「いばら」
「は、」
はいと、皆まで言う前に何かが頭から被せられた。パチリとまたたいて、荷物を落とさないように脇にしっかりと挟み視界に影を作るそれを引き抜く。手の中には新聞紙で折られた――兜? 声がした方へ振り向けば、閣下がしてやったり、という顔で笑っていた。
「閣下?」
「今日は端午の節句――こどもの日なんだって」
「そういえばそんなようなことを朝ニュースでも言ってましたね」
「うん。それでね、お昼に忍くんにあって」
「しのぶくん」
「流星隊の」
「ああ、仙石氏ですか」
「そう。それでね、今日、あそび部でこどもの日をやるからよかったら来ないかと誘われて」
「へえ」
「紙粘土で鯉のぼりを作ったり、鬼ごっこをしたりしたんだ。それから、ジュンと一緒に新聞紙でかぶとを作ったり。だから茨にあげようと思って、持ってきた」
「それは……ありがとうございます?」
「うん」
上手に折れてますね、と添えれば得意げな顔をされた。親に褒められた幼稚園児みたいで、もうとっくに成人しているのにおかしかった。きちんと成長段階を踏んでいるということなのだろう。今日も健康で何より。
「一日お仕事お疲れ様。茨が一生懸命働いてくれるから今の私たちがあるよ。だから今日はね、ご褒美があるんだ」
「ご褒美」
「そう、ちまき」
「ちまき」
「こどもの日に食べる食べ物なんだって。夕飯、ジュンと一緒に作ったから、みんなで食べよう」
今日のお仕事は終わりのはずでしょう?
俺のスケジュールをきちんとチェックしている閣下はそう言って脇に挟んだ荷物をするりと奪い取った。
「今日は副所長もプロデューサーもおしまい。今からは十八歳の七種茨だよ」
「なんですかそれ」
不器用なお誘いにくすりと噴き出せば閣下も笑っていた。
「さ、寮に帰ろう」
「はい」
「ところで、自分は一応日本国のルールに従えば成人なのですが」
「男の子の健康を祈る日だから、間違ってないよ」
「さようですか」
「うん。ちまき、椎名くんが作ってくれたんだ」
「それは楽しみですね」
「早く食べたいね」
「そうですね」