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    menhir_k

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    漫画で描こうかなと思ったネタなので短いし、最後にプレイしたのがかなり前なのでキャラの口調が絶賛迷子でド別人

    #エルアー
    lar

    「サヨナラ」ダケガ人生ダ花ニ嵐ノタトヘモアルゾ
    「サヨナラ」ダケガ人生ダ





    ***





     薄暗い部屋の中に重低音が響いている。嵌め殺しの窓からは、風の海に泡立つ雲の波がうねって見えた。締め切られた室内は何処からともなく入り込んだ燃料のにおいが漂い、閉塞感で息苦しい。無機質な硬い寝台に横たわるエルクが見上げた先には、無個性に整った顔立ちの少年が浮かび上がるように佇んでいる。
     アークだ。

    「……何でいるんだよ」

     ここはこの艦で俺に宛がわれた部屋だろ。のろのろと上体を起こしながらエルクが訊ねると、アークは小さく肩を竦めた。それから、この部屋のカードキーのスペアを取り出してちらつかせて見せる。

    「うなされる声が廊下まで聞こえた」
    「だからって……この艦にはプライバシーとかないのかよ」

     溜め息交じりに釘を刺した。
     エルクはまだ、この少年のことが少し苦手だった。行動を共にすることを許されている後ろめたさがそうさせるのかも知れない。
     アークは祖国の王を暗殺した容疑で多額の賞金をかけられ、世界的に指名手配をされている。極東の島国の中でも飛び切り辺鄙な片田舎出身だという彼は、露出の少ない異国の装束に身を包み、そぎ落ちた表情のせいで大人びた印象をエルクに与えた。だが、実際の彼の年頃はエルクとそう大して変わらない。そんな彼が大罪の濡れ衣を着せられ、それでも世界を救う勇者として裏舞台で奔走している姿は、実に滑稽な皮肉であるように思えた。
     称賛や喝采どころか、後ろ指を指され石もて追われる日々を送りながら、それでも勇者としての宿命に心身を捧げるアークの在り様が、エルクは不思議でならなかった。それだけではない。エルク自身、酷い誤解で彼を憎んでいた時期があった。その命を狙い、執拗に追い掛けた。
     だが、真実を知り、過ちを認めたエルクを、アークは何も言わず受け容れた。本当に酷い誤解だった。だのに、アークは責めるでもなく、窘めるでもなく、だからといって許すわけでもなく、それどころか最初から自分に向けられた憎悪など存在しなかったかのような無関心さでエルクを受け入れたのだった。そして、そんな彼の態度はエルクを少しだけ面白くない気持ちにさせた。
     誤解のあった気恥ずかしさや後ろめたさも確かにある。けれどそれ以上に、アークの中で、自分が彼を犯罪者だと謗り追い立てる人々と同列に括られているように感じられて、それが気に食わなかった。世界を救う勇者であることを理由に、何かをどうしようもなく諦めているような、そんな彼の態度が嫌だった。

    「まぁ、目が覚めたなら良かった。これ以上うなされることもないだろ」

     素っ気なくアークは告げる。そして踵を返して扉の方へと歩き出した。

    「嫌な夢を見た」

     遠ざかる背中に、エルクは声をかけた。アークは足を止めたが、背を向けたままでいる。

    「……だろうな」

     アークが小さく顎を引く気配がした。訊かれてもいないのに、エルクは言葉を続けた。

    「故郷の焼ける夢だ」

     灰塵の舞う、朱色に染まった空を見た。家畜を潰したときと同じ、真新しい血のにおいを漂わせる大地に倒れ伏した両親を見た。

    「それから、白い家で一緒だった奴らが死んでくときのことも」

     父は死んだ。母は死んだ。ミリルも死んだ。ジーンも死んだ。

    「みんな、俺を置いて死んでく。いつも、俺だけが残される」

     アークは振り返らない。けれど、エルクを置いて部屋を出て行くこともなかった。
     少しの沈黙のあと、「そうだな」と抑揚を欠き、掠れた少年の声が返った。

    「そんだけかよ」

     あまりにも味気ない返答に、エルクは思わず失笑する。そこで、漸く肩越しに覗く鳶色の視線を捉えた。

    「大して言葉を交わしたこともない君に、俺が何を言える。慰めて欲しいならリーザかポコでも呼ぼうか」
    「ひっでぇなぁ。何だよそれ。“俺はエルクを置いて行かない”くらい言えねぇのかよ」
    「……本当にそれ、俺に言って欲しいか?エルクの両親や幼馴染みと同列の扱いは無理があるだろ」
    「……まぁな」

