「サヨナラ」ダケガ人生ダ 3 辺りには、清涼な朝の空気が漂っていた。何処からか、水の落ちる音が聞こえる。近くに滝がある、と教えてくれたのはエルクと歳の近い音楽に祝福された少年だ。
申し訳程度に舗装された石と土で出来た道を歩く。頭上に広がる夜の気配を淡く残した空を、鷲に似た猛禽が旋回していった。凡そ馴染みのない、けれど何処か今はもう失われた故郷を彷彿とさせる簡素で原始的な家屋の間を通り過ぎて、やがてエルクは切り立った崖に辿り着く。そこには先客がいて、朝日に輪郭を滲ませて佇んでいた。強い風に、長い鉢巻きがたなびいている。暗い色の髪は、日の光が透けて赤みを増し光って見えた。
「アーク」
名前を呼ぶ。声を張り上げたわけではなかったので風に掻き消されてもおかしくなかった。それでも、エルクの呼び声を確かに拾い上げて、彼は振り返った。
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