「サヨナラ」ダケガ人生ダ花ニ嵐ノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
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薄暗い部屋の中に重低音が響いている。嵌め殺しの窓からは、風の海に泡立つ雲の波がうねって見えた。締め切られた室内は何処からともなく入り込んだ燃料のにおいが漂い、閉塞感で息苦しい。無機質な硬い寝台に横たわるエルクが見上げた先には、無個性に整った顔立ちの少年が浮かび上がるように佇んでいる。
アークだ。
「……何でいるんだよ」
ここはこの艦で俺に宛がわれた部屋だろ。のろのろと上体を起こしながらエルクが訊ねると、アークは小さく肩を竦めた。それから、この部屋のカードキーのスペアを取り出してちらつかせて見せる。
「うなされる声が廊下まで聞こえた」
「だからって……この艦にはプライバシーとかないのかよ」
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