしくて、いつまでも変わらないその姿勢が眩しかった。
    「行けるところまで、ですよ」


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    あまや

    TRAINING習作/凪茨(主人公ジュン、下二人メイン)
    ⚠︎パラレル。アイドルしてません
    三人称の練習兼、夏っぽいネタ(ホラー)(詐欺)

    登場人物
    ジュン…幽霊が見える。怖がり
    茨…ジュンの友達。見えない。人外に好かれやすい
    おひいさん…ジュンの知り合い。祓う力がある(※今回は出てきません)
    閣下…茨の保護者
    三連休明けの学校ほど億劫なものはない。期末テストも終わりあとは終業式を残すのみではあるのだが、その数日さえ惜しいほど休暇を待ち遠しく思うのは高校生なら皆そうだろう。ジュンはそんなことを思いながら今日もじりじりと肌を焼く太陽の下、自転車で通学路を進んでいた。休みになれば早起きも、この茹だるような暑さからも解放される。これほど喜ばしいことはない。
    「はよざいまーす」
    所定の駐輪場に止め校舎へ向かっていると、目の前によく知った背中が現れた。ぽん、と肩を叩き彼の顔を覗き込むとそれは三連休の前に見た七種茨の顔とはすっかり変わっていた。
    「ひええ!?」
    「ひとの顔を見てそうそう失礼な人ですね」
    不機嫌そうな声と共にジュンを振り返ったのはおそらく七種茨であろう人物だった。特徴的な髪色と同じくらいの背丈からまず間違いなくそうだろうと思い声をかけたのだから、振り返った顔はジュンのよく知るメガネをかけた、男にしては少し可愛げのある顔のはずだった。が、見えなかったのだ。間違った文字をボールペンでぐるぐると消すように、茨の顔は黒い線でぐるぐる塗りつぶされていた。
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