     本当だ。何を言ってるんだ俺は。エルクは頭を抱えた。頭頂部に、アークの溜息が降って来る。いつの間にか、寝台近くにまで戻って来たらしい。顔を上げると、呆れたような、困ったような笑みを浮かべたアークがエルクを見下ろしていた。その表情は、エルクと大して変わらない年相応の少年のものに見えた。

    「それに、そういう無責任なことを俺は言えないし、言わない」
    「……勇者だから?」
    「そう」

     頷いて、アークは寝台に浅く腰掛ける。上掛け越しのエルクの足に、微かな彼の感触が触れた。

    「きっと、必要に迫られたら俺は、君との約束を真っ先に反故にして、世界を救うことを選ぶだろう。少しの迷いもなく」

     アークはエルクの方を見ない。窓から差し込んだ陽光に照らされて、ぼんやりと光る床の明るいとことだけを、睨み付けるように視線を落としている。

    「その結果、もう何度目になるかも分からない別れを突き付けられる君を、置き去りにすることになったとしても」
    「ひっでぇ野郎だな」

     上掛けを跳ね除けると、軽くアークの腕を足蹴にしてエルクは言った。彼はエルクの好きにさせながら、声を上げて笑う。

    「だろ。だから、エルクもこんな酷い男に引っかかるなよ」
    「誰が引っかかるかよ。自惚れんじゃねぇ」

     形容し難い腹立たしさに任せて少し強く蹴り出したエルクの足は、容易くアークの手に捉えられてしまった。苦し紛れに投げ放った枕は空しく宙を舞い、アークの勇者らしからぬ底意地の悪い笑みは崩れない。
     業腹だ。まだ、こんな風に笑うことの出来る彼を生贄に長らえようとしている世界が業腹だ。そんな不条理な世界の仕組みを知りながら、何も出来ない無力な自分が業腹だ。
     歯噛みして、エルクはアークの肩に掴み掛った。
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    menhir_k

    TRAININGア一クにとって工ノレクが世界の縮図なら、工ノレクからの誤解が解けるということは世界からの誤解が(何れ)解けることを示唆していて、それはア一クにとって数少ない報いだったのかなと書き終わってから思ったし、だとしたら工ノレクからア一クへの誤解は報いに至るために必要なものだったのだなぁという謎の気付き(全て仮定と言う名の妄言)
    「サヨナラ」ダケガ人生ダ 2 微かな呻き声が聞こえて、足を止める。不規則な明滅を繰り返す蛍光灯に照らされた廊下には、アークしかいない。それでも、物々しいシルバーノアの駆動音にかき消されてもおかしくないほどのか細く小さなその声を、確かにアークの耳は拾った。拾ってしまった。タイミングの悪さにうんざりする。
     アークは、あまり意識しないようにしていた傍らの扉へと視線を遣った。鉄製の自動扉だ。ロックのかかった扉の向こうの部屋は、最近行動を共にするようになったハンターの少年に与えたものだ。呻き声はこの中から聞こえた。間違いない。
     少年の——エルクの境遇は、大まかにだが知っている。彼から直接聞いたわけではない。だからと言ってアークから積極的に訊ねるわけにもいかない。エルクの過去はそれほどまでにデリケートで過酷だった。そんな彼が、扉一枚隔てたその向こう側で悪夢にうなされている様子は想像に難くない。だからと言って、そう多くの言葉を交わしたことのないアークが、容易に踏み込んで良い領域でもないように思えた。だから、うんざりしたし面倒だった。
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